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高円宮杯全日本U-15選手権大会
高円宮杯全日本U-15選手権大会の決勝戦(12日27日、東京・味の素フィールド西が丘)は、サンフレッチェ広島F.C.ジュニアユースとヴィッセル神戸U-15の対戦に決まった。12月25日に行われた準決勝で、広島は柏レイソルU-15、神戸がセレッソ大阪U-15相手にそれぞれ快勝したのだ。
第1試合の広島対柏はスコアこそ1対0の接戦だったが、内容的には前後半とも広島がゲームを支配。シュート数は15本対3本と圧倒した。
一方、第2試合の神戸対C大阪はシュート数ではC大阪が上回ったものの、やはり内容的には前後半ともに神戸がコントロール。風下の前半のうちに2点を奪ってリードすると、後半立ち上がりにも3点目を追加するという完勝だった。
普通、こうしたノックアウト式トーナメントの終盤になると、各チームの力は拮抗しているため接戦となり、勝敗の行方が延長やPK戦に委ねられることも多い。
昨年の高円宮杯では、サガン鳥栖U-15が大会連覇を達成したが、その2年連続優勝を飾った鳥栖でも準決勝の名古屋グランパスU-15との試合はスコアレスドローに終わり、PK戦の末に決勝進出を決めている。
あるいは、先日終了したカタール・ワールドカップで優勝したアルゼンチンも、準々決勝ではオランダにPK戦に持ち込まれ、フランスとの決勝戦でも壮絶な点の取り合いの末、PK戦で決着した。
だが、今年度の高円宮杯で決勝進出を決めた両チームの勝ち上がりを見ると、広島が2回戦で横浜F・マリノスジュニアユース追浜相手に1対1で引き分けてPK戦を制して勝ち上がっているが、その他の試合では両チームともすべて90分で勝利を決めている。
つまり、27日の決勝は「好調のチーム同士の対戦」と言っていいだろう。
とくに、神戸は1回戦(対横河武蔵野FC U-15)が5対0、2回戦(対アビスパ福岡U-15)が3対0、準々決勝(対名古屋グランパスU-15)が4対0、そして準決勝(対C大阪)が3対0と、全試合で3ゴール以上を決め、しかも、ここまで4試合連続で無失点勝利しているのだ。
決勝戦の最大の注目は、神戸がこのまま複数得点・無失点を続けて“完全優勝”を成し遂げられるかどうかだ。
神戸の強さのベースは、選手たちのテクニックの高さにある。
ボールを持ったらけっして攻め急がずに、最終ラインからしっかりとパスをつないでビルドアップしながら、相手の守備にギャップができるのを待ってゆっくりと攻める。
パスのうまいチームは往々にしてパスをつなぐことが自己目的化してしまうことがあるが(たとえば、ワールドカップで日本代表が逆転勝ちしたスペイン代表などがその典型だ)、その点で神戸は基本的にはパスをつないでビルドアップする一方で、チャンスと見るや最終ラインやアンカーの谷口央和からワントップの渡辺隼斗をターゲットにロングボールを送り、セカンドボールを拾って攻めるというオプションも持っている。
渡辺はポストとなって左右のサイドハーフにも展開。こうした大きな展開も武器となっている。非常にバランスの良い攻撃をするチームということができるだろう。
前線でパスを引き出す渡辺。両サイドでドリブルからチャンスを作る、瀬口大翔と大西湊太。両サイドバックもしっかりオーバーラップをかけ、左右のバランスも絶妙だ。
面白い存在だったのが、先制ゴールを決めたインサイドハーフの里見汰福。2009年生まれの13歳。中学1年生の選手だ。
U-18カテゴリーのチームでは1年生から出場する選手は珍しくない。だが、U-15の場合、2歳の違いけっして小さくないので、1年生から先発を任される選手は少ない。
そんな中で里見は2歳年長の選手を相手にしても、フィジカル的にもまったく遜色ないプレーができていた。
29分の先制ゴールの場面では右サイドから瀬口がクロスを入れ、大西が合わせようとしたがうまくボールに触れられなかった場面だ。ボールが流れてきたところに飛び込んできたのが里見だった。
里見が触ったボールはそのままゴール右のポストに当たってゴールイン。神戸の先制点はあっけなく決まった。
里見はシュートを狙ったわけではなかったから、幸運な得点だったのは間違いない。だが、重要なのはボールが流れてくるのを察知して、そこで合わせるため、里見がダッシュして飛び込んでいったところだ。その勇気があったからこそ生まれた先制ゴールだった。
そして、10分後には里見は渡辺の2点目をアシストする。
バイタルエリアにいた里見に相手選手がさわったこぼれ球が回ってくる。その瞬間、里見はワンタッチで渡辺にパスを送り、渡辺がそのまま決めたのだ。
一瞬の判断で渡辺の前にスペースにボールを入れた里見の判断力が生んだゴールだ。
つまり、里見はゴール前の重要なポイントを察知する独特の嗅覚のようなものを持っているのだろう。そこに自らが飛び込んだのが1点目のゴール。そして、そのポイントにワンタッチ・パスを送ったのが2点目のアシストということになる。
ちなみに、後半には相手のセンターバック同士のパスが緩くなったところに飛び込んでパスカットを狙った場面もあった(54分)。つまり、里見の独特の嗅覚は守備面でも生きていたのだ。
さて、こうした多彩な攻撃を見せる神戸に対して、決勝戦で広島がどこまで迫れるかだが、広島は非常に実践的なプレーができる選手が多い。MFは徳山逸と名越貫陽のコンビだが、攻撃に参加する名越とその後方でバランスを取る徳山の関係が素晴らしい。僕は、徳山のプレーを見ていて、かつて広島の中盤でバランサーとしてプレーしていた森保一(現、日本代表監督)を思い出した。
そして、左サイドではドリブラーの原湊士とそれをサポートする名越。そして、オーバーラップをしかける船波唯人のコンビネーションが良かった。後半には原は右サイドに回り、右のサイドハーフだった小林志紋が左右入れ替わったが、51分のこの試合唯一の得点は右サイドで原が入れたクロスが相手DFに当たったボールを逆サイドで拾った小林が決めている。
左右は相手との兼ね合いがあるのだろうが、いずれにしても両サイドだけで点を取り切ったことは大きい。また、右サイドバックの船波は深い位置まで進出してクロスを入れて、再三チャンスを作っていた。
中盤での守備を安定させ、そしてボールを奪ってから大きなサイドチェンジも含めて、鋭いカウンターをしかけてくる広島。好調の神戸にとってもやりにくい相手であるのは間違いない。
テクニックを生かして幅広い攻撃をしてくる神戸に対して、広島がどのように対抗して、そしてどのように決定機に結びつけることになるのか……。好調チーム同士の決勝戦は見逃せない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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