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人とは違う何かを持つコンダクター。川崎フロンターレU-18・由井航太が目指す連覇とその先の“1試合” 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
自分は自分だ。人と同じことはしたくない。でも、それは1人だけで何でもやってやろうということとは、全然違う。まずは信頼できるチームメートと一緒に戦って、勝つことが何より最優先。その中で自分の色がより濃く出せるのであれば、それがきっと最高だ。
「まずはチームとして結果を出すことが大事ですよね。個人のことももちろんそうですけど、やっぱりチームが勝ってナンボだと思うので、チームのことを一番に考えながら、個人としては『チームで一番の選手で居続けたいな』ということが今年の目標です」。
プレミアリーグEAST連覇を、そしてファイナルでのリベンジを期す、川崎フロンターレU-18の頼れるコンダクター。由井航太はチームにも自分にも昨シーズン以上の高いハードルを突き付けている。
いきなり、効いていた。2023年シーズンの開幕戦。前橋育英高校と対峙した、Ankerフロンタウン生田のオープニングマッチでもあった大事な一戦。背番号も18番から6番に軽くなった由井は、中盤のど真ん中で常に全体のバランスを監視しつつ、自らも攻撃のアクセルを踏み込む瞬間をずっと窺っていた。
前半を0-0で折り返し、迎えた52分。やはり中盤でのセカンドボールを狙っていた由井は、相手がこぼれ球を抑えた瞬間に素早く寄せて、獰猛にボールハント。そのまま左へ展開すると、志村海里のクロスから岡崎寅太郎が先制点を叩き込む。
60分には中盤で左へパスを送りながら、そのままゴール前まで全力でスプリント。柴田翔太郎のクロスには一歩届かず、岡崎のシュートがクロスバーに当たったボールは、由井に軽く当たって跳ね返り、そこを岡崎がプッシュする。
自身の得点には繋がらなかったが、「ある程度作りのところは去年1年で参加できるようになったんですけど、ゴール前でのアイデアがまだまだ足りないので、ゴールやアシストだったり、直接結果に結び付けられるようなところに関わりたいなと思っています。去年はプレミアでは2ゴールだったので、3ゴール、4ゴールぐらいは狙っていきたいですし、あわよくば5ゴールぐらい決めたいです(笑)」とシーズン前に語っていたゴールへの意欲をプレーに滲ませた。
試合は3-0で快勝。得点やアシストは付かなかったものの、90分間の中で6番が担った役割は、彼にしかできない唯一無二のもの。きっとわかりやすい数字という結果も、シーズンが進むにつれて増えていくに違いない。
ファイナルの舞台には小さくない“借り”がある。主力選手としてリーグ優勝に貢献し、日本一だけを目指して挑んだサガン鳥栖U-18と国立競技場で向かい合った決戦。1-2と1点をリードされた後半。いつも通り積極的に味方のパスを引き出したが、一瞬だけプレー選択に迷いが生じた。
「ボールを受けた時はメチャメチャ自信があって、『かわせるな』と思ったのに、直前で判断を変えてしまって、迷いながら違うプレーを選択してしまったので、あのぐらいの選手になると見逃してくれなかったなと思います」。福井太智にボールをかっさらわれ、そのまま3失点目を食らう。チームは1点を返したものの、結果は2-3の惜敗。「自分の責任で勝てなかったので、周りに凄く申し訳ない気持ちでいっぱいでした」と振り返る由井は、表彰式の間もずっとうつむきながら、あふれる涙を止められなかった。
昨年の川崎U-18の10番を背負い、トップチームへと昇格した大関友翔は、2023年に期待したい“後輩”として真っ先に由井の名前を挙げている。そのことを伝え聞いた本人は「どちらかというと僕は守備的で、大関選手は攻撃的ですけど、ターンとかメチャメチャ影響を受けましたし、プレー外でもメチャメチャかわいがってもらったので、ピッチ内でもピッチ外でも凄く影響を受けたと思います」と笑顔。仲良くしてもらった先輩たちの分も、今年のリーグ戦とその先にある“1試合”へと懸ける想いは強い。
今シーズンはトップチームのキャンプにも参加。その中でも同じポジションを務める“キャプテン”には大きな刺激を受けてきた。「橘田(健人)さんは自分と一緒で守備に強みを持っている選手だと思いますし、ものすごく出足も速くて、ものすごく参考になりました」。だが、これから進みたいと願うのは彼らと日常から競わなくてはいけないステージ。ただ参考にするだけで終わるつもりは毛頭ない。
今季の目標を問うと、こういう答えが返ってきた。「今年は公式戦、練習試合含めて、すべての試合で勝ちたいなと思っています」。そもそもその日のインタビューが、プレミアリーグ開幕に向けての取材だったことは、本人も事前に把握していたようだ。その後に少しいたずらっぽい笑顔を浮かべて、続けた言葉が印象的だった。「プレミアリーグ優勝とか、そんな普通のことは言わないですよ(笑)」。
自分は自分だ。人と同じことはしたくない。それはピッチ内でも、ピッチ外でも。日本一を、そしてプロサッカー選手を目指すのあれば、それぐらいでちょうどいい。由井がこの勝負の1年を戦い抜いていく過程で、どういう独自の存在感を纏っていくのか、今からとても楽しみだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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