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高校年代二冠を獲得した常勝軍団のしなやかなリーダー。山本虎が新たに提示した『青森山田のキャプテン』像 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史青森山田高校・山本虎
腕章を託されてきた歴代の兵たちとは、少し趣が異なる。大声を張り上げて、チームを鼓舞し続けるようなタイプではない。強烈なキャプテンシーで、仲間を牽引するようなタイプでもない。だが、結局はこの男の束ねるグループは、鉄の結束を高め合い、圧倒的な熱量を纏っていった。
「二冠を獲れたというのは、キャプテンとしてもやり遂げた感覚はありますね。楽しかったですし、あっという間でした。苦しいことの方が多かったですけど、日本一を仲間と最後に味わえたので、最高の6年間だったなと思います」
プレミアリーグと高校選手権。高校年代の二冠を鮮やかに達成した青森山田高校が頂いた絶対的キャプテン。山本虎がしなやかに発揮したリーダーシップは、チームを最適な形で、最高の結果へ導いたのだ。
思い出すのはシーズン前の昨年3月。福岡で開催されたサニックス杯でのことだ。正木昌宣監督は“新キャプテン”について、こう言及していた。「みんなが『虎がいい』って言うから。自分は菅澤(凱)とか芝田(玲)あたりもいいのかなと思ったんだけど、虎がチームに対する影響力が一番あるみたいですね」
そんな“新キャプテン”の意気込みも記憶に残っている。「もちろんチームが勝つためにやるのもそうですけど、試合や練習でも『自分がミスしたら失点する』ぐらいの気持ちでやっているので、『チームの中で自分が一番やるんだ』という覚悟を持ってやりたいです。高校に入ってからはずっとケガが多くて、去年も結果を出せなかった分、今年はキャプテンでもあるので、チームとしても結果を出さないといけない1年間だと思っています」。小さくない決意を携えて、高校ラストイヤーへと足を踏み入れた。
プレミアリーグでは前半戦から首位を快走し、好調をキープしていた中で、チームに大きな影を落としたのは旭川で開催された夏のインターハイ。優勝だけを目指していた青森山田は、3回戦で結果的に頂点へと駆け上がる明秀日立高校に、後半アディショナルタイムの決勝点を献上し、早期敗退を突き付けられる。
試合前にベンチ外のメンバーとハイタッチを交わす山本
「三冠を目指していた中で一冠目を落としたというのは凄くショックでしたし、『ここからどうすればいいんだろう……』とは思いましたね」(山本)
印象的だったのは試合後の表情だ。センターバックの相方でもある小泉佳絃が号泣するのに対し、山本は悔しさを噛み締めながらも、ほとんど顔色を変えずに取材陣へ対応していた。今から考えれば、あの時にキャプテンの残された2つのタイトル獲得への覚悟は揺るがないものになったのだろう。
リーグの後半戦もすべてのことがうまく進んだわけではない。柏レイソルU-18には5失点を喫し、ホームで完敗を味わった。首位攻防戦の川崎フロンターレU-18戦には勝利したが、その次の試合では同じく上位対決となった尚志高校戦に0-2で敗れてしまう。勝てば優勝が決まる第21節の昌平高校戦も、終盤の2ゴールで追い付いたとはいえ、大事なゲームでの足踏みを強いられた。
ただ、山本は常に心のど真ん中に確固たる意志を据えていた。それは「満足せずに、過信せずに、良い準備をすること」。チームには芝田玲や菅澤凱をはじめ、闘志を前面に打ち出せるリーダーたちがいた。彼らの意志も尊重しながら、引き締めるところは引き締める。キャプテンを中心にしたグループのバランスも、シーズンを追うごとに整っていった印象も強い。
最終節にきっちり勝利し、2年ぶりに手にしたプレミアEAST王者という肩書を引っ提げて、挑んだプレミアリーグファイナル。向かい合うはWESTを堂々と制したサンフレッチェ広島ユース。強力なアタッカーを揃える相手に先制を許したものの、青森山田が試合を諦めるはずがない。なぜなら、彼らは青森山田だからだ。
最終盤に奪った90分と90+4分の連続ゴールで、劇的な逆転勝利を飾った試合後。山本はチームへの手応えをこう語る。「悪い流れの中でも勝ち切れたことは、今シーズンの自分たちが成長してきたところだと思いますし、正直、負けたら普通に“負け試合”だったので、その中でも最後まで諦めないで勝てたことは良かったですね」
試合終盤。どんどん時間がなくなっていく中でも、最終ラインに立つ4番のキャプテンは至って冷静だった。もちろん周囲へは過不足なく声も掛けつつ、必要以上に仲間を焚きつけることもなく、自分のやるべきことを丁寧に、的確に、こなしていく。その雰囲気がおそらくチームメイトにいつも通りの安心感を与えていたことは想像に難くない。それはきっと山本が1年を掛けて辿り着いた、新たな『青森山田のキャプテン』像だったのではないだろうか。
1月8日。国立競技場。山本は二冠目となる“日本一のカップ”を掲げていた。高校選手権決勝。近江高との試合も先制しながら、後半に入って追い付かれる展開に持ち込まれるも、キャプテンにもチームにも、焦りの色は浮かんでいなかった。
「たぶんプレミアのチームよりも強い相手は絶対にいないと思うので、今日も失点してからは冷静でいられましたね。近江も良いチームでしたけど、プレミアで対戦したフロンターレだったり、尚志やレイソル、サンフレッチェよりは強くないというのはわかっていたので、そういう強い相手とやってきたからこそ、今日も自信を持ってやってこれたのかなと思います」(山本)。
1年間を掛けて強敵たちと肌を合わせ、勝利も敗北も、歓喜も悔恨も、成長も停滞も、あらゆることを体感してきたプレミアリーグでの経験は、気付けばそこで戦ってきた彼らも驚くほどに、自分たちを成長させてくれていたのだろう。
前述した昨年3月に、山本が話していた言葉を思い出す。「2年前は(松木)玖生さんがキャプテンでしたけど、練習から玖生さんにも(宇野)禅斗さんや(藤森)颯太さんがダメな時はダメと言っていましたし、そういうのを許さない集団が強くなると思っていたので、自分たちの代も王様はいらないんです」
『王様はいらない』というフレーズに、この男の描くリーダー像が顔を覗かせる。大声を張り上げて、チームを鼓舞し続けるようなタイプではない。強烈なキャプテンシーで、仲間を牽引するようなタイプでもない。だが、結局はこの男の束ねるグループは、鉄の結束を高め合い、圧倒的な熱量を纏っていった。
新たな『青森山田のキャプテン』像を築いた山本虎の存在は、堂々と二冠を達成した2023年の青森山田にとっては、絶対に必要不可欠だったのだ。
プレミアリーグファイナルの表彰式。山本が日本一のカップを掲げる!
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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