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11年越しのプレミア初勝利を掴んだ旭川実業を貫く「楽しいか、楽しくないか」という大事な信念 【高円宮杯プレミアリーグEAST 横浜F・マリノスユース×旭川実業高校マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
タイムアップの瞬間。指揮官は笑顔を浮かべるでもなく、大きくガッツポーズをするでもなく、1つ小さく息を吐いて、すぐに選手たちに整列へ向かうように促した。11年越しでようやくこのステージでの初勝利を手にしたにもかかわらず、だ。
「まあ、試合はまだ続くので。これで手を抜いてもらえなくなりますよね(笑)」。2012年のプレミアリーグ初参戦時には1分け17敗という結果を突き付けられ、一度の勝利も得ることなく降格を強いられた旭川実業高校。当時からチームを率いている富居徹雄監督が、初めて引き寄せたプレミアでの白星の余韻を必要以上に味わうこともなく、もう次へと視線を向けている姿が印象的だった。
「コンディションなのか、疲れなのか、開幕戦の緊張なのかわからないですけど、最初の20分くらいは流れが悪かったですよね」。横浜F・マリノスユースとアウェイで対峙した開幕戦。まだ雪の残る旭川を3月16日に発ち、トレーニングと試合を繰り返すこと2週間あまり。その遠征の最後に当たるのがこの日の試合だったが、指揮官が口にしたように、立ち上がりの旭川実業はなかなかリズムを掴めなかった。
相手のスムーズなビルドアップで左右に動かされ、力のあるアタッカーを前にどうしても重心が下がりそうになるが、彼らは引き過ぎることなく、ボールへとアグレッシブにアクションする姿勢を打ち出していく。
「個人的には11年前の話も聞いていましたけど、そのことがどうこうではなくて、『ベタ引きはしたくない』とは監督も言ってくれていて、自分たちも相手に対してそういう形で勝ちに行くということで話はしていました」。右サイドバックを務める庄子羽琉の言葉には、監督が得た“11年前の反省”が色濃く反映されていた。
「北海道でやる時と、北海道以外でやる時では、サッカーの“表情”が変わるんです。実際にサッカーも変えなきゃいけないんですけど、そう思ってリトリートしたのが前回で、それでも1勝もできなかったのが前回でした。もう教えたくないことを教えていて、僕もそういうのは好きじゃなかったので、『教えたいことを教えて、チームを強くしたいな』というのは前回が終わって思ったことだったんです」(富居監督)。
北海道で戦う時には、相手もリスペクトしてくれることで、主導権を握った攻撃的なスタイルにトライすることができる。だが、ひとたび北海道を出て戦うと、逆に相手をリスペクトし過ぎるがあまり、どうしても普段はやっていないような“ベタ引き”のサッカーになってしまう。その結果で味わった“1分け17敗”はチームに小さくない悔恨を残していた。そして、あるいはそれ以上に富居監督が痛感したのは、指導者としての根源の部分だ。
「プレミアから降格したこの10年間ずっとやってきた『アクションする』ということを含めて、自分たちのやりたいことをやりたいなと。そうしないと楽しくないなって。楽しくなかったんですよ、前回はやっていて。自分で指導したり、試合で指揮を執っていても楽しくなかったので」。
楽しいか、楽しくないか。もちろんその志向するスタイルは千差万別であっても、きっとサッカーというスポーツに身を投じるのであれば、圧倒的に前者を選択していかないと続かない。おそらくは11年前、選手たちに楽しくないサッカーを強いてしまった悔いを、申し訳なさを、ずっと抱えてきた。だから、今回はもう自分たちのやってきたことを、このプレミアのステージでもやり抜こうと、指揮官も、チームも、覚悟を決めたのだ。
果たして、この日の彼らは『アクションする』サッカーを貫いた。「ボールを持たれて、1試合を通して苦しかったんですけど、チームで決めたことをみんなでやりました」と話したのは、ボランチに入った萩野琉衣。前半のうちにカウンターから先制点を奪ったチームは、後半にセットプレーで加点。トータルで見れば攻められる時間は長かったが、最後の局面で体を投げ出すことも厭わない勇敢な守備は、横浜FMユースに得点を許さない。終わってみればスコアは2-0。かくして旭川実業は11年前に叶わなかったプレミアでの勝利を、2023年の開幕戦で鮮やかにさらってみせた。
「11年前の話も聞いていましたし、その記録と結構比較されることもあるかもしれないですけど、その結果を超えるというのは自分たちの目標でもありますし、勝つことを当たり前にできるように、さらに勝ち点を積み重ねていかなくてはいけないなって思います」。そう語ったキャプテンの庄子が続けた言葉で、“11年後”の旭川実業が目指すものがはっきり理解できた。
「2-0というスコアだけを見れば、もしかしたら良いのかもしれないですけど、内容としてはもっと自分たちのサッカーをレベルアップさせていかないと、ただの偶然での勝利だと思われてしまうかもしれないので、これからはマグレではない勝利を積み重ねていければいいかなと思います」。
試合後の旭川実業は慌ただしく会場を後にした。17日間にも及ぶ遠征を最高の勝利で締め括った彼らは、聞けばフェリーで北海道へ帰るという。「着くのは明日の夕方ですね」。そう笑った富居監督とスタッフが帰路に就く船上で、それこそ缶ビールの祝杯ぐらいはあげたのかどうか、今度お会いした時にそれとなく聞いてみるつもりだ。
旭川実業高校を率いる富居徹雄監督
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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