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『首位快走の青森山田を支えるのは“発信力”と“吸収力” 高円宮杯プレミアリーグEAST 大宮アルディージャU18×青森山田高校マッチレビュー』
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
青森山田が好調だ。開幕から5試合を終えて4勝1敗の首位。プレシーズンから無敗を続けるなど、高かった前評判通りの実力をプレミアの舞台で証明しつつある。
FC東京U-18にホームで敗れ、シーズン初黒星を喫した前節を経て迎えるこの日の大宮アルディージャU18戦は、雨に加えて強風が吹き付ける悪コンディション。前半のうちに風の影響もあり、GKが目測を誤ってしまう形で先制点を献上すると、向かい風の中でほとんどチャンスを作れないままに、1点のビハインドで前半を終えることになる。
公式記録を見ると、45分間でのシュートはゼロ。正木昌宣監督はハーフタイムの雰囲気をこう振り返る。「久しぶりにキレました。『冷静にやろう』とか言っていたから、『冷静にじゃないよ。情熱的にやれよ』と。前半からガンガンやっていて、それで『もうちょっと冷静になろうよ』ならわかるんですけど、向こうが必死に蹴って走ってやっているのに、ウチは凄くクールぶってのらりくらりとやっていたから、久しぶりにハーフタイムに言っちゃいましたね(笑)」。
「ハーフタイムに『これは山田じゃない』と正木監督に強く喝を入れられました」と明かした芝田玲は、一方で自分の中で考えていたこともあったという。「今年はどの試合も風が凄いんですよ。ホームではまだいいんですけど、アウェイでも強いんですよね(笑)。だから、前半が風下だとどうしても耐えるような試合になってしまうんですけど、自分たちはそういう試合ばかり経験しているので、後半で上手く気持ちを切り替えることはプレミアリーグを通じてできているところなんです」。
風上に立った後半は、流れが一変する。得意のロングスローからキャプテンの山本虎が同点弾を叩き込むと、終盤にはCKの流れから米谷壮史が勝ち越しゴール。さらに川原良介もダメ押しの1点を奪い、終わってみれば3-1で逆転勝利。「自分たちは三冠を目指している上で、連敗は絶対にありえないので、勝ちに行こうという姿勢を続けていた中で、自分も点を決められて良かったです」とは米谷。苦しい試合を勝ち切る逞しさを、きっちりと見せ付ける結果となった。
昨シーズンの終盤戦から指揮を執っていたとはいえ、実質の新指揮官とも言うべき正木監督に現在の好調の理由を尋ねると、興味深い答えが返ってきた。
「選手たちがピッチ内でもどんどん積極的に会話しているんですよね。過去にもそういうチームはいっぱいありましたけど、今年のチームはお互いに吸収し合うというか、人の話もしっかり聞けますし、発信もできますし、『みんなで、グループでやろう』というのは例年に比べてもかなりあるのかなと。その中で個が輝いてくれているのかなと思います」。
確かに3月のサニックス杯の試合を見た時にも、ピッチの中でポジティブな声が飛び交う雰囲気が印象的だった。山本が今年のチームについて「自分はキャプテンですけど、芝田も(菅澤)凱も(鈴木)将永も、去年を経験しているメンバーが練習からチームのためにやってくれますし、2年前のチームもキャプテンの(松木)玖生さんにも、(宇野)禅斗さんや(藤森)颯太さんがダメな時はダメと言っていたんです。自分たちの代も王様はいらないので、良い雰囲気でできているのかなと思います」と語ったのにも頷けるような活気が、確かにチーム全体にみなぎっている。
左サイドバックを務める菅澤凱も、常に声を出し続けられるキャラクター。もちろんその役割も自覚的に担っている。「『締める時は締める』というのは誰かしらの役割だと思いますし、自分は禅斗さんがそういう役割をしていたのを間近で見させてもらっていて、あの人はどんな時でもチームのためにやっていましたし、キャプテンじゃない選手でもそういうことのできるヤツがどんどん出てきていいと思っているので、そういう選手を目標としてやっています」。宇野と同じ6番を背負う熱血漢が、チームにとって頼もしい存在であることは間違いない。
チームでも屈指の発信力を誇る芝田は「自分は思ったことが全部口に出ちゃいますね(笑)」と笑いつつ、「あまり抑え込みたくないので、そこは味方にもちょっと強く言っちゃっている部分もありますけど、その分褒めることもしてカバーしながら、自分の中でうまくやっています。自分が弱気になったらチームとしても終わりだと思っていますし、強気な姿勢は崩す必要はないと考えているので、チームのプラスになり続けたいですね」と言葉を繋げる。チームを牽引している10番の『強気な姿勢』も、今年のグループには欠かすことのできない大事なパーツだ。
高校年代三冠を達成した2年前のチームと、その最強世代の幻影に苦しみながらも、選手権でベスト8まで勝ち上がった昨年のチーム。両方を見てきた今年のチームの目指すべきところを、山本は過不足なく表現してくれている。
「2年前のチームで良かったものと、もちろん去年の良かった部分もあるので、その良かった部分を取り合って、さらに削ぎ落せるものはみんなで削ぎ落としながら、自分たちの代の色を出していきたいですし、僕たちも三冠を目標にしています」。
おのおのが有する高い発信力だけではなく、お互いの話に耳を傾けられる吸収力も兼ね備え、結果を出すことで一体感も増している2023年の青森山田が続ける快進撃は、そう簡単に止まりそうもない。
ゴールを決めて笑顔を見せる青森山田のキャプテン・山本虎
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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