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再会は“いつものグラウンド”で。土谷飛雅と芝田玲が向かい合った特別な90分間 高円宮杯プレミアリーグEAST 昌平高校×青森山田高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史マッチアップを繰り広げる昌平高校・土谷飛雅と青森山田高校・芝田玲
「玲とはずっと電車でも一緒に通っていて、ここで練習も一緒にして、バチバチやり合った仲ですけど、やっぱり山田に行ってフィジカルの部分が強くなっていましたし、タフなゲームができて凄く楽しかったです」(昌平高校・土谷飛雅)「飛雅は日常からずっと一緒にいましたし、一緒に電車で通ってもいたので、凄く思い出深い試合にはなりましたけど、ここで優勝したかったなという想いが強いですね」(青森山田高校・芝田玲)
プレミアリーグEAST第21節。青森山田高校は勝利すれば2年ぶりのリーグ優勝が決まる一戦を迎えていたが、チームの10番を背負う芝田玲は昌平高校のアウェイに乗り込むこの90分間に、強い想いを抱いていた。
「1年間のリーグ表を見た時に、昌平との試合が最後から2節目ということで、自分の中では『ここに優勝の可能性を持っていけたら最高だな』とは思っていました」と口にするのには、はっきりとした理由がある。芝田は中学生時代に、昌平へと多くの選手が進学することでも知られているFC LAVIDAでプレーしていたからだ。
この日の昌平のメンバー表を見ると、18人中14人までの前所属チームはFC LAVIDA。そのうちの9人は芝田と同じ3年生であり、中でも同じ栃木出身の土谷飛雅とは、一緒の電車で練習へと通い続けた関係性もあって、とりわけ仲が良かったという。
「玲とは結構連絡を取り合っていて、それこそ最近ではなくて結構前から『昌平で優勝決めるわ』と言っていましたし、昨日電話した時にも言ってきたんですけど、そこは絶対に阻止しなきゃいけなかったので、気合は入りました」と土谷。もちろん目の前で優勝の歓喜を爆発させるわけにはいかない。それは彼だけではなく、昌平の選手たちの共通認識であったことは想像に難くない。
“今のチームメイト”も、その想いはハッキリと感じていた。青森山田のリーダーの1人でもある菅澤凱の言葉が印象深い。「玲はLAVIDAでやっていて、今日は“古巣対決”という感じで、今週も玲が『本当に勝ちたい』という強い気持ちを練習から出してくれていたので、僕自身昌平さんのサッカーは本当に凄いと思いますけど、そういう相手に絶対に負けたくないという想いはありました」。
試合が始まると戴冠へのプレッシャーからか、青森山田の選手たちの動きが硬い。「『いつも通りやろう』と思っていたんですけど、やっぱり自分も結構硬くて、なかなかその硬さがぬぐい切れなかったなと思います」と芝田が話せば、「控え室にいる時も、アップが終わってベンチにいる時も、ほとんど会話もせずに、笑顔もないですし、そこは見えないプレッシャーがあったのかなって思いますね」とは正木昌宣監督。ただ、昌平もなかなかチャンスを作り切れないまま、前半はスコアレスで推移する。
ハーフタイムに指揮官の檄が飛ぶと、後半はアウェイチームがアクセルを踏み込み、再三に渡って決定機を創出したものの、ゴールには届かない。すると、83分にはエリア内へ侵入した土谷が相手GKに倒され、PKを獲得。「自分のPK史上、一番緊張したかもしれないです」と振り返った土谷は、自らきっちりゴールへ蹴り込み、昌平が先制点を奪い取った。
さらに4分後には右サイドの高い位置へ潜った土谷が、角度のない位置から強いボールを中央へ。これを三浦悠代が確実にプッシュ。「アレはシュートです。ファーに打ち込もうとして、ダフって、引っ掛かった感じで、結果オーライでした(笑)」と語った土谷の1ゴール1アシストで、ホームチームのリードが2点に広がる。
だが、青森山田は諦めない。90分に途中出場の後藤礼智がゴールを奪い、1点差まで迫ると、90+2分には菅澤の丁寧なラストパスから、小沼蒼珠が執念の同点弾。土壇場でスコアを振り出しに引き戻す。
「みんな油断していたわけではなかったと思いますけど、相手の勝負強さにやられましたね」(土谷)「いつもこういう時にみんながやってくれるので、自分のためを思って、こうやって何とか同点まで持っていってくれた仲間にまた感謝ですけど、優勝のチャンスを掴み取れなかったので、そんなに甘くないなという感じですね」(芝田)。ファイナルスコアは2‐2。青森山田の優勝は最終節へと持ち越されることになった。
「ここにいる間に芝生の張り替えもあって、その時は凄く綺麗で芝生が立った状態だったんですけど、4年ぶりに来たら芝生も少し寝ていて、そこは時間の経過を凄く感じましたね」とFC LAVIDA時代の練習グラウンドでもあったこの日のピッチに言及した芝田は、「アイツに結果を出されましたね」と少し悔しそうな表情を浮かべる。
「玲と試合するのは本当に気合いが入ります。同じ栃木出身で、ずっと仲も良かっただけに負けたくなかったですし、前期はアイツが点を獲っていて、今回は『自分が決めたい』と思っていたので、点を獲れて良かったです」と少し笑顔を浮かべた土谷が、あることを教えてくれた。
「LAVIDAのメンバーには違う学校に行った選手もいますし、今日はそういうLAVIDA時代のチームメイトも試合を見に来てくれたみたいなので、そこにも感謝しないといけないですよね」。やはり“かつてのチームメイト”たちにとっても、この一戦は特別なものだったようだ。
試合後。2人は同じようなことを口にしている。「試合が終わった時に、玲とも『ベスト8でな』という話をしているので、今は1分け1敗ですけど、最後にしっかりと選手権のベスト8で勝てるようにしたいなと思いますね」(土谷)「この一戦にはいろいろな気持ちがある中で挑みましたけど、こういう複雑な想いがある中で、結果が出せないのは自分の実力不足だと思うので、選手権でもう1回対戦できたらいいなと思います」(芝田)。
1か月後に開幕する高校選手権。昌平と青森山田はともに勝ち上がっていくと、ベスト8で顔を合わせることになる。“いつものグラウンド”で再会を果たした彼らが、次に刃を交えるのは冬の全国か、それとももう少し先のことか。いずれにしても、これからもサッカーを続けていく限り、土谷と芝田が同じピッチに立つ機会は、きっとまた何度も訪れるに違いない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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