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志願のコンバートで掴んだトップチーム昇格。サガン鳥栖U-18・大里皇馬の確かな自己分析力 【高円宮杯プレミアリーグWEST 清水エスパルスユース×サガン鳥栖U-18マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
その11番という背番号からも、普通のセンターバックでないことはすぐ理解できるだろう。まだ本格的にトライし始めてから、1年も経っていない新境地ではあるが、このポジションで生きていく覚悟は確実に芽生え始めている。
「たぶん他の人から見たら3年生でポジション変更というのはだいぶリスキーだと思われたはずですし、フォワードで通用しないからコンバートされたんじゃないかみたいに思われているので、そこは少しずつ払拭できればいいかなって。センターバックは自分がやりたいと言って始めたポジションなので、そこでトップ昇格できたことは良かったですね」。
先日トップチームへの昇格が発表された、サガン鳥栖U-18の大里皇馬が秘めるポテンシャルは、とにかく高い。ここまで首位を快走するプレミアリーグでもチームトップの5ゴールを記録。「セットプレーでも前期は結構マークも薄かったんですけど、点数を獲ってくると相手も厳しくマークに付いてくる中で、どうやって打開して点を獲るかが求められてくると思うので、ここからまた点数を積み重ねることができたら本物かなと思います」と話す言葉はまるでストライカーのそれ。無理もない。昨シーズンまでの主戦場はそのポジションだったのだから。
それは志願のコンバートだった。「フォワードをするためにセンターバックというポジションを知りたいというところから、自分がやりたいということを伝えて始まりました」。大里の2022年シーズンは、センターバックとして幕を開ける。
「ずっとフォワードをやってきたことで、相手がどういうことをされたら嫌なのかはわかるので、速い相手だったらこういう間合いの取り方だとか、強い相手だったらこういう体の当て方だとか、自分なりに考えてやっています」。競り合いや潰す部分はお手の物。課題はビルドアップやスライドのタイミングだが、できなかったことが少しずつできていく感覚を知って、よりセンターバックの楽しさに目覚めていく。
良い意味で既存の枠に囚われるつもりもない。「『アイツ、どこのポジション?』と言われるくらい、動いて、攻めて、守れて、というのが自分の理想なので、点も獲れるセンターバックを目指してやっています」。セットプレー時はもちろん、時にはドリブルで前線まで駆け上がっていくことも。自らの言葉を体現するような積極性も頼もしい。
実際にトップチームの試合を見ていく中で、そのスタイルを磨いていくことの正しさを体感したという。「サガン鳥栖自体がジエゴ選手や(ファン・)ソッコ選手もどんどん上がっていきますし、練習に行った時に話を聞いた原田亘選手も、センターバックでもサイドバックでもどんどん攻撃参加していくような、前向きにプレーするチームだと感じました」。ポテンシャルを高く評価したクラブも大里の昇格を決断。来シーズンからは名前を挙げたような彼らと、ポジションを争うことになる。
この夏はトップチームの練習に参加する時間も長かったが、新米センターバックに向けられたある“先輩”のアドバイスが、新たな気付きをもたらしてくれたそうだ。「田代雅也選手は、1本のパスにしても『場所に置くんじゃなくて、人に点で合わせろ』と。ロングボール1つにしても『“ここらへん”のように大まかにボールをスペースに置くのではなくて、点で合わせろ』と自主練を一緒にしていた時に言ってもらったんです。まだ全然できていないですけど、そういうところもトップの選手から吸収できれば、もっと成長できるんじゃないかなって思いました」。とにかく成長に貪欲な姿勢が、さらなる飛躍を予感させる。
この日の清水エスパルスユースと対峙したアウェイゲームは、お互いに激しく打ち合う展開に。鳥栖U-18は3度に渡ってリードを奪ったものの、三たび追い付かれてのドロー決着。とりわけ3失点目に繋がるPKを献上してしまった大里は、やや厳しい表情で90分間を振り返る。
「自分を含めて1人1人がまだ甘えている部分があって、隙が出てしまったのがこの結果の大きな原因かなと思います。自分たちが守備で我慢できなかったことは課題ですね。ここからもどんどん難しい試合が増えていくと思うんですけど、そこでもう1つ守備の強度だったり、後ろでの連携の仕方だったり、そこのクオリティの高さをもっと高めていけたら、最終的には勝って笑えるような形になるはずだと考えています」。
これからは周囲からも当然“プロになる選手”という見方をされることになるが「後ろでの責任感は前よりも少し増しましたね。1つ1つのパスの質だったり、周りに対するコーチングの質だったり、そういうプレーの質を他の人よりも見られていると思うので、そこは凄く意識するようになりました」ときっぱり。少し上がったはずのハードルは、逆に大歓迎。それも自分の成長に繋がると十分に理解しているからだ。
もともと中学年代のチームは鹿児島の太陽スポーツクラブU-15。薩摩の大地が育んだ大らかな雰囲気も大きな魅力。しっかりと言葉を選びながら、自分の考えを口にできる部分も、プロサッカー選手には必要な要素。ただ、「地元の男友達は昇格が決まって『おめでとう』と言ってくれたんですけど、女の子とはあまり話さないんです(笑)」と少し照れながら話す姿は、ごくごく普通の高校生で思わず笑ってしまう。
プロへの扉を開いてくれた鳥栖のアカデミーで過ごす時間も、もう終わりが見えてきた。クラブへの感謝と、チームメイトへの感謝を形にするため、ここからの2か月で成し遂げたいことは明確過ぎるほど明確だ。「最近チームでも、『ファイナルに行って、そこで勝って、みんなで笑って終わろう』と話しているので、ここからファイナルまで入れてプレミアはあと8試合ありますけど、1試合1試合成長して、チームとしてまた上に行けるような姿を見せていけたらなと思います」。
その伸びしろは無限大。行き着く先はセンターバックか、ストライカーか、はたまたまったく別のポジションか。たとえそれがどこであっても、大里は大里らしく、謙虚に、強気に、ひたすら自身の成長と向き合い続けていくことだけは、間違いない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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