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【世界をねじ伏せる第2戦。日本の護り人、田中隼人とチェイス・アンリのアグレッシブな攻撃力 FIFA U-20ワールドカップ アルゼンチン2023 日本×コロンビアマッチプレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史柏レイソルU-18ではキャプテンを務めていた田中隼人
苦しい90分間だった。FIFA U-20ワールドカップ アルゼンチン 2023の初戦。セネガルと対峙した日本は、開始15分でキャプテンマークを託された松木玖生が完璧なミドルシュートを叩き込み、幸先よく先制したものの、ゲームの流れを引き寄せるまでは至らない。
富樫剛一監督も着実に手を打っていく。後半開始から右サイドハーフの永長鷹虎に代えて山根陸を送り込むと、70分前後にはシステムも4-2-3-1から4-3-3にシフト。中盤に福井太智、山根、松木を並べ、セカンド回収率の向上と中央のスペースを埋めるための策を講じる。
終盤は1点を追う相手の迫力を正面から食らい、ほとんど自陣に釘付けになる中でも、福田師王と屋敷優成を送り込み、改めて前からのプレスを強化しつつ、最後は安部大晴と松田隼風もクローザーとして投入する万全の構え。守護神を任された木村凌也の牙城を最後まで崩されることなく、何とか逃げ切って勝ち点3を獲得した。
2戦目の相手はコロンビア。南米を3位で潜り抜けてきた強豪は、ブラジルワールドカップ、ロシアワールドカップと2大会続けて日本と対戦しているだけに、近年ではA代表を通じて馴染みのある相手と言えるかもしれない。
初戦のイスラエル戦では、ボール支配こそ相手に譲りながらも、4-3-3気味の布陣から、機を見て繰り出す個人技ベースのアタックは迫力十分。とりわけ序盤は左ウイングに入り、その後は右ウイング、1トップ下とポジションを移ったチーム唯一のA代表経験者のジャセル・アスプリージャは、イングランドのワトフォードでプレーしており、左足でのチャンスメイクには怖さがあった。
中盤はジョアン・トーレスがアンカー気味に配され、キャプテンのグスタボ・プエルタが攻守を繋ぐバランス役として機能。ただ、守備陣は全体的にプレッシャーが甘く、何度か作られた決定機も守護神のルイス・マルキーネスが再三のファインセーブで凌いでいたが、57分には右サイドバックのエディエル・オカンポが与えたPKから、イスラエルに先制を許す。
だが、73分にはVARで逆にPKを獲得すると、オスカル・コルテースが冷静に沈めて同点に。さらに終了間際の90分には、プエルタが左足で執念の決勝ゴール。劇的な逆転勝利をもぎ取る結果となった。
日本にとっても初戦で得た白星はもちろん大きかったが、グループステージ突破のために勝ち点獲得がマストのコロンビア戦。この一戦では最終ラインでコンビを組む、2人のセンターバックをキーマンとして挙げておきたい。
柏レイソルに所属する田中隼人は、この年代のまさに立ち上げに当たるU-15から、5年間に渡って年代別代表に選ばれ続けてきたエリートだ。188センチの長身に左利き。「パスやキックといった攻撃のところは自分の特徴」と言い切るように、その左足から繰り出すキックはチームの大事な攻撃の起点を担っている。
そんな田中がいくつも持ち合わせている能力の中で、最も魅力的なのは鋭い縦パスではないだろうか。その高い精度は言うに及ばず、チャンスと見るや恐れることなく、縦に速いボールを通しに掛かる。多少相手が寄せていても、時には直前にパスミスを犯していても、そんなことはお構いなしに淡々と味方へパスを打ち込んでいく。
実際にセネガル戦でもわずかな隙間があれば、ボールを受けに来た福井や佐野、松木への縦パスにトライ。その1本で一気に局面が打開され、チャンスに繋がったシーンも一度や二度ではない。ボールを動かしたいチームにとって、田中がアグレッシブに入れるスイッチは、攻撃面においても必要不可欠だ。
大会前に目標を問うと、「2年前にこのチームが立ち上がった時から、世界一という目標を掲げてきたので、絶対に世界一を獲りたいと思っていますし、獲らなければいけないとも感じているので、自分の価値も高めながら、チームを世界一へ導ければなと思っています」と、短いフレーズの中で何度も“世界一”というキーワードを繰り返す。真剣に世界の頂を目指す大型レフティの“縦パス”に是非注目してほしい。
尚志高校で最後の高校選手権を戦うと、Jリーグのクラブではなく、日本代表としてカタールワールドカップを経験した遠藤航と伊藤洋輝も所属しているドイツのシュトゥットガルトへと加入したのが、アメリカ人の父と日本人の母を持つチェイス・アンリだ。
本格的にサッカーを始めたのは中学生になってからだというが、いわゆる“粗削り”とも表現されるようなプレーの中に、圧倒的なスケール感を滲ませ続け、年代別代表でも次々と“飛び級”招集を受けるなど、その将来性に多くの人が期待を寄せてきた。
もともとはフォワードを務めていただけあって、インターセプトからそのまま縦に持ち出していくプレーも印象的。高校時代に「自分は上がるのが好きですし、行ってもボールを取られる気はしないので。一度上がったら『もう行くしかない』という感じになりますし、そういうプレーを出したいんです」と語っていた姿が記憶に残っている。
高校3年の選手権福島県予選決勝のことだ。同点で迎えた後半アディショナルタイム。カウンターで飛び出したチームメイトを確認したチェイス・アンリは、最高方から猛然と走り出す。送られてきたラストパスをトラップすると、そのまま左足でフィニッシュ。決して綺麗にはヒットしなかったボールは、まるで意志を持ったかのようにゴールネットへ吸い込まれる。それはシチュエーションも含めて、選ばれた人のみが決められるような一撃。そんなスーパープレーを世界の舞台でも披露してしまいそうなワクワク感が、ライオンヘアーの19歳には秘められている。
彼らに最も求められているのが、守備の安定だということは百も承知。ただ、もうセンターバックは守ってさえいればいいという役割のポジションではない。世界を驚かせるだけのポテンシャルを兼ね備えた、U-20日本代表が誇る現代型ディフェンダー。田中隼人とチェイス・アンリの攻撃力が、コロンビア相手にも炸裂すれば、自ずと勝利はその手の中に転がり込んでくるはずだ。
尚志高校時代から独特の存在感があったチェイス・アンリ
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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