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3419人の観客が集まった等々力陸上競技場
J1リーグは最終節を迎えたが、すでにヴィッセル神戸の優勝は決まっており、残留争いも事実上、横浜FCの降格が決まっていた(17位の柏レイソルに勝点で追いつくことはできるが、得失点差を考えると逆転残留の可能性はなかった)。
そんなわけでJ1リーグ最終節は盛り上がりを欠き、週末の話題はもっぱら東京ヴェルディの16シーズンぶりのJ1復帰に集中した。東京Vにはそれだけの“ブランド力”と集客力が残っているのかもしれない。
さて、そんな中で12月3日の日曜日の午後には川崎市の等々力陸上競技場に3419人の観客が集まった。高円宮杯U-18プレミアリーグEASTの第22節(最終節)の川崎フロンターレU-18対尚志高校の一戦だった。
最終節であり、また2位の川崎と3位の尚志高の直接対決。そして、何よりも優勝の可能性を残した同士の激突だった。
プレミアリーグEASTでは青森山田高校が首位を走っており、第21節の昌平高校とのアウェーゲームに勝利すれば、すんなり青森山田の優勝が決まるはずだった。7月のホームゲームでは5対1で勝利している相手だった。
だが、青森山田は後半の83分、87分に連続失点。その後、2点を返して引き分けに持ち込んだあたりはさすがだが、引き分けに終わって優勝決定が持ち越しとなってしまったのだ。勝負強さが持ち味の青森山田としては「痛恨の」引き分けだったろう。
そして、第21節で勝利した2位の川崎と3位の尚志高が青森山田との勝点差を「2」に詰めたのだ。
最終節で青森山田が敗れて川崎か尚志高が勝利すれば、勝点で上回って逆転優勝。青森山田が引き分けに終わった場合は、川崎対尚志高の勝者と勝点で並ぶが、川崎が勝利した場合には青森山田を得失点差で上回るので優勝。尚志高が勝利した場合は、両者の最終節での得失点による微妙な争いとなるはずだった。
青森山田の最終節はFC東京U-18。今シーズンのFC東京は低迷しているが、青森山田とはこれまで何度も優勝争いを繰り広げたことのある宿敵だ。実際、FC東京は第4節に青森山田に2対0で勝利している。
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【ハイライト】川崎フロンターレU-18 vs. 尚志高校|高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ2023 EAST 第22節
こうして最終節は3チームが絡む優勝争いとなった。それで、等々力陸上競技場には川崎の逆転優勝を見ようと、3000人を超える多くのサポーターが集まったというわけである。
川崎は、11月に行われたU-18ワールドカップの日本代表に土屋櫂大と柴田翔太郎という2人のDFを送り出した。センターバックの土屋は日本代表が戦った全4試合に先発フル出場。そして、右サイドバックの柴田も2戦目以降は先発し、アルゼンチン戦とセネガル戦では右からのクロスで高岡伶颯の得点をアシストしている。
17歳の土屋とセンターバックでコンビを組むのは、今シーズンすでに2種登録されており、来シーズンのトップ昇格が決まっている由井航太。由井と土屋の2人のCBの守備力と、そして彼らの前線の選手に付ける正確なフィードは今年の川崎U-18の屋台骨ということになる。
中盤(ボランチ)には尾川の展開力に優れた矢越幹都がいて、左右にボールを散らし、右の志村海里、左の岡野一恭平がドリブルで仕掛ける。
川崎は、よく出来たチームだった。
その川崎がキックオフ直後からボールを支配して攻撃をしかけたのだが、10分過ぎに尚志高が反撃に移り、13分に左CKを獲得。川崎はCK時にはゾーンディフェンスで守っていたが、ゴール前での尚志高の選手たちが大きく動くのを捕まえきれず、1本目は市川和弥のヘディングを川崎のGK濱崎知康が防いだものの、2本目でゴール前に混戦を作られ、最後は笹生悠太に決められてしまう。
その後は、川崎の一方的な試合となった。ボールを奪われてもトランジションの速さですぐに回収。左右にボールを散らし、中盤でつなぎ、ゴールに迫っていく。
だが、190センチ82キロという渡邉優空を中心とした尚志高の強い守備をどうしても突破できず、遠目からのシュートも枠を捉えきれない。
後半に入って49分にはロングボールを追ったFWの岡崎寅太郎が相手のDFと交錯しながらループシュートを決めて川崎は同点とするが、その後の怒涛の攻撃も実らず、シュートもGKの正面に飛んでしまう。
そして、60分を過ぎると、尚志高が反撃に移る。まるで、それまでは死んだふりをしていたかのような効率的な攻撃だった。とくに、右サイドのドリブラー若林来希がしかけ、右サイドバックの冨岡和真が追い越していく縦に速い攻撃と、左右のサイドチェンジが有効だった。
徹底的にパスをつなぐ川崎の攻撃に対し、シンプルでスピードのある尚志高の攻撃が対照的だった。そして、やはり右サイドの若林のクロスから形を作った尚志高は最後はFWの網代陽勇が混戦の中から決めて再び勝ち越し、そのまま逃げ切った。
90分を通じたシュート数は川崎の13本に対して尚志高が10本。ボール支配率の差に比べると、シュート数もCKの数も両者の差は小さかった。尚志高がシンプルな攻めで相手ゴールに迫ったからこそ、こういう数字になったのだろう。つまり、ともに持ち味を出した試合だったと言える。
川崎としては、あれだけ攻撃を仕掛けながら相手の中央の守備を突破できなかったことが敗因。突破を仕掛けては、屈強な相手DF陣に跳ね返され続けた90分だった。
川崎のツートップの岡崎と高橋宗杜はいずれも175センチ前後と小柄で動き回るタイプのFWだったが、1人大型で相手のDFと競り合いながらボールを収められるFWがいたら攻撃の幅も大きくなったはずだ。
今や世界のトップを狙おうという日本代表でも、いわゆるCFタイプのFWがいないのが弱点の一つだった。また、U-17日本代表はアジアカップでは大量得点を奪ったが、先日のU-17ワールドカップでは攻撃陣はスピードでもパワーでも世界相手に通用しなかった。
守備や中盤は戦術に忠実で勤勉な日本人の良さが生きるが、やはり攻撃陣には「個の力」が必要なのだということを痛感させられたのだが、川崎フロンターレU-18の攻撃が跳ね返され続けるのを見ていて、そんなことを思い出させられた。
尚志高は見事な試合運びで川崎を破った。だが、同時刻に行われていた試合で青森山田がFC東京U-18を2対0で破ったため、優勝は青森山田と決まった。
同日に行われたプリンスリーグWEST最終節でも、EASTと同じように3チームが絡む優勝争いが繰り広げられたが、前節まで首位にいたサンフレッチェ広島F.C.ユースがそのまま優勝を決め、来週には青森山田高と広島の間でプレミアリーグファイナルが行われる。
U-18年代のトップを決める試合だ。「個の力」の躍動に期待したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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