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【次への扉をこじ開ける第3戦。日本のキャプテン、松木玖生はそれでもきっとPKを蹴り続ける FIFA U-20ワールドカップ アルゼンチン2023 日本×イスラエルマッチプレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史高校年代三冠を達成した青森山田高校時代の松木玖生
悔しい90分間だった。FIFA U-20ワールドカップ アルゼンチン 2023の2戦目。お互いに勝ち点3を携え、コロンビアと向かい合った日本は、なかなかボールを握れない流れの中で、前半30分に福井太智のデザインされたショートコーナーに北野颯太が呼応し、最後は山根陸がゴール右スミにボールを流し込んで、初戦同様に先制点を奪い取る。
だが、53分と59分にいずれも左サイドを崩され、連続失点を喫して逆転を許す展開に。66分には坂本一彩と永長鷹虎を同時投入するも、リズムを引き寄せ切れず、逆に75分には決定的なピンチを迎えたが、ここは守護神の木村凌也がファインセーブで持ち堪える。
82分にはVARでPKを獲得するものの、キャプテンの松木玖生が思い切り蹴り込んだボールは、クロスバーに跳ね返る。86分に松田隼風のロングスローから、ここも松木が放ったヘディングは再びクロスバーを直撃。90+6分に松田の左FKから、ゴール前にチェイス・アンリが飛び込むも、伸ばした右足は届かない。ファイナルスコアは1-2。決勝トーナメント進出は最終戦へ委ねられることとなった。
運命の3戦目で激突する相手はイスラエル。欧州予選ではセルビアやオーストリアに加え、フランスを倒して準優勝を飾り、U-20ワールドカップ初出場を勝ち獲った難敵だ。初戦のコロンビア戦では、しっかりと立ち位置を取りながら、スムーズにパスを繋いでいくスタイルを披露。57分にはドル・トゥルジマンのPKで先制したが、74分にPKで追い付かれると、終了間際の90分にも失点。逆転負けを突き付けられる。
2戦目のセネガル戦は持ち味のパスワークも影を潜め、ペースを掴み切れない中で、58分にはサイドアタックからオウンゴールを誘発し、1点をリードしたものの、80分に同点弾を叩き込まれると、著しく運動量が低下した終盤は一方的に攻め込まれながらも、守護神のトメル・ツファルティが繰り出した再三のファインセーブで、何とか勝ち点1を手にしている。
FC東京U-18時代からダイナミックなプレーが魅力の熊田直紀
イスラエルのキーマンの1人は、最前線にそびえるトゥルジマンだ。初戦でのゴールに続き、セネガル戦でも力強いキープで先制点の起点を作るなど、違いを作れる技術とフィジカルを有しており、日本もこの男のゴール前での狡猾な動きには注意が必要。さらに、オランダのPSVでプレーするタイ・アベドも、繊細な左足のキックに特徴を持つ好アタッカー。トップ下でも右ウイングでもプレー可能で、セットプレーでも際どいボールを操るだけに、このレフティも警戒しておきたい。
同時刻に行われるコロンビア×セネガルの結果によっては、勝利のみがグループステージ突破の条件となる可能性も残した今回のイスラエル戦では、ストライカーの熊田直紀に爆発を期待したい。ここまでの2試合ではなかなか良い形でボールが入らず、前線で孤立する時間も短くないが、セネガル戦で高橋センダゴルタ仁胡のクロスにバイシクルで合わせたようなダイナミックなプレーは、間違いなく世界を驚かせるだけのポテンシャルを有している。
アジアカップでは5ゴールを挙げて大会得点王に輝き、日本のU-20ワールドカップ出場権獲得に大きく貢献した。アルゼンチンへと旅立つ直前には「アジア予選では味方のおかげで5得点決められたと思っているので、次は自分がチームを救えるような形でプレーできたらなと思います」と語っている。勝負のイスラエル戦で求められるのは、まさにチームを救うゴール一択だ。
最後に、やはりキャプテンの存在にも触れておきたい。1点のビハインドを負ったコロンビア戦の終盤。VARで得た千載一遇のPKを松木はクロスバーにぶつけ、試合後は敗戦の責任を背負い込むように、唇を強く噛み締めた。
松木が青森山田高校のキャプテンとして、高校年代三冠を達成した3年生の1年間で、彼がPKを蹴るシーンを全部で5度目撃したが、成功したのは3本。1本は左のゴールポストに当たり、もう1本は右のゴールポストに阻まれた。ただ、試合後にはさらりと「次、決めます」と言い切るなど、メンタルの強さは当時から際立っていたように思う。
高校最後の大会となった高校選手権。準々決勝の東山高校戦は1点を先制される展開を強いられるも、青森山田は前半終了間際にPKのチャンスを得る。実は前述した『右のゴールポストに阻まれた』PKは、インターハイ準々決勝の東山戦で失敗した1本だった。
同じ相手に、同じ全国大会の準々決勝という舞台。その記憶が甦らなかったはずはない。だが、松木は迷うことなく自らスポットに向かい、GKにコースを読まれながらも、執念でボールをゴールネットへねじ込んでみせる。後半に勝ち越し点を挙げた青森山田は、この試合を2-1で勝ち切ると、準決勝は6-0、決勝は4-0と圧倒的な力を見せ付け、日本一へと駆け上がった。
第100回の記念大会を彩るにふさわしい青森山田の完全優勝。その栄冠の陰にあった松木の“5本目のPK”が、あるいは三冠という偉業を成し遂げる上で最も大事なワンシーンだったと、個人的には今でも思っている。
昨年9月に行われたAFC U23アジアカップのタジキスタン戦でも、今年3月にワールドカップ出場を懸けて挑んだU‐20アジアカップの中国戦でも、松木はPKを外している。おそらくは本人も良いイメージばかりを持ち合わせているわけではないだろう。それでも、イスラエル戦でPKを日本が手にする機会が来たら、きっと背番号7はペナルティスポットへと歩み出るに違いない。
1994年のアメリカワールドカップ決勝でPKを外し、世界一を逃した元イタリア代表のロベルト・バッジョが残したとされる、あまりにも有名な言葉が改めて脳裏に甦る。『PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ』。
世界一を明確に目指している日本の絶対的なキャプテン。松木玖生はそれでもきっと、PKを蹴り続ける。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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