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悩めるキャプテンの重圧。川合陽が改めて実感した仲間への揺るがぬ信頼【高円宮杯プレミアリーグWEST 清水エスパルスユース×セレッソ大阪U-18マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史川合陽
知らず知らずのうちに、その両肩には大きなプレッシャーがのしかかっていた。もがいても、もがいても、白星を手繰り寄せられない焦りと、迫り来る降格という恐怖。キャプテンという立場が、その感情をより増幅させていたとしても無理はない。だが、大事な試合を前に改めて実感したのだ。「自分は1人ではない」と。
「自分1人で『チームを勝たせよう』と思い過ぎていたのかなと。もちろん自分がキャプテンとしてチームを引っ張らないといけないですけど、今日は本当にみんなを信頼してやれたなと思いますし、この勝利でそれがより強くなったと思います」。
最終節で鮮やかな逆転勝利を収め、プレーオフにプレミアリーグ残留の可能性を繋いだセレッソ大阪U-18。そのチームをキャプテンとして牽引してきた川合陽は、1年間を掛けて仲間と築いてきた信頼の深さを、この土壇場の90分間で確かに感じていた。
滑り出しは上々だった。中断前までのプレミアでは5勝2分け3敗と白星先行。夏のクラブユースでは並み居る強豪をなぎ倒し、日本一へと辿り着く。だが、そこから先はいばらの道。「初めは良い感じでしたし、クラブユースで優勝もできて良かったんですけど、そこから本当にジェットコースターみたいに調子が落ちていったので、凄く苦しかったです」と川合。内容は悪くない試合でも、とにかく勝利が付いてこない。
「毎週負けていたので、次の週の練習から雰囲気を良くしようとずっと思っていたんですけど、なかなか良くならずにズルズル来てしまいました」(川合)。気付けば7月以降のリーグでは12試合を戦って一度も勝利がないまま、自動降格圏の11位で最後の1試合を迎えることになる。
「今週に陽と(春名)竜聖を中心に、1年生から3年生までメンバー外の選手にも、今の状況をどう思っているのかということを全体に聞くようなミーティングがあったんです」。そう明かすのは3年生の末谷誓梧。「『悔いを残さないように練習からやっていこう』と話しました」と引き継いだ川合の言葉はさらに続く。
重要な一戦での勝利を喜ぶC大阪U-18の選手たち
「技術はもちろん求めていくんですけど、それ以前に球際、切り替え、ハードワークは当たり前にやらないといけないので、そこをもう1回確認し合いましたし、『ミスをしてもいいから、恐れずにやれ』ということと『チームのためにも走り続けろ』とは言い続けました」。試合が近付くにつれて、チームがまとまっていく確かな実感が川合にはあったという。
それでもキャプテンとしての重圧は、依然として心の中を支配する。オレがやらなくては。オレが勝たせなくては。そんな想いを抱えていた決戦前日。あるコーチからの一言が、不思議なぐらい自分の中で腑に落ちた。
「『1人で背負うな』と言われたんです。確かに今まで1人で何とかしようと思い過ぎていたのは間違いなかったで、その一言が凄く自分に響いて、それで『みんなを頼ろう』と思ったんですよね」。
悩んで、もがいて、苦しんできたのはオレだけじゃない。みんなで一緒に戦ってきたんだ。もちろんわかってはいるつもりだったけれど、コーチの言葉で再確認することができた。周りには厳しい日常をともに潜り抜けてきた、頼れる仲間がいる。「自分は1人ではない」。川合が探し求めていた最後のピースは、ようやく綺麗に心へ埋まった。
プレーオフ圏に付ける10位の清水エスパルスユースと対峙した一戦は、先制される展開を強いられたが、前半のうちに木實快斗のゴールで追い付くと、後半開始早々に再び木實が得点を挙げ、逆転に成功する。
「もう1点差には嫌な記憶しかないので、心臓が持たないような感じでした」と川合が話したように、この夏以降は1点リードした状況から、何度も何度も悔しい結果を突き付けられてきた。だが、この日の桜の戦士は怯まない。果敢に、冷静に、着々と時計の針を進めていく。「危機感を持って、集中力を高く持ち続けてくれたみんながいたから、2失点目を奪われなかったのだと思います」。みんなの存在が、川合にとってはとにかく頼もしかった。
「誓梧がやっと3点目を決めてくれたので、そこでちょっとホッとしてから、プレーも落ち着き始めて、さらにボールも保持できたので、そこから4点目に繋がったと思います」(川合)。ファイナルスコアは4-1。自動降格圏から生還したチームは、結果的に清水ユースと順位を入れ替え、プレーオフへと臨む権利を力強く勝ち獲ってみせた。
もともとキャプテンをやるようなタイプではないことも、川合は自認しているという。だが、この1年で確実に遂げてきた成長は、島岡健太監督にもポジティブな気付きを与えているようだ。「陽はおとなしくて、ちょっと引っ込み思案な子なんですよ。でも、それを破ろうという自分が見えているのは頼もしいなと。やっぱり自分で何かをやろうと、自分で切り拓こうとしないとダメなんだなって、彼を見て改めてそう思わされました。自分を変えようとか、もっと自分でいろいろなことをできるようになろうという姿勢が素晴らしいですね。凄く成長したと思います」。
本人にもキャプテンとしての成長について尋ねると、少し考えてからこう言葉を紡ぐ。「統率力は以前より身に付いたかなって。あとは、経験として負け続けていたので、気持ちは強くなっていると思います(笑)。最初の頃はみんながキャプテンという感じの方がいいかなと思っていましたし、今でもその想いはあるんですけど、やっぱりキャプテンという役割を任されている以上は、自分がチームを引っ張っていかないといけないという自覚は芽生えました。ちょっとは逞しくなれていたら嬉しいですね」。浮かべた笑顔が印象的だった。
泣いても、笑っても、あと1試合。プレーオフはプレミア残留とチームの未来が懸かる重要な90分間だ。「プレーオフに負けたら、今日の勝ちも意味がないので、あと1週間、もう1つチームとしてまとまって、強くなって、来週に臨みたいと思っています」。確かな自覚の中に、溶け合った仲間への信頼。2022年のC大阪U-18が誇る逞しいキャプテン。川合陽の覚悟に桜の明日は託されている。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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