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規律、自由、創造の共存。お互いに貫くスタイルウォーズ 横浜FCユース×サンフレッチェ広島ユースマッチプレビュー【高円宮杯プレミアリーグWEST第4節】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史横浜FCユース・永田滉太朗
昨年まで2シーズンを戦ったプレミアリーグEASTに別れを告げ、今シーズンからWESTへと所属が鞍替えとなった横浜FCユース。この試合もホームグラウンドの横浜FC・LEOCトレーニングセンターが会場だが、アウェイチームとして乗り込んでくるのはサンフレッチェ広島ユース。プレミアの舞台では新鮮なカードが実現している。
2022年シーズンはEASTで7位に入った横浜FCユースは、ヴィッセル神戸U-18と対峙した開幕戦がWESTデビュー戦。先制を許す苦しい展開にも、87分に笹歩睦のゴールで追い付き、勝ち点1を獲得。第2節こそアウェイで静岡学園高校に1-3で敗れたものの、前節の東福岡高校戦は1-0で勝利を収め、福岡の地から勝ち点3を持ち帰ってきた。
もともと小野信義監督も「ポジショニングを取る、ではなくて、ポジショニングを取り続けることが大事」と話すだけあって、ボールを丁寧に動かしていく基本的なスタイルの中でも、適切なポジションを考えながら、次の流れを予測して、攻撃をスムーズに構築することを志している。
圧巻だったのは東福岡戦で唯一生まれたゴールの一連。GKの西方優太郎が最後方からビルドアップを始めると、センターバックの林賢吾と国枝蒼空、中盤アンカーの加藤嵩寅でボールを回し、右サイドバックの小漉康太は縦パスをグサリ。受けた右ウイングの木村恵允がワンタッチでフリックし、永田滉太朗は左サイドへ。斜めに走った中台翔太がそのボールをゴールネットへ送り届けたのだが、GKから実に11本のパスが繋がっての一撃は、チームのやりたいことが過不足なく体現されていたように見えた。
攻撃時は4-3-3、守備時は4-4-2ないし4-2-3-1と可変気味に布陣する中で、ビルドアップ時は西方も使いながら、2人のセンターバックに右の小漉、左の水木康誠、どちらかのサイドバックが加わっての3枚回しも多く、アンカーの加藤はそこまで落ちてこないのも特徴的だ。
サンフレッチェ広島ユースを束ねるキャプテンの石原未蘭
攻撃のキーマンは中盤シャドーに入る永田滉太朗。先月に開催されたU-18日本代表候補合宿にも招集された小柄なレフティは、ギャップに落ちてボールを引き出したかと思えば、シビアなゾーンに侵入してフィニッシュワークに関わることも。静岡学園戦では斜め後方から来たパスを、素晴らしいコントロールでゴールに結び付けており、この一戦でも得点に関わる役割が大いに期待される。
アウェイチームとして横浜の地に乗り込むのは、昨シーズンのWESTで7位だった広島ユース。ホームで戦った開幕戦は2度のリードを守り切れず、名古屋グランパスU-18に2-5と逆転負けを喫したが、第2節の履正社高校戦では中川育が挙げた1点で、ウノゼロ勝利。前節はヴィッセル神戸U-18にも3-0で快勝を飾り、3連勝を狙ってこの90分間に向かう。
こちらも前節の2ゴールに、チームのスタイルが凝縮されていた。1点目は自陣までプレスバックに戻った左ウイングの中川が相手ボールを奪い、竹山心、角掛丈、松本夏寿磨とスムーズにパスを繋ぐと、木村侑生のスルーパスに反応した中川がきっちり沈めたもの。2点目も木村が相手の横パスをカットすると、その時点では自陣にいた松本がフルスプリントでゴール前へと駆け上がり、石原未蘭のクロスをヘディングでゴールへ流し込む。ポゼッションへの意欲を打ち出しながら、守備から攻撃への速い切り替えは、以前からこのチームの生命線であり続けている。
こちらも横浜FCユースと同様に、攻撃時は4-3-3、守備時は4-4-2の布陣を採用しているが、より特徴的なのはサイドバックの立ち位置。左の山根幹央、右の石原未蘭は中盤アンカーの竹山の横に並ぶように内側へ絞って、ビルドアップに参加。とりわけ昨シーズンは左サイドバックを務めていた石原のクレバーさは特筆モノ。気の利いたポジショニングは言うに及ばず、神戸U-18戦でも正確なクロスで2点を演出するなど、その能力の高さをサイドバックの位置で十全に示している。
攻撃のアクセントとして面白いのは、右ウイングでのスタメンが予想される木村だ。左の中川は外に張り付く時間が長いのと対照的に、この選手は比較的自由なポジショニングで中央へ出没したかと思えば、時には逆サイドまでボールを持ち出すことも。トリッキーなドリブルは見る者を楽しませ、前述した神戸U-18戦の2点目のように、守備の勘所を嗅ぎ分けて発揮する献身性も十分。とはいえ、やはりゴール前で披露するアイデアに要注目だ。
昨シーズンはコーチを務め、今シーズンから指揮官に指名された野田知監督は神戸U-18を長く率いていたが、それこそ10年以上前から流れるようなパスワークを軸に据え、ポゼッションスタイルを徹底する姿勢が印象的だった。新指揮官が大事に携えてきたフィロソフィーを、広島ユースが今までのスタイルとどう融合させていくのかは、これからも注視する必要がありそうだ。
横浜FCユースも広島ユースも、チームの構造はかなりはっきりとしたものを築いている。だが、その規律の中にはもちろん自由を謳歌する余地も残されており、そこで自らのアイデアを創造するタレントも揃っていると言っていいだろう。貫きたいスタイルのぶつかり合い。両雄のいわば“スタイルウォーズ”に、好ゲームの予感が漂う。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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