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若き紫熊が志向した新スタイルの圧倒的体現者。サンフレッチェ広島ユース・石原未蘭が体感した自身とチームの大きな成長 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史サンフレッチェ広島ユース・石原未蘭
その役割は右サイドバックの枠になんて収まらない。ビルドアップの起点になったかと思えば、ピッチの中央で相手のカウンターをいち早く潰し、さらにサイドを駆け上がってクロスを上げる。その上、キャプテンマークを巻いてチームを牽引し続けるのだから、その貢献度はとにかく驚異的なレベルだ。
「去年と比べたらおとなしいチームだったんですけど、まとまりが凄くて、本当に良いチームになりましたし、自分は頼りないキャプテンだったのに、みんなが最後まで付いてきてくれたことに対して、本当に感謝しています」
プレミアリーグWESTを力強く制したサンフレッチェ広島ユースが誇る不動のキャプテン。石原未蘭は自分の遂げた大きな成長と、このグループが掴んでいった大きな成長への自信を胸に、ネクストステージへと羽ばたいていく。
2023年シーズンの石原は一貫して右サイドバックを務めていたが、その前シーズンで任されていたのは左サイドバック。そもそも左右が変わったことに加えて、新指揮官の野田知監督が新たなビルドアップの仕組みを施しても、苦もなく順応していくあたりに元来のサッカーIQの高さが垣間見える。
シーズンがまだ始まったばかりの5月。チームのスタイルを尋ねると「どういうスタイルなんですかね?」と笑いながら、「前からボールを奪いに行くのは去年から変わっていなくて、そこからショートカウンターもできますし、ボールも持てるので、そこは合わさっているかなと思います」とも続ける。
チーム内でサイドバックに求められる役割も明らかに変わっており、内側を取る回数も格段に増え、攻撃の組み立てにも積極的に参加するタスクを担うことになったが、「1人1人やることが去年より多いので、そこはやっていて楽しいですね。自分もサイドに入った時にも関われますし、インサイドでもプレーできるので、そこは去年と比べて成長しているかなと思います」とポジティブな発言も。シーズンを追うごとに完成度を高めていったスタイルの構築に、このキャプテンは間違いなく必要不可欠だった。
ファイナルの表彰台に上がった石原。準優勝の悔しさが滲む
チームにとって大きなターニングポイントになったのは、夏のクラブユース選手権だったという。グループステージこそ無敗で勝ち抜けたものの、ラウンド16でガンバ大阪ユースの前に敗退。「あの負けがチームを強くしたと思います。あの夏の大会を機に、全員がファイナルの舞台に立ってプレミアで優勝するということを目標にしてきたので」と石原も振り返るように、夏の日本一を逃した経験を得て、冬の日本一への想いをより強く心に刻み込んだというわけだ。
確かに後期は大勝する試合も見られたが、粘り強く勝ち点を引き寄せる試合も少なくなかった。「やっぱり優勝するためには内容より結果だと思うので、前期は内容が良くても勝てない試合もありましたけど、後期は結果を求めてやり続けてきたことも大きかったと思います」。キャプテンもグループが纏い始めた勝負強さを実感していた。
実はリーグ終盤戦に差し掛かったタイミングで、広島ユースはビルドアップの形をもう一段階進化させていた。両サイドバックはボランチの位置で並ぶような位置を取り、ボールを落ち着かせながら、全体のバランスを維持する任務も与えられる。
さらに増えた“やるべきこと”。だが、そのトライは石原に一層の楽しさをもたらしていた。「自分は中学生の頃からボランチもやっていて、中盤の位置に入ってやることに違和感はなかったので、サイドバックもしながらボランチの位置もこなすのは、やっていて本当に楽しかったですし、逆にもうこのやり方が好きになるぐらい、野田さんが1年間を通して考えてやらせてくれたので、野田さんには本当に感謝しています」。指揮官もこの右サイドバックの遂行力には、大いに感謝していたに違いない。
充実したシーズンを締めくくる最後の試合は、埼玉スタジアム2002がその舞台。最終節で劇的にWEST優勝を成し遂げ、迎えたプレミアリーグファイナル。EAST王者の青森山田高校を相手に、サポーターの大声援にも後押しされた若き紫熊たちは緑の芝生の上で躍動したが、結果は1-2の逆転負け。夏の屈辱からみんなで目指してきたタイトルには、あと一歩及ばなかった。
「ファイナルの舞台で、埼玉スタジアムで戦えたことを凄く誇りに思います。開幕戦に2-5で敗れた時は、正直優勝できるとは誰も想像していなかったと思うんですけど、ここまで来ることができて良かったです」。取材エリアに現れた石原は、いつも通りの毅然とした表情で言葉を紡ぐ。
「自分がこの1年間求め続けたことは『喋ること』で、チームミーティングの中でも『自分の意見を言ってほしい』ということはずっと言い続けてきたので、本当にどんどんチームとしては喋れるようになってきたんです。その中で1,2年生が元気良くパワーを持ってやってくれたので、本当に3年生としては助かりました」。後輩たちに労いのメッセージを贈るあたりにも、リーダーとしての発言に対する自覚が現れる。
それでも、零れ落ちた言葉に少しだけ本音が滲んだ。「キャプテンとして大変なことは本当に多かったですね。もうちょっとパワーを出したり、意見を言い合えるチームを作り上げていきたかったとは思いますけど、ここまで来れたので悔いはないですし、チームメイトに助けられてここまでやってこれたので、キャプテンになって良かったなと思っています」。
昨年末にはU-18日本代表に選出され、初めての年代別代表も経験した。プレミアファイナルで対峙した青森山田の選手たちも、その高い対人能力に言及していたほど。個人としてのさらなるステップアップも期待される、リーダーシップも兼ね備えた現代型サイドバック。ここから前へと進んでいくキャリアの先でも、目の前に現れる困難の扉をしなやかにこじ開けていく石原未蘭の姿は、はっきりと想像できる。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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