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『神村学園高校・有村圭一郎監督が許容するアグレッシブさの正体 高円宮杯プレミアリーグWEST 神村学園高校×履正社高校マッチレビュー』
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
「いろいろなチームの先生にも最近は『オマエは攻めたらいいじゃん。守る気ないやろ』みたいなことを言われるようになってきて、守る気はあるんですけど(笑)、僕からすれば点数を獲りに行くことが魅力なんですよね。子どもたちもそれが楽しいと思ってやっていますし、本当に勝負のところになると、『点数を獲りに行くために守らなあかんやろ』というところもありますし、そういうのもだんだんと落としてはいくんですけど、今の段階は競い合って、点数を獲り合って、相手より1点でも多く獲るという感じの部分でやっています」(神村学園高校・有村圭一郎監督)。
今シーズンから初めてプレミアリーグに参戦している神村学園が面白い。開幕からここまでの6試合で既に4勝を挙げている結果ももちろん素晴らしいが、重ねたゴールはなんと21点。1試合平均にして3.5点という驚異的な得点力は、相手守備陣を震え上がらせている。
第6節の履正社高校戦でも1点を奪い、リーグの得点ランキングトップを快走する西丸道人は、早くも11得点とゴール数を二桁に乗せており、このままのペースで行けばプレミアの1シーズン最多得点数(22点)の更新も望める量産ぶり。それでも「プレミアという舞台でこれだけ点が獲れていることは自分でも驚いていますけど、間違いなく自信になっているので、続けていきたいなと思っています」とさらなるゴールへの意欲を滲ませている。
実は失点数も決して少なくない。6試合を終えて14失点と、こちらは1試合平均で2点を超える数字。履正社戦でもシーズン初の無失点がちらつき始めた終盤に、クロスからヘディングを叩き込まれる。
「ちょっと『無失点、来るかな』と思っていましたね。やっぱりゼロとイチでは全然違うので、もっと守備も大事に戦っていきたいなと思います」と話したのは3バックの中央を務める新垣陽盛。ファインセーブを連発したGKの川路陽も「得点に関しては大量得点できているので、あとは失点を減らしていきたいです」ときっぱり。現状の課題は、明確過ぎるほど明確だ。
だが、有村監督にしてみれば、こういう戦いぶりは想定内だという。「今は失敗をたくさんさせているので、その失敗を改善していかなきゃいけないと思えば、だんだん失点も減っていくはずですし、今はたくさん失敗させて、どういう失敗をしたかということの材料を集めているという段階ですね」。
ある意味で引いて守り、ゴール前にブロックを作りながら、できるだけ失点をしないようにすることだって、できないわけではない。ただ、それは今の時期に必要なことではないと、もっとやるべきことと備えるべきマインドがあると、指揮官は確信しているのだ。
「ゼロに抑えよう、ゼロに抑えようとすると、ディフェンスも凄く消極的になって、結局やられるんですよ。それならば、もっとトライしてやられちゃった方がいいんじゃないかなって(笑)。こっちももっとアイツらが気楽にバチッと行けるように、『そもそもオマエらがゼロで抑えられるなんて思ってもないし』みたいな発言をするようにはしています」。
選手たちも有村監督の意図は十分に察している。「ガミガミ言われるよりは、自由にやらせてもらって、ミスを指摘して戴けるというのは、自分たちにとっても一番やりやすいですし、そういう時の方が勝てることが多いので、今は凄く良い環境でやらせてもらっているかなと思っています」(西丸)「思い切りやれと言われているので、そのやりやすさは感じますね」(川路)「監督のおかげでだいぶ思い切りプレーできるところもあって、ポジティブにやれています」(新垣)。トライアンドエラーを繰り返しながら、彼らは試合の中で大事なことを学んでいる最中というわけだ。
とはいえ、基本的な指揮官のスタンスは例年と変わっていないという。重要なことは選手の内側から出てくるアグレッシブな“主体性”だ。
「今年に限らず、だいぶ主体性を持ってやるように仕向けているので、どうやって守るかも、どうやって攻めるかも、『こういうふうにしていいですか?』と聞かれても、そんなのは本人たちの好きなようにさせているんですよね。結局、それが一番子どもたちが伸びるんじゃないですかね」
「こっちが『ああしろ』『こうしろ』と言うよりも、自分たちでちゃんと理解して、『こういうふうにしよう』となった方が良いわけで、そういう意味では“ボトムアップ”に近いのかもしれないですけど、全部が全部ボトムアップではなく、子どもたちがいろいろな主導権を握ってやれるような状況ではやっているつもりでいます」
自分たちで主体的に考え、自分たちで理解していくからこそ、そこで得た成功体験は、必ずこれから先のシーズンで生きてくる血肉に変わっていく。ゆえに今はいろいろなチャレンジやトライを許容する時期。失敗を集めさせ、同じことを繰り返さない方策を考えさせ、解決させていく。頭ではわかっていても、これができる指導者は決して多くはないだろう。
初参戦のプレミアに臨んでいる、ここまでのチームの戦いぶりの感想を問われ、有村監督は躊躇なくこう言い切っている。「楽しめていますね。“はじめまして”のチームはターゲットにされがちやと聞いていて、『どうなるんやろ』と思っていましたけど、そんなに力の差が凄くある感じはしないですし、ちゃんとやればやれない感じはしないので、選手が伸びる環境は凄くありますし、それは見ていて面白いですよね」。
主体的であり、能動的。「今の段階は競い合って、点数を獲り合って、相手より1点でも多く獲るという感じ」の神村学園が繰り広げるゲームは、いつだってアグレッシブな魅力にあふれている。
神村学園高校・有村圭一郎監督
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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