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サッカー フットサル コラム 2023年12月5日

届かなかったファイナルへの残心。それでも川崎フロンターレU-18・由井航太は新しい航海へ漕ぎ出していく 高円宮杯プレミアリーグEAST 川崎フロンターレU-18×尚志高校マッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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川崎フロンターレU-18・由井航太

素直な男だと思う。基本的には人と同じようなことは言いたくないタイプ。ただ、少し斜に構えるようなポーズは、あくまでも照れ隠しの現れだ。3月。今シーズンの目標を尋ねると、こういう答えを返してきた。

「まずはチームとして結果を出すことですね。個人のことも大事ですけど、やっぱりチームが勝ってナンボだと思うので、チームのことを一番に考えながら、個人としてはチームで一番の選手で居続けたいなということが一番の目標ですし、今年は公式戦、練習試合含めて、すべての試合で勝ちたいなと思っています」。

これはJ SPORTSのシーズンプレビュー番組のインタビューで聞いた話。その前に昨年のプレミアリーグファイナルの話題に触れていたため、ディレクターの意図はわかっていながら、あえてそこをはぐらかしたような答えが個人的には面白かった。ちなみにインタビュー後、わざわざ「期待されているようなことは言わないですよ」という言葉を悪戯っぽい笑顔で添えるあたりに、本来の人好きのする性格も垣間見えた。

あるいは、そんな目標はあえて口に出すまでもないから、とも言えよう。2022年のプレミアリーグファイナル。EAST王者として国立競技場のピッチに立った川崎フロンターレU-18は、WEST王者のサガン鳥栖U-18に2-3で競り負け、あと一歩で日本一のタイトルを逃してしまう。

由井には忘れられないシーンがある。1点のビハインドを追い掛けていた63分。中盤でパスを受けたものの、前を向こうとした瞬間に相手のキャプテンであり、現在はバイエルン・ミュンヘンでプレーしている福井太智にボールをかっさらわれると、そのままゴールを叩き込まれてしまう。

「受けた時はメチャメチャ自信があって、かわせるなと思ったのに、直前で判断を変えて、違うプレーを迷って選択してしまったので、あのぐらいの選手になると見逃してくれなかったなと思います」。試合後の表彰式でも涙は止まらない。

「自分のせいで負けました」と責任を背負い込む“後輩”の姿を近くで見ていた大関友翔は、昨シーズンの総括インタビューで「由井は、ファイナルが終わってからずっと泣いていたので、本当に頑張ってほしいです。今年1年は由井がいたからこそ自分のプレーが出せた部分も多かったので、来年はチームを引っ張って、ファイナルで悔しさを晴らせるように頑張ってほしいなと、個人的には凄く思っています」と話している。

『ファイナルで雪辱を』。強い想いを心の中心にそっと抱えて、由井はアカデミーでのラストイヤーとなる2023年シーズンをスタートさせた。

「前期はボランチで山田戦まで出ていましたけど、そこまでもまったく良いプレーができなかったですし、今年は正直あまり成長していないと思っています」。それまでスタメンでプレミアリーグに出続けていた由井の名前は、第7節の青森山田高校戦を境にメンバー表から消える。

8月21日にはトップチーム昇格が発表され、後半戦に入ると再び戦列に戻ってきたが、再開初戦となった第12節の大宮アルディージャU18戦こそボランチでスタメン出場したものの、次節の流通経済大柏高校戦からはセンターバックで起用され始める。

もともとU-15でも3年生になるまではセンターバックが本職。対人の強さを発揮しつつ、U-18でより身に着けてきた足元の技術を生かしたビルドアップもごくごくスムーズ。勝手を知ったポジションで躍動しているようにも映っていたが、本人の解釈は周囲が抱いていたはずの印象と大きく異なっていたようだ。

「正直センターバックを任されているというよりは、ボランチが(矢越)幹都と(尾川)丈で固まっているから、そこに自分が入れないだけで、自分が監督だったら土屋(櫂大)と林(駿佑)を出していると思います。だから、ヤスさん(長橋康弘監督)やコーチ陣に申し訳ないなというのが一番です」。

由井が離脱している間に、1.5列目からボランチにコンバートされた尾川丈と、2年生ながらスケールの大きなプレーも印象的な矢越幹都が台頭。センターバックではU-17ワールドカップでも活躍した土屋櫂大と、落ち着いたプレーも際立つ1年生の林駿佑が奮闘していた。

とはいえ、由井がピッチで醸し出す存在感はやはり絶大。長橋監督もセンターバックで起用する理由について、「最初はケガ人などのチーム事情もありましたが、プレーをしながら凄く守備の部分がしっかりしてきたことと、本人とも『いずれボランチに戻っても、この経験は絶対プラスに働くよ』と話しながら、前向きにトレーニングしてくれています」と言及している。要は自分に厳しい男なのだ。

それでも本人が拭えないのは「自分がプロ昇格内定とか3年生だから出ているだけ」という想い。自己評価に思い悩む難しいメンタルの中でも試合に出続けていた日々を、「そこはもう頑張って気持ちを保つしかないと。自分を出してくれているヤスさんの意向も感じていたので、チームを引っ張っていかなきゃいけないなと思っていましたし、それで試合に出られていない林もいるからには変なプレーはできないので、そこは何とか頑張りました」と正直に振り返っている。

優勝の可能性を残して、2位で迎えた最終節。3位の尚志高校と対峙する等々力陸上競技場のピッチには、センターバックとしてスタメンで登場する由井の姿があった。試合は尚志が前半のうちに先制。以降は川崎U-18が押し気味に進め、後半開始早々に追い付いたものの、そこからはなかなか次の1点が奪えない。

「1-1に追い付いて、流れ的には完全にこっちだったと思うので、そこで2点、3点行こうというのはみんな考えていましたけど、なかなか点が獲れない中で自分たち守備陣も慌ててしまって、ああいう失点が起きたのかなと思います」。82分にゴールを挙げたのは尚志。以降もホームチームは懸命に攻めたものの、試合は1-2でタイムアップ。川崎U‐18が目指してきた、1年前のリベンジを期すファイナル進出は、叶わなかった。

「尚志もこの試合に懸ける想いというのが凄く伝わってきて、でも、自分たちも気持ちの面では負けていなかったと思うので、単純に負けたのは実力です」。ホーム最終戦のセレモニーを終えて、取材陣の前に現れた由井はいつも通りの雰囲気で、淡々と、時には笑顔を浮かべて話を重ねていく。

ただ、ファイナル進出を逃したことについて触れられると、少し声を詰まらせながら、こう言葉を紡いだ。「うーん、やっぱり悔しいし、去年は本当に先輩たちに迷惑を掛けたなと思っていて……、本当に今年も行きたかったですけど、行けないのが今年のチームの実力なので、しょうがないなと思います……」。

やはり脳裏をよぎったのは、1年前に国立競技場で涙を流していた先輩たちの姿だろうか。そのリベンジを自分が果たすという目標には到達できなかったが、それでも由井にはJリーガーとして、突き付けられてきた悔しさを糧に、成長し続けるための舞台が用意されている。

感傷的になりかけたものの、すぐにいつものペースを取り戻すと、大人たちの笑いを誘いながら残された高校生活にも言及する。「まずはこのユースが終わったなというのを1週間か2週間ぐらい噛み締めて、余韻に浸りたいです。学校も12月ぐらいまでしか行けないですし、やっぱりあまり青春できなかったので、青春したいですね(笑)」。

その先には、すぐにルーキーとして臨む2024年が待っている。「小学生の頃から10年間フロンターレにいて、『これが当たり前かな』と正直思っていたんですけど、他のクラブを見てもこんな良い影響を与えてくれる人たちはいないと思うので、本当に感謝していますし、自分はこれからもこのクラブでプレーすることができるわけで、そういう感謝を結果で示したいと思っています」。

その才能に疑いの余地はない。フロンターレが10年間を掛けて大切に育んできた、未来のスター候補。由井航太は多くの人の期待を背負い、プロサッカー選手としての新しい航海へ、凛として漕ぎ出していく。

来シーズンからはプロの世界に飛び込んでいく

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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