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まだまだ厳しい暑さが続く日本列島だが、暦の上では9月ももう下旬。
現在の日本のサッカー界で「秋春制」が実施されているのは、女子のWEリーグだけだから、その他の各リーグ戦はシーズン終盤を迎え、激しい優勝争いが繰り広げられている
J1リーグは、9月15日から17日にかけて行われた第27節で優勝争いを繰り広げていたヴィッセル神戸と名古屋グランパスが敗れ、2位で神戸を追っていた横浜F・マリノスも勝点1を積み重ねただけに終わった。そして、セレッソ大阪との上位対決を制した鹿島アントラーズが3位に浮上し、逆転優勝の可能性を残した。
ここ数年、川崎フロンターレや横浜FMの圧勝劇が続いていたJ1リーグだが、今年は久しぶりの大混戦となってきた。
J2リーグもFC町田ゼルビアの優位は揺るぎないが、2位以下の昇格争いが激化。その他のリーグでも、これから多くのドラマが起こりそうだ。
9月17日の日曜日に「首位と2位の直接対決」があったのは、日本女子サッカーリーグ、通称「なでしこリーグ」だった。
かつては日本の女子サッカー界のトップリーグだったが、2021年にWEリーグが発足してからは、その下位リーグと見なされている(昇降格はないが)。もちろん、なでしこリーグも「春秋制」だから、こちらもリーグ終盤を迎えている。
前節まで首位に立っていたのは千葉県・鴨川市をホームタウンとするオルカ鴨川FCだった。そして、勝点差1ポイント追っているのがニッパツ横浜FCシーガルスだ。
第19節では、その両チームが鴨川のホームで直接対決した。
オルカ鴨川はクラブ設立から10周年となるのを記念して、この横浜戦で数々のイベントを実施。メインスタンドの固定座席数1240席という鴨川市陸上競技場に集まった観客は1280人に達した。「たかが1280人」だが、鴨川市の人口は3万人強だから、全人口の4%が集まったことになる(もちろん、横浜のサポーターも含めた人数ではあるが……)。
こうして、なでしこリーグの首位決戦は、首位を走る地元のチームを大勢の市民が応援するという、なんとも素晴らしい雰囲気の試合となった。
試合は地元チームがいきなり3点を連取。観客のボルテージもさらに高まった。本当に、楽しそうに地元の人たちがチームを応援している。
90分を通してみると地力で勝るニッパツ横浜がコントロールする時間が長かったが、鴨川は先制攻撃に成功。開始3分に並木千夏が蹴ったCKを相手GKがファンブルしたところにキャプテンの山幡あやが飛び込んでヘディング。このシュートはクロスバーに嫌われたが、すぐにストライカーの鈴木陽が押し込んであっさりと先制した。
その後も22分に中盤で齊藤彩花が相手ボールを奪い、そこから素早く展開して再び鈴木が決めて2点目。そして、43分にもFKのこぼれ球を近藤彩優子が決めて3点のリードを奪った。
キックオフ直後からパワーをかけて相手を追い込んで先制し、さらに2ゴールを奪った試合運びは見事だった。どこまでそれを狙っていたのかはわからないが、とても戦略性のある戦い方だったといえる。
ところが、ニッパツ横浜も前半の最後の時間帯に1点を返すことに成功した。河野朱里のCKが跳ね返ったこぼれ球を、CFの片山由菜が決めて1点を返したのだ。
そして、この前半終了間際のゴールが後半につながった。
ところで、前半2ゴールを決めた鴨川の鈴木は24歳。そして、1点を返した横浜FCの片山は21歳とともに若いFWだった。鈴木は168センチ、片山が169センチと女子サッカー選手としては大柄で、当たりにも強い。両チームにポストプレーもできるCFがいたことで試合は引き締まった。
たとえば、ニッパツ横浜は、スローインの際に必ず片山をターゲットにして、片山のヘディングで味方を使って攻撃の形を作った。
さて、前半は鴨川の勢いのようなものがスタジアムを支配していた。だが、後半に入るとニッパツ横浜がしっかりとゲームをコントロール。
55分には片山の右サイドからのクロスに、逆サイドの蔵田あかりが詰めて2点目を変えすと、直後の60分には中央の小須田璃菜が左に開くと、そのボールをサイドバックの中居未来がクロスを入れ、河野が決めて同点とする。
激しい点の取り合いで試合は白熱。その後も攻め合いのが続いた。88分には相手GKのミスパスをカットした鴨川の浦島里紗がGKと1対1になったが、シュートをブロックされて勝ち越しはならず、試合はそのまま3対3の引き分けに終わった。
鴨川としては勝って勝点差を4ポイントに広げたかったところだが、引き分けによって首位は座をキープ。ニッパツ横浜としては、勝って首位の座を奪回したかったところだが、勝点差1のままで逆転優勝の可能性を残した。消化試合数が少ない伊賀FCくノ一三重も勝点3差でニッパツ横浜を追っており、なでしこリーグの優勝争いは最終節まで持ち込しとなりそうだ。
途中にも書いたが、両チームにCFタイプのFWがいてゲームが引き締まったが、その他のポジションでもパス出しのうまいボランチとか、クロスのうまいサイドアタッカーなど、それぞれのポジションに戦術的狙いを持ってプレーできる選手がおり、もちろんWEリーグのトップクラスと比べれば、ボールテクニックの精度とかプレー強度などは劣っていたとしても、よくまとまった試合となった。
女子の2部的なリーグでも、あるいは(失礼な言い方だが)南房総の小さな港町のクラブでも、これだけの試合ができるのは大したものだ。10年前(なでしこジャパンがワールドカップで優勝したころ)には考えられないことだった。
フットボールというスポーツが日本の社会の隅々にまで浸透してきた証拠でもある。女子の日本代表がワールドカップで素晴らしいサッカーを披露し、男子の日本代表がアウェーの戦いでドイツを圧倒することができたのも、日本にフットボールが浸透したから可能になったことなのだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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