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『気持ちとビルドアップで築くガクエンの新・センターバック像。静岡学園高校・大村海心は掴んだチャンスを離さない 高円宮杯プレミアリーグWEST 静岡学園高校×大津高校マッチレビュー』
土屋雅史コラム by 土屋 雅史静岡学園高校・大村海心
この日の大津高校戦に臨む静岡学園高校のメンバー表を見て、驚いた。U-18日本代表にも選出されている神田奏真や10番を背負う高田優、中盤のキーマン・福地瑠伊をはじめ、プレミアリーグの前半戦で躍動していた主力がケガや体調不良で軒並み不在。やはり大津と対峙した開幕戦と比較すると、実に7人もスタメンが入れ替わる構成になっていた。
首位に立って迎える後半戦最初のゲーム。インターハイでは初戦で明秀日立高校に悔しい敗戦を喫しているだけに、勝利でリスタートを切りたい一戦に並々ならぬ意欲を燃やしていたのが「僕はセンターバックでの出場でしたけど、自分が中心でボールを動かすぐらいの気持ちで、前に配球していくことを意識していていました」と話す大村海心だ。
プレミアが開幕してからしばらくは本職のポジションでもあるボランチで起用されていたものの、センターバックにケガ人が続出したタイミングで、チームを率いる川口修監督は大村に“白羽の矢”を立てる。
「神村学園戦に向けた週明けの練習で、監督から『ちょっとセンターバックをやってもらうぞ』と言われて、最初は『マジか!』とは思ったんですけど、3人ぐらい続けてセンターバックがケガをしていたので、『もしかしたらあるかもしれない』とは思っていました。もうやるしかないので、『絶対に相手にはやらせないようにしよう』という気持ちで受け入れて、センターバックをやっています」(大村)。
その週末の神村学園高校戦(5月7日)は、それまでの4試合で16得点を挙げるなど、好調を続けていた相手の攻撃陣を、“急造センターバック”を含めた静岡学園の守備陣は1失点に抑え、試合も3-1で快勝。そこから大村は一貫して最終ラインの中央を任されるようになった。
ポジションが変われば、もちろん視界も大きく変化する。「後ろをやってから、見える範囲が広くなりましたし、相手のプレッシャーも前から来るだけなので、ボランチよりちょっと余裕を持って配球できるようになっていると思います。そこが自分の武器だと思っているので、そういうところをもっと伸ばしていって、チャンスを作りたいですね」。最終ラインにいても、チャンスメイクに関わりたい意欲も旺盛だ。
6月にアウェイで3-0と快勝を収めた履正社高校戦後に、川口監督も大村に関しては「ボランチの選手ですけど、アイツをセンターバックにコンバートして、凄く良くなってきています。足元があるので、動かす力があるんですよ」と一定の評価を口に。確かにその試合でも大村が最後方からスルスルとドリブルで持ち運び、好機を演出するシーンを作るなど、攻撃性の高さを披露していたことも印象深い。
この日の大津戦も、大村は前半からビルドアップの起点になり、左右にボールを動かしていくものの、中盤より前にはプレミアでの出場機会も比較的少ないメンバーが顔を揃えていたこともあって、なかなか崩す形を作れない。すると、1点を追い掛ける後半からは1列上がって中盤に入り、攻撃と守備のバランスを見ながらも、より前者の方に意識を傾けていく。
ただ、ボランチでの45分間を経て、「両方できたら僕の可能性も広がると思うんですけど、ちょっと感覚がなくなってしまっていて、ボランチになった時に走る部分が足りなかったかなって。やっぱりもっと走るトレーニングをして、ボランチでも活躍できるように頑張りたいと思いました」と改めて課題を抽出した様子。チームも0-2で競り負けて今季2敗目を喫するなど、厳しい試合になったことは否めなかった。
途中出場で初戦敗退をピッチで味わったインターハイには、後悔が残っているという。「大会前に体調を1回崩してしまって、そのままスタメンで出られませんでした。あの試合はみんな気持ちが入っていなくて、ベンチから『やらないなら僕と代われ』と思うぐらいでしたし、そういう気持ちの部分は絶対に誰にも負けたくないと思っています」。
大津戦でも自分より10センチ近い高さを誇る相手の10番で、水戸ホーリーホックへの入団が内定している碇明日麻に対しても臆せずにぶつかり、ヘディングで競り勝つシーンも。気持ちの部分も自身で捉える大きな武器ではあるが、もともとはそこにウィークを抱えていたそうだ。
「小さい頃はお父さんやお母さんに『気持ちが弱いね』と言われていて、『イエローカードをもらいに行け!』ぐらいに言われていたんですけど(笑)、中3から高1ぐらいで、チームに対する責任を感じてきて、『僕がやらないと』という気持ちに変わってきて、だんだん『絶対に誰にも負けたくない』という気持ちが付いてきた感じです」。
決して順調な道のりを歩んできたわけではない。昨シーズンのプレミアリーグの出場はゼロ。同じ東淀川FCからガクエンの門を叩いた神田の活躍を、ただただ眺めることしかできなかった。だからこそ、自ら「ずっとやり続けたことでチャンスをもらって、そのチャンスを掴んだ感じ」と語るこの状況を手離すつもりなんて毛頭ない。改めて明かした意欲が潔い。
「今はケガ人が多くて本当に苦しい状況ですけど、そんなことを言っていたら終わりだと思いますし、試合に出る選手がもう絶対に勝つ気でやらないとダメなので、そこは練習での質や声出しのところから変えていって、プレミアも選手権も日本一を獲りたいと思っています」。
『海のように広い心を持って育つように』と両親から贈られた名前を持つ、気持ちとビルドアップのセンターバック。大村海心が発するエネルギーと確かな技術は、苦境に陥りかけているからこそ、今の静岡学園にとっては絶対に欠かせない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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