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女子サッカーのWEリーグカップが8月26日に開幕した。
7月から8月にかけて開かれた女子ワールドカップで、日本代表(なでしこジャパン)は準々決勝敗退に終わったものの、優勝したスペインに4対0で完勝するなど素晴らしい内容の試合を披露。女子サッカーには久しぶりに大きな注目が集まった。
今後の課題は、その「話題性」を一過性のものに終わらせず、いかにしてWEリーグ人気の拡大につなげるか、だ。
もちろん、代表チームにそんな役割を押し付けるのは望ましいことではない。
男子のワールドカップで日本代表が活躍してもすぐにJリーグの観客動員数が伸びるわけではないし、反対に代表が惨敗を喫したとしてもJリーグの危機にはつながらない(たぶん)。だが、まだその存在が十分に認知されていないWEリーグの場合は、代表の活躍は人気拡大のためには重要な条件となる。
さて、ワールドカップ閉幕の直後に始まった新シーズン。WEリーグカップの観客動員数はどうなったのだろうか?
8月26日に始まったWEリーグカップは9月3日までにグループリーグ第2節が終了。合計12試合で1万4581人の観客を動員。1試合平均で1215人だった。
ちなみに、最多の観客を集めたのは今シーズンからWEリーグに加盟したセレッソ大阪ヤンマーレディース。サンフレッチェ広島レジーナ戦には2989人が入った。初めてのホームゲームということで多くの注目を集めたのだろう。
昨年シーズンと比較してみよう。昨年のWEリーグカップは8月下旬までに2節分8試合が開催され(今季より試合数は少ない)、合計で7082人を動員。1試合平均は885人だった。
つまり、今シーズンは現段階で昨シーズンの約1.5倍を動員しているのだ。C大阪の例のように、各クラブ独自の事情や観客動員に向けての努力の成果でもあるだろう。だが、「なでしこ効果」があったことも間違いない。
残念だったのは、ワールドカップ直後に開幕したのがリーグ戦ではなかったことだ。
Jリーグの場合、Jリーグカップ(ルヴァンカップ)はリーグ戦の合間を縫って行われるが、WEリーグカップはリーグ戦開幕前に決勝までが終了する。要するにプレシーズンマッチ的な大会なのだ。
昨年、リーグ戦で準優勝のINAC神戸レオネッサは、今シーズンのWEリーグカップは連敗スタートとなった。チーム作りが進んでいないからだ。
神戸は昨シーズン、朴康造(パク・カンジョ)監督の下、スリーバックで守備を強化。ウィングバックを使ったカウンター・サッカーで結果を出した。だが、今シーズンはFCバルセロナ育ちのジョルディ・フェロン監督を迎え、これまでとはまったく異なるポゼッション・スタイルへの転換に挑戦している。
当然、完成度は低く、しかも、主力の代表選手抜きで戦っているのだ。カップ戦を通じてチームを完成させてリーグ戦開幕を目指すのだろう。
神戸の例は極端にしても、メンバーや監督が交代したクラブも多く、WEリーグカップはあくまでも“プレシーズンマッチ”なのだ。
本来なら、ワールドカップで注目を集めた後、すぐにリーグ戦を開幕させ、さらに周知を徹底してWEリーグ人気を定着させたいところだった。WEリーグにはそうしたPR戦略やメディア戦略の視点が欠けているように思えてしまうのは僕だけだろうか?
実に、もったいないことだ。
さて、9月3日には東京の味の素フィールド西が丘で「なでしこリーグ1部」と「WEリーグカップ」の“ダブルヘッダー”という初の試みが行われた。
かつて日本のトップリーグだった「なでしこリーグ」。WEリーグの発足で強豪クラブが離脱して今では2部リーグ的な存在となっている(C大阪も昨年までは「なでしこリーグ」所属だった)。
西が丘では、その「なでしこリーグ」のスフィーダ世田谷対愛媛FCレディース、WEリーグカップの日テレ・東京ヴェルディベレーザ対アルビレックス新潟レディースの2試合が行われた。
「見比べてみれば、何かが分かるのではないか?」
そんな気持ちで、僕はこの“ダブルヘッダー”観戦に訪れた。
「なでしこリーグ」ではホームのS世田谷が3対0で快勝した。
1点目はバイタルエリア付近でワンタッチ、ツータッチのパスがつながり、2点目はMF金子ゆいのドライブをかけたミドルシュート。そして、3点目はFW大竹麻友と三本紗矢香とのスペースを使った大きなワンツー……。3点すべてが、異なった形から生まれたゴールだった。
一方、敗れた愛媛もワントップの今蔵綾乃が再三DFラインの裏への飛び出しを見せ、さらに後半から交代で投入されて今蔵とツートップを形成した伊勢さつきも同様に突進力のあるFWで、攻撃の形は十分に作っていた。両チームがオープンに攻め合った攻撃的な好ゲームだったのだ。
さて、2試合目のWEリーグカップの試合は植木理子や藤野あおばといった代表メンバーも含むベレーザが優位に立った。だが、上尾野辺めぐみ、川澄奈穂美、道上彩花といったベテランがチームを引っ張る新潟も堅固な守備で対抗。
開始10分でCKから新潟が先制すると、ベレーザも菅野奏音と藤野が決めて前半のうちに逆転したのだが、全体に両チームともに守備の堅さ方さが目立ち、第1試合の「なでしこリーグ」のオープンな試合に比ると、“堅い試合”となった。
そして、後半に入ると試合は激しさを増し、61分にダイナミックな展開から石淵萌実が自身2点目を決めて新潟が追いつくと試合はさらにヒートアップしていった。
運動量やプレー強度は、これまでの女子サッカーの常識をはるかに上回るもので、WEリーグのプロ選手たちはアマチュアの「なでしこリーグ」との違いを見せつけた。
2021年に発足したWEリーグ。
初年度は、アマチュア時代とサッカーの内容に大きな違いはないように感じられた。だが、昨シーズン(2022-23シーズン)はWEリーグは明らかにレベルアップしていた。そして、今シーズン、開幕直後の試合から非常にプレー強度の高い試合が見られたのだ。
ワールドカップに挑んだ日本代表では、かつてないほど多く海外組の選手がプレーしていた。日本の選手たちは、プレー強度の高いヨーロッパやアメリカで経験を積むことで国際舞台で戦える選手に成長したのだ。
だが、国内リーグ(WEリーグ)のプレー強度が高くなれば、日本の女子サッカーの水準はさらに上がるはずだ。
いずれにしても、これからの1年は日本の女子サッカーにとって非常に重要なシーズンになるはず。10月に始まるリーグ戦に注目したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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