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『中学時代のチームメイトとの再会。熊谷康正、篠崎遥斗、川原良介がピッチの上で感じたこと 高円宮杯プレミアリーグEAST 前橋育英高校×青森山田高校マッチレビュー』
土屋雅史コラム by 土屋 雅史クマガヤサッカースポーツクラブ時代のチームメイト。左から前橋育英・篠崎遥斗、青森山田・川原良介、前橋育英・熊谷康正
「もう絶対に負けたくないですし、今日はこういう負け方をしたので、次は勝たないといけないと思います」。逆転負けを喫したセンターバックがそう言って唇を噛み締めれば、やはり敗戦を突き付けられたボランチは「最後に大きな差がありました。メッチャ悔しいですね」と大きく息を吐いた。
クマガヤサッカースポーツクラブで3年間をともに過ごした“元チームメイト”。前橋育英高校の熊谷康正と篠崎遥斗、青森山田高校の川原良介は、それぞれがそれぞれの想いを抱えて、この日の“再会”を待ち侘びていた。
最初に頭角を現したのは川原だ。2年生だった昨シーズンから、名門の青森山田でコンスタントにプレミアリーグでの出場機会を得ると、前橋育英とのアウェイゲームでも存在感を発揮する。
「同級生が活躍していると、自分も試合に出たいという気持ちは強くなりましたね」(篠崎)「川原が試合に出ているのを見て、出ていなかった自分は刺激をもらっていました」(熊谷)。前橋育英の2人はなかなかプレミアでの出番を得るまでには至らず、2022年に彼らの直接対決は実現しなかった。
迎えた高校ラストイヤー。熊谷と篠崎は、それぞれセンターバックとボランチとして、チームのレギュラーをがっちりと確保。もちろん川原も不動のサイドハーフとして、首位を快走する青森山田を牽引する。そんな両者の対戦が組まれたのは、前半戦のラストゲーム。舞台は前橋育英のホーム、前橋育英高校高崎グラウンドだ。
「古巣で一緒だった選手が多いということで、結構楽しみだったので、『1本行ってやろう』という想いはありました」(川原)「もともとチームメイトで仲も良かったので、川原を潰そうという気持ちでやっていました」(篠崎)「試合前はお互いに『やってやるぞ』みたいな感じだったと思います」(熊谷)。中学時代のチームメイトたちは敵味方に分かれ、キックオフの笛を聞く。
前半は前橋育英のアタックが冴える。「練習から繋ぐことを意識してやってきました」という篠崎は、そのパスワークの中心として逞しく機能。守備で身体を張るシーンも多く、川原も「変わらず上手かったですね。そこにフィジカルの部分が付いてきて、結構厄介でした。山田にいてくれたらいいかなって(笑)」とその成長を実感していたという。
「川原はクマエスの時もそうですけど、左サイドでボールを持って仕掛けられるので」と元チームメイトを評した熊谷も、右サイドバックの青木蓮人と連携を取りながら、安定したパフォーマンスでゴールに鍵を掛ける。前半は前橋育英が1点をリードして、ハーフタイムに折り返す。
後半に入ると、前橋育英は2点目を獲るチャンスを作り出しながらも、なかなかそれを生かせない中で、青森山田はセットプレーから同点に。さらに、終盤の32分には右サイドを崩したクロスから、逆転ゴールが生まれる。その殊勲の一撃をヘディングで沈めたのは、川原だった。
「育英には自分の元出身チームの選手がいっぱいいて、そこでゴールできたのは嬉しかったです」とスコアラーが笑顔を浮かべる一方で、「ああいうところを決めてくるところはアイツの力かなと思います」と熊谷が悔しそうに話し、「アイツも成長していましたね。上手かったです」と篠崎も言葉を紡ぐ。結果的にその1点が決勝点となり、試合は2-1で青森山田が逆転勝利。初めての“再会”はひとまず川原に軍配が上がる格好となった。
熊谷の攣った右足をのばす川原(8番)
印象的なシーンがあった。青森山田がリードを奪い、最終盤に差し掛かったタイミングで、右足を攣らせて倒れ込んだ熊谷へ真っ先に近付いたのは、「たまたま近くにいたのもありますけど、元チームメイトなので伸ばしてあげようとは思いました」という川原。白いユニフォームを着ている8番が、黄色と黒の縦縞のユニフォームを纏った4番の足を優しく伸ばす。一瞬ではあったものの、確かな絆がグラウンドの上で交錯した。
タイムアップからしばらく経った頃、篠崎と川原は多くの人たちに囲まれていた。2人は小学生時代のチームも一緒。本人たちも実際に会うのは中学卒業以来だったが、彼らを見守ってきた方々にとっても、この日の90分間はもちろん特別な時間。写真を撮ったり、会話に花を咲かせたりと、多くの人の表情に楽しげな笑顔があふれていた。
そんな輪の中に、少し遅れて熊谷が合流する。1失点目は自らがマークしていた選手にゴールを許し、2失点目も目の前で“元チームメイト”のゴールを見送ったセンターバックは、3人での写真撮影に際しても、はっきり言って浮かない表情を浮かべていた。
「あれだけ応援してもらって、勝たないといけないゲームでしたし、相手はああやって体を張って守ってきて、自分たちは一瞬の隙で失点してしまって、そこの差が出たゲームだと思っていますし、この負けを次に生かさないとダメだなって。自分がここで変わらないと、今はベンチの子にもスタメンを獲られてしまうので、今後の練習からしっかりやっていきたいです」(熊谷)。
この日は明暗が分かれたが、彼らにはまだまだ“再会”のチャンスが何度も残されている。それは後半戦のプレミアか、あるいは日本一を懸けたトーナメントのビッグマッチか。どちらにしても、前橋育英の2人にしてみれば、やられっぱなしでいいわけがない。
「最後の身体を張るところも、相手は張れていたのに、自分たちは競り合いに負けて失点してしまいましたし、山田監督からはそういう差の部分だったり、インターハイに向けて山田に借りを返すために、もっと練習からやっていかないと、という話はありました。やっぱり山田はライバル校でもあるので、そこには絶対に負けないという気持ちでこれからもやっていきたいです」(篠崎)
待ち望んだ“再会”は、3人にとっても新たなスタート。熊谷も、篠崎も、そして川原も、次にまたピッチ上で会った時にはさらに成長した姿を見せ付けられるように、自分の選んだ道で、自分のやるべきことと向き合いながら、ひたすら前へと進み続けていく。
篠崎と川原が繰り広げる激しいマッチアップ
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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