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サッカー フットサル コラム 2023年10月22日

チームの戦い方に“ブレ”がないV神戸 難敵、鹿島を破って優勝へ大きく前進

後藤健生コラム by 後藤 健生
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新国立競技場

国立競技場

J1リーグ第30節。東京・国立競技場で首位を走るヴィッセル神戸と4位につける鹿島アントラーズが激突。神戸が3対1で完勝して、リーグ初優勝に向けて大きく一歩前進した。

神戸にとっては、「難敵」鹿島との戦いは優勝に向けての大きな試金石となる試合だった。鹿島は守備が充実し、前線には鈴木優磨が存在感を発揮しているチームで、かなりの勢いを持って首位争いに肉薄した時期もあった。

しかも、天皇杯全日本選手権や日本代表の活動があったため、第30節は3週間ぶりの試合。試合間隔が開きすぎるのは、「連戦」と同じくらい難しいこと、だ。とくに、神戸のように好調を維持しているチームにとっては、試合勘を失ってしまう危険もある。

だが、そんな心配はまったくの杞憂だったようだ。神戸は、前半のうちに2ゴールを決め、前半、鹿島には1本のシュートも撃たせなかったのである。

神戸は大迫勇也が絶妙のポストプレーを見せる。かなりアバウトなボールでも、大迫はヘディングでつないだり、足元に収めたりして、うまくさばいて味方を使うことができる。

だが、神戸の攻撃の起点は大迫だけではない。酒井高徳や武藤嘉紀のような元日本代表を使ったサイド攻撃も効果的だし、また、扇原貴宏をアンカーに置いた中盤も強力。佐々木大樹の成長もあって、攻撃の多彩さは増している。

そして、今シーズンの神戸躍進の原因となった、高い位置からの守備もますます磨きがかかっている。

ボールを失うとすぐに切り替えて前線から守備に入る。そのネガティブ・トランジションが鹿島の攻撃を分断した。神戸の選手たちがパスコースを塞いだうえで、前線の選手がプレッシャーをかけるので、鹿島の選手たちはボールを下げるしかなくなってしまった。それが、前半、鹿島のシュート・ゼロという結果につながったのだ。

これは、神戸の守備の良さのせいでもあったが、同時に鹿島の自滅のようでもあった。鹿島の選手は、相手にプレッシャーをかけられると、あまりにもあっさりとバックパスに逃げてしまった。イーブンの可能性であっても、前線にロングボールを入れて、もっと果敢にチャレンジしてほしかった。

鹿島に何が起こっていたのだろうか?

分かりやすく説明してくれたのが、試合後の記者会見に出席した岩政大樹監督だった。

攻撃はパスをつないで自分たちでボールを動かしていくやり方と、中盤を省略してでも前線にボールを付ける攻撃がある。鹿島は、前線に長いボールを付ける攻撃(岩政監督は「飛ばす」という言葉を使った)はできていたので、中断期間はパスをつなぐ攻撃(岩政監督は「動かす」と表現した)の準備をしてきた。

だが、本当なら相手の出方や試合の流れによって、その両者を使い分けなければいけなかったのに、前半の鹿島は「動かす」ことに意識が行き過ぎたというのだ。

だから、神戸のプレッシャーに遭うと、「パスをつなげない」と判断してボールを下げてしまう結果となった。

たしかに、こういう現象はサッカーの試合ではよく見かけることだ。

かつて、日本代表も中盤でパスをつなぐこと、ポゼッションはうまいが、「それがゴールに結びつかない」と批判されていた時代があった。

監督が、なにか一つの指示を出すと、選手たちがそれに縛られてしまうということもよく起こる現象だ。監督は、指示を出す時には、そのあたりのいわゆる「さじ加減」が難しいところなのだ。岩政監督は「僕の責任」という言葉を口にしたが、やはり、まだ経験の浅い監督だけにそのあたりの「さじ加減」の難しさを痛感したのだろう(ちなみに、現在絶好調の日本代表は、まさにそのあたりの判断力が素晴らしい。相手の出方や試合の流れに応じて、選手たちが考えて戦い方を変えることができるのだ)。

鹿島がそんな状態だったので、神戸にとって前半の戦いはまさに会心の出来だったはずだ。

しかし、なかなか得点に結びつけられなかった。実際、16分に左サイドからの井出遥也のクロスに佐々木が合わせて先制ゴールを奪った後、かなり一方的な試合だったにも関わらず、2点目はなかなか入らなかった。

「これだけ攻めながら1点だけで終わってしまうと、後半どうなるか分からないぞ」と、スタンドで見ている僕たちは思ったし、おそらく神戸の選手たちもそんなことを感じていたかもしれない。

だが、神戸は前半終了間際の45分に、右サイドにいた山口蛍が逆サイドの深い位置にロングボールを蹴り込んで、これを受けた武藤が折り返し、井出が決めて2点目を採り切った。圧倒的に有利な形で後半につないで見せたのだ。

後半に入ると、鹿島はメンバー交代も使って試合の流れを変えていくつかの決定機も作ったが、神戸は中央の守備が堅く、ゴールは遠かった。

一方、神戸は時間の経過とともに次第に再び攻撃の形を作り始め、62分の酒井のゴールはVARが介入して取り消されてしまったが、83分にはCKからのこぼれ球を佐々木が決めて勝敗の行方は決した。

鹿島の“自滅”もあって、神戸にとってこの日の鹿島はまったく「難敵」ではなかったようである。

第30節を終えて神戸の勝点は「61」となり、2位の横浜F・マリノスとは4ポイント差、3位の浦和レッズとは8ポイント差を保っている。つまり、神戸が1つ取りこぼしたとしても、横浜FMは追いつけないのである。

上位陣の中では、安定感が高い……。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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