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“ボールの狩人”の高感度センサーに要注意。世界と出会った尚志高校・神田拓人は自らの力で望んだ未来を切り拓く 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史尚志高校・神田拓人
この男の高感度センサーに引っかかってしまったら、覚悟を決める必要があるだろう。持っていたはずのボールも、数秒後にはもうその足元からなくなっている。それは舞台が高校生相手のプレミアリーグであっても、同年代のタレントと向き合うヨーロッパのシビアなピッチであっても、だ。
「代表の遠征で海外に行った時も、予測の部分だったり、寄せる速さというのは正直対戦した選手よりも自分の方が速いのかなとも思いましたし、ボール奪取能力も僕の方があるのかなとも感じたので、そこは世界でも全然やれると思っています」。
年代別代表も経験してきた、高校年代きっての“ボールの狩人”。尚志高校のボランチを託されている神田拓人は、戦うステージが上がれば上がるほど、自分の力がより引き出されていく感覚も、少しずつ体感し始めている。
無敗記録は10試合まで伸びている。4年ぶりにプレミアへ復帰してきた尚志の勢いが止まらない。そのチームのど真ん中に軸を通しているのが、「本当に攻守においてバランスが取れていて、点も獲れますし、失点も少ないですし、結構チームとして完成されてきたかなと思います」と言い切る神田だ。
わかりやすく目立つタイプではない。むしろ派手なプレーは好まない口だ。それでもボールを奪う局面になると、涼しげな顔立ちからは想像できない獰猛さで、相手へと襲い掛かる。
チームを率いる仲村浩二監督の言葉も印象深い。「拓人は本当にボールを奪うのが上手ですね。今の世の中は上手いボランチを求めているじゃないですか。でも、『僕らが求めているのはこっちだから』というボランチ像を体現してくれているので、他にないタイプのボランチとしてやっていってほしいなと思います」。
自身に求められている役割は十二分に理解している。「自分は“色気”とか気にしていなくて、まずはチームの勝利のために戦っているので、『相手を抜いてやろう』という気持ちとかはないですし、『ボールを取って、シンプルに味方に付けるのが役目だぞ』ということも言われているので、そこは忘れずにやっていますね」。ゆえに周囲からの信頼もとにかく厚い。
今年に入ってからは年代別代表にも招集され始め、6月にはフランス遠征にも参加。そこで感じたのは、プレーの幅をより広げる必要性だった。「海外の選手相手にも守備は通用することがわかったんですけど、攻撃のところに課題が残った遠征になりました」。
確実に訪れつつある意識の変化。ただ、それと“色気”の類を表出させることとは、まったくイコールではない。「自分が代表に選ばれているのは、守備の部分が評価されているからだと思うので、そこは続けていった上で、前にも出て行って、よりゴールに直結するようなパスを出せるように、守備のことは忘れずにいながら、攻撃にも目を向けていけたらなと思います」。絶対的な武器はベースに置きながら、オプションもしっかりと身に着けていく。地道に、一歩ずつ、着実に。
年代別代表では同じポジションで共闘した、2人の選手から刺激を受けたという。1人は筑波大でプレーする司令塔だ。「徳永涼選手は攻撃も守備もどっちもできるので、良い刺激をもらいました。今までやったボランチの中でも一番上手かったですし、僕も結構指示を出されて、動かされましたけど、そういう部分も吸収していきたいなと思いました」。
もう1人は小学生の頃からの顔見知りで、プレミアで優勝争いを繰り広げているライバルだ。「フロンターレの由井航太は攻守両面で効いていますよね。由井も守備タイプだとは思うんですけど、捌けますし、攻守に活躍できているので、刺激になっています。実は小学校の頃から川崎市選抜で一緒で、大学の練習参加でも一緒になったので、その時に結構話したりしましたけど、ライバル心はありますし、やっぱり負けたくないですね」。
それも日常として戦うステージが、上がりつつあるからこそ得られる刺激。ただ、口にした今季の目標には思わず笑ってしまう。「プレミアで1点は獲りたいですね。練習試合でも全然獲っていないので、このプレミアで1点は獲ることを目標にしています(笑)」。最近の試合では、確かにペナルティエリア内へと駆け上がっていくシーンも、以前より増加している印象もある。まずはプレミアでの“1点”を目指し、攻撃面での成長も自身に課している。
理想のイメージは、ボランチのポジションで一時代を築いた、元フランス代表のレジェンドだ。「父がヴィエラを好きなんです。ヴィエラって点も獲れますし、パスも出せますし、守備もできますし、そういう選手になってほしいという父の影響があって、昔のプレー集もDVDで見せてもらってきたので、僕も小学生ぐらいの頃から好きですね」。パトリック・ヴィエラのスケール感を纏えるならば、それはもちろん最高に決まっている。
ここからはすべての試合が、日本一に繋がっていく大事な決戦ばかり。神田は高校生活に残されたここからの3か月弱の時間に、想いを馳せる。「まだ尚志としては何も成し遂げていないので、まずはプレミアで優勝して、勢いそのままに選手権でも優勝できたらと思いますね。もちろん自分の長所である守備の部分を出すことは絶対に忘れずに、なおかつ自分のパスでゴールに絡んでいけるような選手になりたいです」。
イメージする自分へ辿り着くためのハードルは、以前よりずっと高い位置へと上がり続けている。それでもそこを超えることには、何物にも代えがたい大きな、大きな価値がある。尚志が誇る“ボールの狩人”。神田は強い意志を携えて、望んだ未来へ繋がっていると信じる道程を、自らの力で逞しく切り拓いていく。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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