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南米ユース選手権でアルゼンチンU-20代表はグループステージで敗退
4月18日、「FIFAはFIFA U-20ワールドカップの開催地がアルゼンチンに決まった」と正式に発表した。インドネシア開催の中止が決まったのが3月29日だったから、わずか1か月で新しい開催国が決まったことになる。
もともとは2021年大会の開催権を与えられていたインドネシアだったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で同年の大会は中止となり、2023年大会を開催することが決まっていた。ところが、ヨーロッパ予選でイスラエルが出場権を獲得したことでインドネシア国内で開催反対の声が出た。イスラム教徒が多いインドネシアでは反イスラエル感情が強く、来年に大統領選挙を控えているため政治家も世論に敏感に反応した。
その結果、FIFAはインドネシア開催を断念したが、FIFAは「5月20日から6月11日まで」という開催日程は動かさなかった。
しかし、インドネシア開催を断念してから大会の開幕まで2か月もなかったので、代替開催地決定は難航するかと思われた。
ところが、インドネシア開催中止が決まるとすぐにアルゼンチンが手を挙げたのだ。
他にも、開催に興味を示した国はあったというが、正式に開催を表明したのはアルゼンチンだけだった。
24カ国が参加して、3週間以上の日程で開催される大規模な開催である。会場やホテルなどの手配や政府保証の取り付けなど、大会開催へのハードルは高い。短期間で準備を進めるのはかなり難しいはずだ。
サッカー大国のアルゼンチンだけにスタジアムの数は十分だろうし、2001年には同大会(当時の大会名は「ワールドユース選手権大会」)を開催した経験もある。しかし、短期間に大会受け入れを決めたのは驚くべきことといっていい。
実は、アルゼンチンは1月にコロンビアで開かれた南米ユース選手権で決勝ラウンドに残ることもできず、U-20ワールドカップ出場権を逃がしてしまっていたのだ。しかし、ワールドカップ開催権を獲得すれば開催国枠で出場することもできる……。アルゼンチンが早々に代替開催の意思を示した裏には、そうした思惑もあったと言われている。
アルゼンチンにとって、U-20ワールドカップというのは非常に重要な意味を持つ大会だ。
1977年に当時のFIFA会長ジョアン・アヴェランジェが提唱して始まったワールドユース選手権(現U-20ワールドカップ)はこれまでに22大会が開催されているが、アルゼンチンは最多の6回優勝を飾っている。
最初の優勝は日本で開催された第2回大会(1979年)で、この時は前年のワールドカップで初優勝を飾った時の代表監督だったセザール・メノッティが監督を務め、ディエゴ・マラドーナやラモン・ディアスがプレーしたアルゼンチンは決勝でソビエト連邦(当時)を3対1で破って圧勝した。
その後しばらくアルゼンチンの優勝はなかったが、1995年のカタール大会で16年ぶりの優勝を飾ると、以後2007年までの7大会のうちなんと5大会で優勝。この10年ほどの間、ワールドユース選手権はアルゼンチンのための大会と言ってよかった。
アルゼンチンの連続優勝をもたらしたのは、その後フル代表監督としても2006年ワールドカップに出場したホセ・ペケルマン監督だった。
アルゼンチン・サッカー協会(AFA)のフリオ・グロンドーナ会長はぺケルマンに全世代の代表チームを統括させた。それによって、アルゼンチンではU-17世界選手権(現U-17ワールドカップ)でピックアップされた若い選手たちが、U-20代表、U-23代表(オリンピック・チーム)、そしてフル代表と継続的に強化される仕組みを作ったのだ。各年代の代表監督も、ぺケルマンの下で統一したコンセプトでチームを指導した。
たとえば1997年のマレーシア大会ではエステバン・カンビアッソやフアン・ロマン・リケルメ、パブロ・アイマール、2001年のアルゼンチン大会ではハビエル・サビオラやアンドレス・ダレッサドロ、そして2005年のオランダ大会ではあのリオネル・メッシといったように、ワールドユース選手権には各世代の有名選手が出場しており、彼らはその後オリンピックやフル代表で活躍することになるのだ(オリンピックでは1996年のアトランタ大会で準優勝。2004年のアテネ大会、2008年の北京大会では連覇)。
こうして、ワールドユース選手権で活躍し、そのチームをベースにフル代表を強化するという流れができていたのだが、アルゼンチンは2007年のカナダ大会での優勝を最後に優勝どころかベストフォーにすら残れなくなってしまっていた。そして、2023年には南米大会の決勝ラウンドにも残れなかったのだ。
アルゼンチンは、昨年のカタール・ワールドカップで36年ぶりの優勝を飾った。
しかし、タイトル獲得に大きな貢献をしたメッシはすでに35歳。メッシが2026年大会に出場するにせよ、代表から引退するにせよ、アルゼンチンは「メッシ後」のことを真剣に考えなければ「王座」を守ることは難しい。
そのためにも、2023年のU-20ワールドカップで好成績を残して、そこで活躍した若い選手たちをフル代表に送り込む必要があるのである。
AFAのクラウディオ・タピア会長はそのために思い切った決断をしたのだろうし、昨年のワールドカップの盛り上がりもあって、同国政府もそれに協力しようとしたのだろう。
U-20ワールドカップ開催地の変更は出場国にはさまざまな影響を与える。
U-20日本代表も、3月のU-20アジアカップでベスト4に入って出場権を獲得しているが、インドネシア開催であれば日本からの距離も近く、時差もほとんどないので大会前の調整もしやすかったはずだ。
しかし、アルゼンチン開催となれば2万キロの長距離移動を強いられ、12時間という時差の調整も難しくなる。たとえば、2014年のブラジル・ワールドカップでは長距離移動があったせいかアジア勢は全敗に終わっている(逆にカタール開催だった2022年大会ではアジア勢は大健闘だった)。
南半球にあるアルゼンチンの5〜6月は現地の晩秋から初冬に当たる。インドネシアの蒸し暑い環境はヨーロッパ勢などにとってはやりにくかったはずだが、寒い環境ならヨーロッパ勢も力を発揮しやすくなる。
もちろん、開催国のアルゼンチンをはじめ、南米勢は“ホーム”のアドバンテージを持って戦える。
さらに、試合会場によっては標高の影響を受けるかもしれない。
大会の組分け抽選は4月21日に予定されているが、試合会場が決まってから現地入りまではわずか3週間ほどしかない。その間にさまざまな準備を進めなければならないのだ。今こそ、日本サッカー協会が過去30年ほどの間に各種の世界大会に出場するたびに積み上げてきた経験値を生かすべき時である。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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