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天皇杯決勝 川崎フロンターレ vs 柏レイソル
第103回天皇杯全日本サッカー選手権大会で、川崎フロンターレがPK戦の末に柏レイソルを下して、3年ぶり2度目の優勝を遂げた。
PK戦ももつれにもつれ、最後は10人目のキッカーとなった川崎のGK鄭成龍(チョン・ソンリョン)が素晴らしいキックを決め、直後に柏のGK松本健太のキックをストップして劇的な形でヒーローとなった(柏の古賀太陽が負傷でキックできる状態でなかったため、10人ずつのPK戦となった)。
天皇杯決勝 川崎フロンターレ vs 柏レイソル
最後まで残留争いに巻き込まれ、J1リーグで17位に終わった柏としては「大健闘」と言っていいだろう。
もっとも、昨年はJ2リーグで18位のヴァンフォーレ甲府が優勝しているのだから、柏の決勝進出自体はカップ戦では珍しいことではない。しかし、柏は試合内容としても川崎を圧倒。この数年いくつものタイトルを取ってきた、あの川崎をあと一歩まで追い詰めたのだ。
公式記録によれば、シュート数は柏の19本に対して川崎は半分以下の7本。とくに、前半45分のシュート数は11本対1本と柏が圧倒した。
柏はキックオフ直後からロングボールを使って川崎陣内に進入。2分には最終ラインから縦に入れたボールをツートップの一角、細谷真大が走り込んで最初のチャンスをつかんだ(細谷のクロスがブロックされてCKを獲得)。
さらに7分にはやはり右サイドに入れた深いボールを、今度はもう1人のFW山田康太が走り込んで川崎ゴールを脅かした(ここは、川崎のDF山村和也がタッチに逃げた)。
柏は猛攻を仕掛け、多くのCKを獲得。15分にマテウス・サヴィオが蹴った左CKに椎橋慧也がうまく頭で合わせたが、シュートはわずかに右にはずれた。
川崎といえば、「パス・サッカー」がその代名詞である。
けっして攻め急がず、徹底してパスを回して相手陣内にスペースを作って一気に攻めかかる。だが、攻める糸口が見つからないと見れば、すぐにボールを下げて攻めなおす作業を何度でも丁寧に繰り返す……。それが、川崎のサッカーだ。
だが、柏の攻勢に押し込まれた川崎は、チャンスを作るどころか、ボールをキープすることすらできなくなってしまった。
柏がこうした展開に持ち込めた最大の功労者は、細谷と山田の若きツートップだった。
22歳の細谷は今シーズン、フィジカル面で成長し、前線でDFと競りながらボールを収めたり、DFとDFの間を強引に突破する力強さを身に着けた。一方、24歳の山田はスピードを生かして相手DFラインの背後を狙う選手だ。
天皇杯決勝 川崎フロンターレ vs 柏レイソル
柏はこの2人のトップに意識的に長いボールを入れて、2人は相手のラインの裏を狙い続けることで川崎の守備ラインを押し下げることに成功。同時に、前線でプレスをかけ続けて、守備にも大いに貢献した。
最終ラインが下げられてしまったことで、川崎は中盤で選手間の距離が開いてしまった。そのため、川崎はいつものように短いパスをつなぐことができなくなってしまったのだ。そして、パスを回せなくなったため、柏にボールを回収され、再びトップに長いボールを入れられて、川崎は最終ラインを上げることもできなくなってしまった。
川崎の鬼木達監督は、「前半は我慢することしかできなかった」と振り返った。
そして、川崎は中央を固めて実際に我慢しきってみせた。
柏は前半だけで11本のシュートを放ったのだが、決定的なチャンスとしては先ほど触れた椎橋のヘディングシュートくらいのもの。あとは、遠目からのあまり可能性を感じさせないミドルシュートだったり、川崎のDFにブロックされるばかりだった。
柏はキックオフ直後から、攻守ともにかなりアグレッシブに戦っていた。だから、川崎サイドとしては「無失点で切り抜ければ、いずれ柏の足が止まる。そこで仕留められるだろう」という気持ちもあったはずだ。
だが、柏の選手たちは後半になっても足を止めることはなかった。
川崎が攻める形を作り始めてからも、柏も常に攻撃的なマインドを持ち続け、激しいボールの奪い合い、そして一進一退の攻防が続くことになる。
もちろん、柏の選手たちに疲労の色は濃った。そのため、パスの精度は前半より落ちた。だが、足だけは止まらなかったし、終盤には井原正巳監督が交代を使いながら、チーム全体の勢いが失われることを防いだ。
こうして、試合は0対0のまま90分が終了。川崎は後半から小林悠や遠野大弥など攻撃的な選手を入れ、延長後半には元フランス代表バフェティンビ・ゴミスも投入するが、結局、120分戦った両チームはゴールを割ることはできなかった。
天皇杯決勝 川崎フロンターレ vs 柏レイソル
柏はJ1リーグ第31節から最終節までで4連続して引き分けている。そして、J1リーグ34試合のうち引き分け数はなんと15試合に達している。井原監督就任以降、守備面で安定感は増したが、攻めきれずに引き分ける試合が多かったのだ(もっとも、そこで1ポイントずつ拾い続けた勝点が最後は残留につながったのだが……)。
一方、川崎もかつてのような圧倒的な攻撃力は影を潜め、点が取れずに泣いた試合が多かった。
つまり、攻め合った末にスコアレスドローというのは、今シーズンの両チームのチーム状況を反映した結果でもあった(天皇杯決勝がスコアレスドローに終わったのは、1990年度の第70回大会の松下電器対日産自動車戦以来)。
だが、柏レイソルは試合に敗れたわけではなかった。いや、試合内容ではむしろ川崎を上回っていたのだ。この貴重な経験と、悔しさ、そして川崎と互角以上に戦ったという自信。それは、必ずや来シーズン以降につながっていくことだろう。
柏の大善戦に貢献した細谷と山田の若きツートップにとっても素晴らしい経験だったはずだ。
細谷はパリ・オリンピックを目指すU-22日本代表のストライカーだが、11月のワールドカップ・アジア2次予選で森保一監督率いる日本代表に招集され、2024年1月1日に行われるタイとの試合でも代表入りを果たした。森保監督が視察に訪れた天皇杯決勝戦でも、その成長ぶりは十分に見せつけたので、これから代表に定着していくことは確実だろう。
ただ、惜しかったのは決勝戦の後半と延長戦にあった2度の決定機を決められなかったこと。
69分にはロングボールを受けてDF(大南拓磨)をかわしてフリーになったのだが、大南との接触でバランスを崩してボールコントロールが大きくなり、GKの鄭成龍にクリアされてしまった。そして、99分には鄭成龍と完全に1対1になったものの、シュートを2度にわたってブロックされてしまった。素早くボールに体を寄せてシュートコースを狭めた鄭成龍のプレーを褒めるべきではあるが、日本のエースストライカーとなるには、やはりこういう場面で確実に決められるようになる必要がある。
天皇杯決勝 川崎フロンターレ vs 柏レイソル
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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