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左から古橋亨梧、旗手怜央、前田大然、岩田智輝、小林友希
日本代表がエルサルバドルとペルーを相手に2試合で10得点を決めて大勝した。エルサルバドルは試合開始早々に退場者を出して1人少なくなってしまったし、ペルーはワールドカップ南米予選を9月に控えてテスト中……。対戦相手に問題があったことは事実だ。
しかし、相手がどうこうちうことではなく、日本代表のパフォーマンスは(その絶対値として)非常に高いものだった。
最終ラインで落ち着いた守備を見せた谷口彰悟と板倉滉。ペルー戦では「デュエル王」としてその真価を発揮した新主将の遠藤航。軽やかなタッチで攻撃を組み立てた鎌田大地。相変わらずのスピードスターぶりを発揮した伊東純也。さすがのドリブル技術の高さを見せつけた三笘薫など、各選手が特長を発揮した。
MVPとして誰か1人の選手を選ぶのが難しい2試合だった。
なにしろ、日本代表は2試合で10得点したが、すべて得点者が違ったのだ(それは「絶対的ストライカーが不在」という意味でもあるのだが……)。
しかし、僕は今回の日本代表の中では旗手玲央の存在が大きかったように思う。
三笘は3月の強化試合(ウルグアイ戦とコロンビア戦)ではサポートを受けることができずに孤立してしまっていたが、6月の2試合では何度もドリブルを仕掛けることができた(三笘自体はプレミアリーグで戦ってきたことによる疲労の色が見られたが)。それは、左サイドハーフのポジションに入った旗手のサポートがあったからだ。
何しろ、三笘と旗手は同時に川崎フロンターレに入団し、川崎の最強時代にともに戦ってきた間柄だ。いや、それ以前にも全日本大学選抜や東京オリンピックを目指すチームでも戦友だった。
久しぶりに組んで戦ったのだが、両者のコンビネーションは完全に生きていた。
さらに言えば、エルサルバドル戦ではアンカーの位置に守田英正がおり、センターバックの谷口、板倉を含めて左サイドと中央のポジションに元川崎の5人の選手が並んでいたのだ。
川崎出身の選手たちは、それぞれの新天地を求めて今ではバラバラになってしまったが、久しぶりに終結した日本代表のメンバーとして、川崎にいた当時の感覚を取り戻してコンビネーションの良さを見せつけた。
今回のサッカーの日本代表の活動と同時期に、9月に開幕するラグビー・ワールドカップに向けてジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ率いる日本代表が合宿入りしたというニュースがあった。長期合宿を通じて大会に備えるのである。
世界中のサッカーの代表チームの監督から見たら「夢のような環境」だろう。
サッカーの代表チームには、ワールドカップや大陸選手権の大会期間中(およびその直前)を除いて、ほとんど合同トレーニングをする時間が与えられないのだ(日本代表が6月に良いパフォーマンスを発揮できたのは、ヨーロッパのシーズンが終了して早めに帰国した選手が自主トレに参加したことなど通常よりも多くのトレーニング・セッションを設定できたからだ)。
選手同士のコンビネーションを作り上げる時間がほとんどない中で、有効なのは同じクラブに所属する選手たちのコンビネーションを利用する方法だ。
サッカーの歴史を顧みれば、そうした例は枚挙のいとまがない。
たとえば、1966年ワールドカップで優勝したイングランド代表では主将でCBのボビー・ムーア、司令塔のマーティン・ピータース、そしてストライカーのジェフ・ハーストの3人がウェストハム・ユナイテッドの所属で、西ドイツとの決勝戦でも彼らのコンビネーションから貴重な同点ゴールを生み出した。1974年ワールドカップで優勝した西ドイツ代表は先発メンバーの約半数がベイエルン・ミュンヘンの選手であり、決勝戦もバイエルンのホームであるオリンピアシュタディオンで行われた(対戦相手のオランダはヨハン・クライフをはじめ、アヤックスがベースのチームだった)。
そのほかにも、1994年のアメリカ・ワールドカップで準優勝したイタリア代表は、フランコ・バレージをはじめ当時世界最強クラブだったACミランの選手たちで固めたチームで、代表監督もミランの基礎を築き上げたアリゴ・サッキだった。
1990年代以降は、外国人選手の制限がほとんどなくなり、強豪クラブが多国籍化したために一つのクラブをベースに代表チームを作ることは難しくなったが、それでもドイツ代表はブンデスリーガで11連覇を継続中のバイエルンが中心であり、スペインはもちろんレアル・マドリードとFCバルセロナの選手が多数を占めている。
現在でも、やはり代表チーム強化のためにクラブチームのコンビネーションを利用するのは有効であるようだ。
森保一監督が日本代表で「フロンターレのコンビネーション」を利用しようと考えているかどうかは分からないが、少なくとも6月の代表戦では旗手がインサイドハーフに入ったことによって、結果的にフロンターレ・セットが機能したことは間違いない。
フロンターレ以外に利用できそうなのが、セルティック組だ。
元横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督が率いるセルティックは多くの日本人選手を獲得した。そして、2022/23シーズンのスコティッシュプレミアリーグ得点王に輝いた古橋亨梧と前田大然、そしてMFの旗手の3人が6月シリーズでは代表に選出された。
カタール・ワールドカップの時には古橋と旗手が選ばれなかったことは最大のサプライズの一つだったが、6月シリーズではセルティック組が3人そろうことになった。
日本代表では前田はCFとして起用され、ワールドカップでもラウンド16のクロアチア戦でゴールを決めているが、セルティックでは主に左サイドでプレーして中央の古橋とコンビを組んでプレーしている。そして、MFとしてその2人を支えるのが旗手である。
せっかく、近いポジションの3人が代表に選出されているのだ。フロンターレ・セットと同様に、セルティック・セットをテストしてみる価値は大いにあるように思う。
だが、エルサルバドル戦では古橋と前田はベンチ・スタートで、古橋は65分からCFで起用されたが、前田には出番は与えられなかった。
そして、ペルー戦では古橋と旗手がそろって先発したものの、エルサルバドル戦でフル出場していた旗手は前半だけでお役御免。古橋は61分に前田との交代という形で退いたため、セルティック組の3人が競演することはついになかった。
交代の手順を見ると、森保監督にはセルティック・セットを使ってみようという意図はまったくないように見えるのだが、せっかくクラブでのコンビネーションを生かせるセットが存在するのだから、僕にはとてももったいないような気がする。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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