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サッカー フットサル コラム 2023年12月5日

アトレティコ・マドリーを混乱の渦へと突き落としたバルセロナが優勝争いに踏みとどまる

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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決勝点を挙げたジョアン・フェリックス

決勝点を挙げたジョアン・フェリックス

「前半を捨ててしまった。なぜだかわからない。勝ちに行くプランだったのに。誰もボールを欲しがらず、誰もボールをプレーしようとしなかった」

試合後にオブラクは言った。

バルセロナがアトレティコ・マドリーとの決戦を制し優勝争いに踏みとどまった。結果こそ1-0だったが、内容的には2点差、3点差が付いてもおかしくなかった。

オブラクが描写したのは12分から前半一杯までのチームの様子だったろう。

「なぜだかわからない」という疑問の答えは、シンプルに「パニックに陥っていたから」だと思う。

12分に4度目の決定的なチャンスを作られた後、アトレティコ・マドリーはもう前に出るべきか後ろで待つべきかわからなくなっていた。シメオネが立てた「勝ちに行くプラン」とは「前へ行く」という意味で、2トップのグリーズマンとモラタはバックパスを追っていたが、中盤のコケ、デ・パウル、ジョレンテの出足は鈍く、DFライン5人の足はすでに止まっていた。

どんなゲームプランでも、シメオネが「前へ出ろ」、「ボールを繋げ」といくら叫んでも、失点の脅威の前には下がってゴール前を固めてしまうのが、「人間の本能」というもの。前の選手が上がって中盤以下が上がらない戦術的チグハグが起こるとスペースが生まれる。

28分の決勝点は恐怖が迷いを生み、生れたスペースを突かれたものだった。

前線は闇雲にプレスを掛けた。自陣に籠っている状態から相手のバックパスを追ったのだから成功率はゼロに近かったが、とにもかくにもそれがゲームプランであった。結果、プレスは空振りに終わり、生まれた大きなスペースにペドリが下がって来た。ヒメネスはCBでありながらペドリを深追い。ペドリはワンタッチでサイドのクンデにさばく。クンデからボールをもらったラフィーニャがスペースを横走りしてフェリックスへ。モリーナがプレスを空振りしてフェリックスがGKと1対1に。浮かしたシュートが飛び出したオブラクの頭上を美しく越え、ネットを揺らす……。

バルセロナはプレスを計3波かわした。

かわす度に相手は排除されて守備者の数が少なくなっていく。第一波をかわして2トップを排除し、第二波をかわしてヒメネスを排除し、第三波をかわしてモリーナを排除した。単純に言えば、前を向いてボールをプレーできる選手の数はバルセロナが11人なのに対してアトレティコ・マドリーは7人だった(残り4人は絶望的な背走中)。

これだけの数的不利では普通は失点する。

この失点シーンの守備側の正解は「前に出ず、後ろに止まれ」だった。2トップもヒメネスも自重すべきだった。モリーナのプレスは正解だったが、足先でなく体ごとぶつかるべきだった。

もっとも、「正解」は外から見てればわかるが、当事者はそれどころではない。

プランが通用せず、「こんなはずじゃない!」と誰もが混乱している状態で、全員が足並みそろえて正しい判断をする確率はほぼゼロ。外にいるシメオネの指示だって全然間に合わない。「やばい!」と思った次の瞬間にネットが揺れている。ボールが動いている間、監督は完全に部外者なのだ。

バルセロナの今季最高のプレスのインテンシティがアトレティコ・マドリーを上回った。最高のフェリックス、ペドリ、ギュンドアン、アラウホ、クンデらが、最低のコケ、エルモソ、モリーナ、リケルメらを簡単に退けた。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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