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FIFA U-17ワールドカップ 日本代表
いよいよ開幕したU-17ワールドカップ。日本代表は、初戦となるポーランド戦で強力な攻撃力を誇るポーランドを零封。交代出場した高岡伶颯(日章学園高校)が76分に決めてなんとか競り勝った。
雨季に入ったばかりのインドネシアである。標高約700メートルの高原(盆地)にあるバンドンは、昼間は蒸し暑いものの、夕方になると気温は25度を割る。そして、日本の初戦を迎えた11月11日は、試合開始約2時間前にかなり強い雨が降ってピッチは濡れた状態だった。
さらに、試合が後半に入ってしばらくすると、メインスタンドから見て左手(北)から雷鳴が近づくとともに辺りが急に暗くなって、再び雨が降り始めた。その後も雨脚は強まるばかり。そして、後半の23分38秒ほどで試合はいったん停止され、ちょうど交代準備を終えてタッチライン付近にいた高岡も、そのままロッカールームに引き返さざるをえなかったのである。
試合の中断は、選手にとってはモチベーションの維持など難しいものだ。まして、これからピッチに入ろうとしたところでの中断だったが、高岡は「アジアカップでも経験がある」と冷静さを保っていた。
そして、日本は中断をうまく利用してギアを上げた。高岡がピッチに入って試合が再開されると日本の攻勢が強まり、ついに76分にゴールを仕留めることに成功したのだ。
ポーランドはテクニックのある選手がそろい、連携も良い素晴らしいチームだった。ヨーロッパ予選で大量得点を記録しているのもうなずける。
ツートップのダニエル・ミコライエフスキやマイク・ウーラスなどの繊細なドリブルは見事だった。一瞬タイミングを遅らせて相手のマークをはずすといった“小技”を随所に散りばめる。また、右サイドでサイドバックともウィングバックともつかない位置をとって、上下動を繰り返したシモン・ウィシュコも非常にタフな選手だった(この、ポーランドの3バックとも4バックとも思える変則的システムは相手にとってはつかみにくい)。
ところが、ポーランドは事前合宿中に選手4人が飲酒したことが発覚。4人がチームを離れ、U-17ワールドカップでは登録が21人なので、控え選手がわずか6人しかいない状態だった(しかも、そのうち2人はGK)。
また、湿度の高い気候の中での戦いも、スコールによる中断もポーランドの選手たちはあまり経験がなかっただろう。
その点、日本の選手たちはつい1か月前ほど前まで日本の猛暑の中でプレーしていたし、アジアカップは同じ東南アジアの蒸し暑い気象条件にも慣れている。やはり、“インドネシア開催”は間違いなく日本有利に働いたようだ。
こうして、次第に疲労の色が濃くなるものの選手交代もままならず、予想通りポーランド選手の足は少しずつ止まっていった。
「相手のプレッシャーが緩むとテクニックが発揮できる」とは森山佳郎監督の弁である。
後半に入ると組み立ての上手い山本丈偉を入れてゲームを立て直し、さらに高岡や道脇豊などFWを投入して攻撃力を上げていった。
そして、76分の歓喜の瞬間を迎えたのだ。ゲーム運びがうまくはまったのは間違いない。
だが、前半の、相手が元気な時間帯にも日本代表は数多くのチャンスを作っていた。
ワントップに抜擢された井上愛簾(サンフレッチェ広島ユース)はいきなり左サイドの吉永夢希(神村学園高校)からのクロスをディングで狙ったのを皮切りにポストをかすめるシュートを何度も放っていた。井上より少し下がった位置でプレーした徳田誉(鹿島アントラーズユース)もスケールの大きさを垣間見せた。
だが、彼らのシュートがわずかにはずれる場面が続いたことによって、次第にポーランドがチャンスをつかみ始め、以後、前半は日本が守りに回る時間が多くなったのだ。
試合内容から言えば、前半のうちに2対2くらいのスコアになっていてもおかしくない展開だった。
「チャンスを作れないのではなく、チャンスを決めきれない」。
両チームともに、そんな流れを引きずって前半の45分を終えた。
今回のU-17日本代表の最大の魅力は強力なFW陣だったが、チャンスは作ったものの、なかなか決めきれず、ゲームを難しくしてしまった原因にもなったのだ。
濡れたピッチがボールタッチに影響したこともあるだろうが、やはり世界大会の初戦という緊張感、あるいは気負いといったものがあったのではないだろうか。
チャンスは作ったものの決めきれなかったのだから、後は落ち着いてシュートを決めるだけだ。6月のアジアカップでも初戦のウズベキスタン戦では1対1の引き分けに終わったものの、その後は得点力が前回となった。ぜひ、その再現をしてほしいものだ。
もっとも、アジアカップのグループステージでは2戦目がベトナム、3戦目がインドと、初戦より格下の相手ばかりだったが、ワールドカップでは次戦がアルゼンチン、最終戦がセネガルと強敵ばかりだ。
日本の試合の後、雨が上がったピッチ上で、アルゼンチンとセネガルが戦った。
キックオフからわずか30秒で、セネガルの注目選手15歳のアマラ・ディオフがいきなり魅せた。左サイドをスピードドリブルで突破して逆サイドから走り込んだヤヤ・ディエメに合わせたのだ。ディエメのヘディングシュートはアルゼンチンのGK、フロリアン・ディアスに防がれたが、ディオフのスピードはその後もアルゼンチンにとって脅威になった。
そして、試合開始からわずかに6分、そのディオフがドルブルで中に切れ込んで、ゴール左下に強烈なシュートをたたき込んだ。そして、38分には再びディオフが決める。相手のミスパスを拾ったディオフは、タックルをかわすとペナルティーエリア内に持ち込み、シュートは一度はGKにはじかれたものの、すぐに反応してGKとゴールポストの間の狭いスペースを射貫いた。
アルゼンチンは、非常に“アルゼンチン的”なチームだった。
攻撃の中心は、前半は右サイド、後半は左サイドでプレーしたサンティアゴ・ロペスとトップ下の10番クラウディオ・エチェベリのドリブル。ボールタッチ数の多い、典型的なアルゼンチン・スタイルのドリブルだ。
左サイドバック、オクタビオ・オンティベーロの攻撃参加などはあるが、それほどシステム上の変化はないだけに、日本のDFはマークをつかめるだろう。後は、アルゼンチンらしいドリブルとの勝負となる。
前半、ディオフの2ゴールでセネガルがリードしたが、ボール・ポゼッションでは53%対26%でアルゼンチンが大きく上回っていた。ボールを持って攻撃を続けたものの決定的なチャンスを作れず、エチェベリがゴール前でのFKを3回ともふかしてしまったことも含めて、アルゼンチンの攻撃は非効率だった。
一方のセネガルは、ディオフのドリブルなどトリッキーな個人技でスタンドを沸かせたが、守備面では組織的に雑な場面も多く、また、前線の選手があまり守備に戻らない。また、ファウルも多く、アルゼンチン戦の失点(90+2分)も無駄なファウルで相手に与えたFKによるものだった。
つまり、両チームとも典型的なアルゼンチン・スタイル、アフリカ・スタイルのチームだったということだ。
フル代表レベルになると、南米のチームも、アフリカのチームもヨーロッパ的な戦術的な戦いをすることが多い。だが、17歳以下の代表ではほとんどの選手が自国のクラブでプレーしている。それだけに、その国のサッカー・スタイルの色が濃いのだろう。
そういえば、緻密なサッカーをしてチャンスは数多く作ったのになかなか決めきれずに、苦しい試合にしてしまったあたり、日本代表もいかにも“日本的な”サッカーだった。
今回のU-17日本代表はせっかく強力なFWがそろったのだから、そうした従来の日本のサッカーの限界を越えていってほしいものである。アルゼンチン戦に期待しよう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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