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アメリカの女子プロサッカーリーグ「ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ」(NWSL)に、2022年から参戦したエンジェル・シティFCで、日本人女子選手が足跡を残した。FW遠藤純は、スピード感あふれるプレーと高精度の左足クロスが魅力のアタッカーだ。日テレ・東京ヴェルディベレーザでスキルを磨き、2021年にアメリカ挑戦を果たした若きレフティは、昨季開幕戦で1ゴール1アシストを記録。本拠地バンク・オブ・カリフォルニア・スタジアムのスタンドを埋めた2万2千人の観客を熱狂させた。初年度は12チーム中8位で終了したが、チームは平均観客数1万9千人超でNWSLのリーグ最多観客数を記録した。
最年少の19歳で出場した2019年のフランスワールドカップから4年。オーストラリアとニュージーランド共催の女子ワールドカップを5カ月後に控え、遠藤は今月16日からアメリカで行われる「シービリーブスカップ」に招集されている。池田ジャパンのサイドの鍵を握るレフティーに、アメリカでの1年間の成長と、今大会にかける意気込みを聞いた。
【観客数2万人超!ハリウッドの街で変化したプレーする喜び】
ーーアメリカ移籍から1年が経ちました。激動の一年だったと思いますが、一番変化したと感じるのはどんなことですか?
サッカーもプライベートも、どちらも大きく変化しましたね。いろいろな挑戦をする中でサッカーがさらに楽しくなりましたし、プライベートでも今まで以上にありのままの自分を表現できるようになったのは、一番変わったところだと思います。英語にも慣れてきましたが、独り言はずっと日本語ですね(笑)。
ーーロサンゼルスといえば、ファッションも文化も活気あふれるハリウッドの街ですよね。遠藤選手はクラブのSNSでも他の選手とともに華やかなドレス姿や個性的なファッションで登場したりして、自由な感じが伝わってきます。
こちらでは露出が多めのファッションが多いですね。元々、ファッションが大好きで、特に海外ファッションには憧れていたんですが、住む国の文化やTPOに合わせることが必要ですし、日本ではそのような格好で毎日過ごすわけにはいかなかったのですが(笑)。ロサンゼルスでは周りの人たちが自分が思い描いていたファッションを着こなしていて、私も素の自分を表現できるようになりました。最初はオシャレな人が多くて何度も振り返って見てしまいましたね。ただ、周りの人も個性豊かな人を差別するような目で見たりせず、個を尊重した生活を目の当たりにしているので、自分自身もいろいろな人や価値観を受け入れるようになったし、素の自分を受け入れてもらえる環境なので、すごく恵まれているなと思います。
ーー食事の面では、アメリカでも自炊に力を入れているようですね。
はい、基本的には自炊しています。食材はほとんど日本のスーパーで買っているのですが、物価がすごく高くて驚くこともよくあります。でも、選手として体が資本なので、食事の面は投資と割り切ってお金を使うようにして、栄養バランスのいいものを食べるようにしています。
ーー昨季はクラブ創設元年で、順位は12チーム中8位でした。開幕戦で1ゴール1アシストと鮮烈な印象を残して全試合に先発しましたが、どんなシーズンでしたか?
一番記憶に残っているのはやっぱり開幕戦ですね。アシストとゴールを記録したこともあるのですが、リーグ戦で2万人を超える観客の前で戦ったのは初めてでした。当時はまだコロナ禍でしたが、ボールを持つたびにお客さんが立ち上がったり、大歓声に包まれて。毎試合、それが当たり前の環境でプレーさせてもらえて、挑戦して良かったなと心から思えました。
ーー昨季の平均観客数は19,105人でした。共同オーナーに女優のナタリー・ポートマン、女子テニスのセリーナ・ウィリアムズ、女子サッカー界のレジェンド、ミア・ハムなど著名人が名を連ねたことも大きな話題になりましたね。
そうですね。観客の中には小さい女の子もたくさんいて、家族連れが多いです。ロスが拠点で、オーナーがオーナーなので、いろいろな層の方が見に来てくれますね。NWSLは人気のあるアメリカ代表選手が各チームにいて、プロモーションにも力を入れているのも大きいですね。とはいえ、プレーしている側が楽しまないと見ている側にも伝わらないと思うので。そういうことはこちらにきてすごく意識するようになりました。
ーープレーしながら、観客の反応も意識していますか?
はい。開幕戦でゴールを決めたので、それ以降、ボールを持つたびに立ち上がってくれたり歓声が上がったりして、最初はその期待に押しつぶされそうになっていたのですが(苦笑)。こちらはチームメートもサポーターもみんな本当に切り替えが早いので、自分自身も変われました。
ゴールをした時の喜び方も違いますね。たとえば、2-0で勝っている状況で得点しても、全員が得点者に抱きつきにいくんです。一つのゴールに対してベンチも、観客も総立ちで喜んでくれる。だからこそ自分も得点をしたいと思うし、勝利への思いが強くなりました。
【スピードスターからチームを支えるダイナモへ】
ーーFWとして、左右両翼でプレーすることが多かったですね。持ち味の左足を生かして攻撃に参加しつつ、中盤でバランスを取りながら守備でも体を張っていた印象です。
日本にいた時と一番変わったのは、運動量が増えたことです。ボールを持ったら、仕掛けて自分でこじ開けようとするタイプの選手が多いので頼もしいですが、悪く言えば、ボールを失った時に守備に戻らないことが多い。そのミスをカバーすることが多くて、試合中の走行距離は毎試合上位に入っています。「走ることでチームを支えよう」と切り替えるようになったのは、大きな変化だと思います。
ーー日本ではスピードで違いを見せていましたが、アメリカではスピードは通用すると感じますか?
日本では最大スピードの目標値を30キロに設定して出せたことがなかったのに、アメリカで32キロが出たんですよ。速い選手と競ったり、追いつかなければいけない場面があって、それが当たり前の基準の中でやると変われるんだな、と実感しました。ただ、試合中の最大スピードではなかなかチームでも上位にはいけないですね。だからこそ、タイミングをずらして一瞬のスピードで相手の背後に入ることは意識しています。フィジカル面では、チームの練習にプラスしてジムに通って、筋トレに励んでいます。
ーースピードもタイミングも海外基準になりつつあるんですね。間合いの取り方や、体の当て方、反転するタイミングなども変化したように見えます。
そうですね。体が大きい選手が多いので対等に当たったら負けますが、タイミングを少しずらすだけで勝てることがあるし、日本と比べて相手のリーチが長い分、逆にフェイクした時に相手の重心が完全にずれるので。その瞬間を狙って相手の背後に向かってドリブルをしてみたり、1年を通していろいろ研究しました。
特に意識しているのは、ボックス内で仕掛けることですね。1対1の場面で相手が引っ張ったらペナルティキックを得られるし、何かとチャンスにつながることが多いですから。
ーーシュートはどうですか? アメリカは全体的にミドルレンジからのシュートが多いですが、遠藤選手も積極的に足を振っているように見えます。左足の無回転ミドルや、利き足ではない右足のゴールもありました。
プレーの選択肢を増やすために、シュートレンジは練習から意識して広げてきました。左足は警戒されやすいので、一回右で打って相手に「右足で打ってくる」と思わせるようにしています。そうすれば左足が生きてきますし、早めに右を使って、相手の変化を見て判断するようにしています。
ーーシュートのこぼれに味方が詰めるシーンも多く、そういう意味でも「打っておく」ことは大事ですね。
そうですね。私が左で持った時はシュートを打つとチームメートもわかっているので、詰めてくれています。NWSLではキーパーがシュートをキャッチせずに弾くことが多いので、もっと味方のシュートのこぼれ球に詰めて点に繋げられたらいいんですが…そのポジショニングは今後の課題ですね。
ーーチームメートから刺激を受けることも多いんじゃないですか?
それはありますね。ベレーザでプレーしていた頃も周りに日本代表選手が多い中でいろいろな刺激を受けていましたが、エンジェル・シティは元アメリカ代表選手やニュージーランド代表のキャプテンなど、いろいろな国の選手が集まっています。プレースタイルはそれぞれ違って、毎試合毎練習、学ぶことがありますね。
【ワールドカップまで5カ月。強豪3カ国への挑戦】
ーー2月16日に開幕するシービリーブスカップに出場しますが、どんなことが楽しみですか?
アメリカでプレーするようになってからこの大会に出場するのは初めてなので、とにかく楽しみですね。日本代表としてプレーする場なので、スイッチを切り替えて臨みます。うまくいかないことがあっても、とにかく楽しんでプレーしながら、チームの勝利に貢献したいです。
ーー代表では左サイドが主戦場ですが、昨年10月のニュージーランド戦や11月のイングランド戦、スペイン戦では3バックのウイングバックにもトライしました。代表での役割や、求められるプレーについてどう感じていますか?
チームとは違うポジションなので難しさもありますが、私は攻撃の選手なので、もっと得点に関わることは求められていると思います。ニュージーランド戦は3バックでも高い位置からディフェンスしたり、ボックス内に進入してチャンスメイクできましたが、ヨーロッパ遠征の2試合では相手に押し込まれて下がり気味になってしまい、プレーも消極的だったので反省しています。今回のシービリーブスカップも相手は強豪ばかりですが、チャレンジしたいですね。
私はいい時と悪い時の波があるので、そこは課題です。うまくいかない時もチームメートと話して改善したり、ポジションの近い選手と話をしながら、自分の良さをチームのために活かせるようにしたいです。
ーー今大会で、特にここを見て欲しい!というプレーはありますか?
チームで生かせている運動量の部分は、代表でも出したいですね。(長谷川)唯さんや(清水)梨紗さんは、チームでも代表でもかなりの運動量ですし、唯さんは自分でスコアできる力もあるので。私も走ってチームを助けながら、そういうところを見習ってゴールを狙いにいきます。
ーー対戦相手のカナダ・ブラジル・アメリカで、楽しみな試合はありますか?
個人的には、カナダのセンターバックにエンジェル・シティのチームメート(Vanessa Gilles=リヨンに期限付き移籍中)がいるので、対戦が楽しみです。アメリカは世界チャンピオンですし、ブラジルはテクニックがあって、何をしてくるんだろう?とワクワクしますね。物おじせず、どっしり構えつつも積極的にプレーしたいと思っています。
ーー最後に、今年7月のW杯に向けての思いを聞かせてください。
メンバーに選ばれたいですし、そこを目指してやってきました。ただ、今はとにかく目の前の練習と試合にフォーカスして取り組んでいます。今回のシービリーブスカップに向けて気持ちを高めてきたので、いいプレーをしてアピールしたいですね。3月にはNWSLの新シーズンが始まりますし、そこで活躍することがW杯のメンバーにつながると信じて、1日1日を大切にしたいと思います。
文:松原渓
松原渓
女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。
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