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サッカー フットサル コラム 2023年5月29日

「第18条」の復活を熱望する 最近のジャッジは硬直化しすぎているのでは?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)

VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)

昔、「サッカーのルールで一番大事なのは第18条だ」という言葉をよく聞いた。

サッカーの競技規則は第1条「競技のフィールド」から第17条「コーナーキック」までの17条で成り立っている。最近はルール改正も多いが、「第17条まで」で変わりはない。

では、「第18条」とは何か? それは「良識」「常識」だ。一つひとつの条文よりも、選手や審判員の「良識」「常識」がこのスポーツを成り立たせるために大事なのだというのが最初にご紹介した言葉の意味なのだ。

1863年にロンドンのクラブが集まって協会(Association)を結成し、フットボールの統一ルールを作ったのが「アソシエーション式フットボール」つまりサッカーの始まりだ。その後、協会(The Football Association=イングランド・サッカー協会)はロンドンだけでなく全イングランドを統括するようになり、今では世界中の人々が同じルールの下でフットボールを楽しんでいる。

1863年のルールには審判のことは書いていない。ロンドンのクラブは貴族や資産家などの上流階級の紳士たちのクラブであり、紳士たちは意図的に反則をすることはない(というのが建前だった)から、審判など必要ない(ということになっていた)。何かアクシデントがあったら、キャプテン同士が話し合った。

だが、さすがにそれでは収まらなくなったため審判が置かれるようになり、最終的にはレフェリーがピッチ上に降りてきて、何かあればホイッスルを吹いて試合を止めてフリーキックで反則をしたチームに罰を加えるようになった(実際には歴史はもっと複雑なのだが)。

その後、プロ選手やプロクラブが誕生するとプレーはさらに激しくなったし、サッカーが世界に普及していくとルールの解釈も国によって違いが生じた。だが、それでも最終的には「良識」や「常識」が大事だったのだ。

しかし、最近の試合を見ていると、どうやら「第18条」は廃止されてしまったようだ。

「Jリーグ30周年記念マッチ」として5月12日に東京・国立競技場で行われたFC東京と川崎フロンターレの“多摩川ダービー”で脇坂泰斗が退場となった場面について、最近も何人かの人に「後藤さんはどう思います?」と聞かれた。

FC東京が前半を2対1とリードして迎えた後半4分、FC東京の仲川輝人がボールをコントロールしようとするところに脇坂が後方からタックルを仕掛けた場面だ。

西村雄一主審はすぐに反則を取ったが脇坂に対してイエローカードは提示しなかった。だが、そこにVARが介入してオンフィールドレビューの結果、脇坂は一発退場となってしまったのだ。

スロー映像を見ると、たしかに脇坂の足裏が仲川の脛のあたりに当たっている。

まず誰もが感じるのが、西村主審はイエローも出していなかったのに、いきなり一発退場になったことについての違和感である。

西村主審は反則があった位置からそれほど遠くない位置にいたし、主審と両選手の間に他の選手はいなかった。ただ、主審の位置からは脇坂の足が仲川の左足を捉えた瞬間は選手の陰になっていたので見えにくかったのかもしれない。

しかし、タッチライン沿いにいた副審からはよく見えたはずで、その場合はすぐに副審が主審に対してその事実を伝えるべきだった。ピッチ上の2人の審判が脇坂の左足裏が当たった瞬間を見逃したとしたら完全なミスだし、もし「VARがあるから任せよう」という気持ちがあったとしたら、さらに大きな問題だ。

次に問題になるのは、「では脇坂のプレーは本当に一発退場に値したのか」である。

たしかに、脇坂の足裏は仲川に当たっており、その衝撃で仲川が倒れたのは事実だ。

しかし、脇坂は仲川の足の運びを後ろから追いかけるような方向で当たっており、さらに足が当たった瞬間、仲川は右脚が立ち足で左足は空中にあったので、脇坂の足裏からの衝撃はかなり吸収できていたので大怪我につながる危険はそれほどなかったように見える。

もちろん、あの位置で無理なタックルを仕掛ける必要はなかったし、タックルでボールを奪える可能性も低かったので、脇坂の判断が誤りだったのは間違いないし、反則なのも間違いない。イエローカードが出されても仕方のないプレーだ。

だが、それが一発レッドだとは僕には思えない。

では、なぜあのプレーに対してレッドカードが出たのか? それは「足裏が当たれば自動的、機械的に退場」という判断だったのではなかろうか?

最近、問題となるジャッジのかなりの部分が、この「自動的、機械的」な処分が原因となっている。

ボールが手に当たった。そして、腕を体から離していた。だから自動的にハンドとされる、といったケースだ。

ハンドの判定の場合、昔は選手の「意図」が問題になったが、審判員が「意図」を読み取るのは不可能だという理由で、現在では「意図」については考慮されない。腕の広げ方やボールの強さなどで自動的にハンドリングの反則が取られ、それがエリア内であればPKとなる。

しかも、それが肉眼では見えない程度の軽い接触でもVAR明らかにされてしまうのだ。

僕には、本来はやはり「第18条」が必要な気がする。

足裏が入っていても、その衝撃が大きくなく、大きな危険がないのなら警告でいいし、たとえ広げた腕にボールが当たっても、DFがスライディングをする際にバランスを取るために広げた自然な動きであればハンドを取るべきではない。

それが「常識」なのではないのか?

退場処分は試合の流れに大きな影響を及ぼし、結果的に高額な入場料を払って観戦に来た観客の楽しみを減らすことになる(あの試合で川崎が敗れたのは脇坂の退場のせいではないが、11人同士の試合だったら川崎がどのように流れを立て直したかはぜひ見たかった)。

つまり、退場は試合の娯楽性を著しく損なうのだ(稀には、退場によって試合が動き出すこともあるが)。だから、なるべくなら退場はなしですますべきだ(相手に危険を与える行為などはもちろん厳罰に処するべきだが)。

誤解していただきたくないのは、僕は現場でジャッジを担当している審判員の方々を批判しているのではないということだ。審判の方々は国際サッカー評議会(IFAB)が決めた規則の通りにジャッジしているだけだ。

僕が言いたいのは、競技規則やその解釈が最近あまりにも硬直化していたり、些細なことに囚われ過ぎているのではないかということだ。

何分もかけて一所懸命に赤や青のラインを引いて些細なオフサイドを探し出してせっかくの“ゴラッソ”を取り消すなんていうのは愚の骨頂。

VARが何のために存在するのか……。それは、「明らかな誤審」を防ぐことのためでしかない。「第18条」の復活を強く希望する次第である。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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