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待ちに待った仲間との再会。青森山田高校・小湊絆の「普段の3倍くらい早く感じた」90分間 【高円宮杯プレミアリーグEAST 横浜FCユース×青森山田高校マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
試合終了から1時間は経っていただろうか。水色のユニフォームを纏った選手たちの中に、1人だけ白いユニフォームの選手が混ざり、記念写真のフレームに収まる。きっとみんなが浮かべていたその笑顔は、3年前と変わらないそれだ。少しぐらい離れた時間があったとしても、会って話せばそんな距離は一瞬で縮まる。一緒に1つのボールを追い掛けた仲間というのは、そういうものだ。
「3年間一緒にやってきたチームメイトと、こうやってまた高校年代最高峰のリーグで試合ができて、メチャメチャ楽しかったですし、体感も普段の3倍くらいは早く感じたかなと思います。気付いたら後半のアディショナルタイムだったので、もうちょっとやりたかったですね(笑)」。青森山田高校の10番。小湊絆はジュニアユース時代の3年間をともに過ごした横浜FCユースの仲間との“再会”を、ようやく最高に楽しんでいた。
2年生だった昨シーズンのプレミアリーグでも、小湊にとっての“古巣対決”自体は実現していた。だが、ホームでもアウェイでもピッチには登場したものの、どちらも後半からの途中出場。高校年代三冠を獲得したチームの中での立ち位置はスーパーサブであり、自身の思い描いていたような形での“再会”とはならなかった。
最上級生となった今シーズンも、前期はホームに彼らを迎え撃つ格好となったが、チームは3連敗中と泥沼状態。「前日とか全然寝られなかったです。『4連敗になったらどうしよう……』って。中学時代のチームメイトと対戦できる楽しみもあったんですけど、全然寝れなくて……」。この時期はキャプテンマークも託されていた10番に試合を楽しむ余裕があるはずもなく、結果も0-1で敗れてしまう。残された直接対決のチャンスは、気付けばもう最後の1回だけになっていた。
インターハイでは初戦敗退を喫すると、再開したプレミアでもいきなり2連敗。苦境が続いていた中で、前節は夏の全国王者・前橋育英高校を相手に、終盤の決勝点で劇的勝利。チーム状態が上向いたタイミングで、横浜FCユースとのリターンマッチが訪れる。
「自分の中では選手権ももちろんですけど、高校3年間の中で一番ぐらいに大事なゲームだなって。自分にとって『今季最大のゲーム』と位置付けて横浜に来ました」。並々ならぬ決意で挑む凱旋試合。フォワードの小湊にとっては、とりわけ対戦を楽しみにしていた選手たちがいた。
「ショーンとは事前にちょっと連絡を取りました。先週は出ていなかったので、『さすがに出てこいよ』とは言いましたね(笑)。ショーン、ギン、リュウセイが後ろの3枚なので、あの3人とはマッチアップしたいなと思っていました」。ヴァン・イヤーデン・ショーン。池谷銀姿郎。中村琉聖。いずれもジュニアユース時代のチームメイトで構成される3バックとの“バチバチ”が何より待ち遠しかった。
前半19分。セットプレーのこぼれ球が、ストライカーの足元へ転がってくる。「角度がなかったですし、『ゴロだと絶対に相手の足にぶつかるな』と思ったので、浮かせながら枠だけには入れようと」蹴り込んだボールは、GKのニアサイドを破ってゴールネットへ滑り込む。
「目の前に友達の親もいましたし、あまりガッツリ喜ぶのは申し訳ないかなと思って、控えめに喜んでおきました。でも、やっぱりこの試合には何かがあるのかなって。普段だったら絶対にあんなところにボールは転がってこないですから」。確かにいつものそれよりは、少し抑えめに繰り出したガッツポーズ。気まぐれなサッカーの神様をも味方に付けた10番が、古巣相手に成長を証明するゴールを挙げてみせた。
1-1で迎えた最終盤。90+3分に再び小湊へ絶好の得点機が到来する。左サイドをドリブルで運び、追い掛けるヴァン・イヤーデン・ショーンを振り切ると、GKと1対1に。しかし、丁寧に右足で打ち込んだシュートは、無情にも枠の右側へ逸れていく。
「アレを決められないのが自分の最大の弱みでもありますし、アレを決めないと自分の存在価値を示せないかなって。『来た!』とは思いました。完全にドラマチックな展開過ぎて、あとは決めるだけだったんですけど……」。程なくしてタイムアップのホイッスルが鳴り響く。スタンドへ挨拶に向かう途中、悔しげな表情を浮かべた小湊が印象的だった。
とはいえ、「時間が過ぎるのが本当に早かったです」という言葉に象徴されるように、4試合目にしてようやく心から“再会”を楽しむことができたのだろう。池谷が小湊に向かって「やっぱりオマエはオレたちのチームメイトだな」と最後のシュートミスをイジり、周囲に笑い声が生まれる。そんな何気ないやり取りも微笑ましい。
いよいよ来月からは最後の高校選手権が幕を開ける。日本中でただ1チームだけ全国連覇を狙うことを許された青森山田のエースとして、その目標に立ち向かう覚悟はもちろんとっくに定まっている。
「青森山田の3年間でたくさんの経験をさせてもらったので、あとはそれをすべて出し切るための大会が選手権だと思っています。抽選会にも自分が行かせてもらったんですけど、やっぱり選手権のテーマソングの音楽を聴いていると『いよいよだな』って感じましたね。この“3年目の選手権”を戦うために、アイツらの元を離れて青森に行ったところもありますし、今日は自分のジュニアユース時代の監督だった小野(智吉)さんも来ていたので、そういう方々に感謝の気持ちも示せるように、悔いが残らないように、自分の3年間のすべてを出して、仲間たちと全力で日本一を狙っていきたいです」。
冒頭で触れた記念撮影。お願いすれば自分も撮らせてもらえそうではあったが、あえて申し出ることはやめておいた。何となく、あの瞬間は彼らだけのものだと感じてしまったのだ。それぐらいに10月の高校生たちの今は、キラキラと輝いていた。サッカーを続けていれば、またきっとどこかのピッチで再会する時は来る。その時に変わらぬ笑顔で出会うため、この日の写真に映った誰もが、それぞれの選んだ道へと力強く歩み出していく。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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