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微笑みのストライカー。セレッソ大阪U-18・木下慎之輔がサッカー王国・ブラジルで気付いたこと【NEXT TEENS FILE.|高円宮杯】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
『微笑みのストライカー』とでも表現すればいいだろうか。セレッソ大阪U-18が誇る点取り屋、木下慎之輔はピッチ上で笑顔を見せることが多い。もちろんゴールを奪った時も、あるいはゴールを奪えなかった時も、その表情には頻繁に笑顔が浮かぶ。
「『ボールを受ける』という部分でチームメイトとイメージが合ったりした時は、成果として出ることが凄く楽しいので、そこで笑顔が出てしまうと思います」。そう話し終えた時も、表情は“ニコッ”という言葉がピッタリ合うようなそれ。決して雄弁なタイプではないが、その笑顔を見てしまうとこちらまで気持ちが和んでしまうから、不思議なものだ。
今シーズンのプレミアリーグでは、第3節のヴィッセル神戸U-18戦と、第4節の東福岡高校戦では圧巻の2試合連続ハットトリックを記録。ここまで11ゴールを挙げて得点ランキング首位に立っており、世代最高峰の舞台でも、その鋭い得点感覚を十二分に解き放っている。
8月にはセレッソが提携している、ブラジル1部リーグ所属のレッドブル・ブラガンチーノで1か月間の留学を経験してきた。「行く前は不安が大きくて、本当に『命を懸けて行く』ぐらいの気持ちで行ったんですけど、向こうは人が本当に温かくて、みんなもすぐに話しかけてくれたりしたので、不安はすぐなくなりました」。環境にはすぐに馴染めたが、痛感したのはサッカーに対する“本気度”だった。
「日本とは全然違うことが多いので、新鮮なことが多くて楽しかったです。まずはゴールに対する気持ちの強さというか、特にフォワードだったら『ゴールを決めないと価値がない』と言われましたし、守備だと僕が行ったチームは守備の戦術という感じではなくて、個人で取り切るみたいな、個人のレベルを上げることを重要視しているのかなと感じて、そういう違いはありました」。
また、決してメンタル面でも劣っていたわけではなかったが、向こうの選手が見せる主張の強さは、木下にとっても想像以上のものだった。「僕は結構気持ちも持っているので、そういうところでは別に負けているとは思わなかったですけど、周りの要求してくる圧が凄くて、そういう気持ちの強さは感じました。あっちの人は恥ずかしさもなく自分を最大限にアピールするので、自分もそれに良い意味で流されて、こっちに帰ってきてもそれが少し出せているのかなと思います。ちょっとブラジルに影響されています(笑)」。
言葉が通じない環境でサッカーをするのは初めてのこと。だが、そこでも持ち前の“武器”が生きたという。「やっぱり信用してもらえないとパスも出てこないですし、日頃からのコミュニケーションも大事なので、僕は笑顔で喋ることを大事にしていました。笑顔は通用したかなと思います。笑っておけば何とかなるかなって(笑)」。笑顔はやはり万国共通。木下のそれは海外でも強みになり得るようだ。
チームを率いる島岡健太監督も、ピッチ内外で以前より周囲とのコミュニケーションが増えた変化を木下から感じている様子。今回の取材時も「まだちょっと苦手なところはありますね」とは言いながら、以前よりも積極的に話してくれたことは間違いない。そんなところにも王国の影響は波及しているようだ。
今までおぼろげだった“世界”というイメージも、今回の1か月でより現実的な輪郭を伴ってきた。「何となくとは言わないですけど、“世界”を目指してやっている中で、それがより具体的になったのが良かったかなって。実際に体験できたことで“世界”を少しでも身近に感じられたので、そこを目指す上では良い経験だったかなと思います。ちょっと表現するのは難しいところもありますけど、感じたことや課題もあったので、それを改善しつつ、もっとより強い武器を作って、伸ばしていかないといけないなって感じました」。
セレッソのアカデミーで過ごす時間も、もう3か月あまり。もっと成長した自分に出会うため、求められていることは過不足なく把握している。
「今は得点ランキング上位の方に入っているので、得点王は絶対に獲りたいなと思っています。今のユースでやっている『止める、蹴る』の技術は可能性が無限大にあると思っていますし、ここから先の自分にも絶対に必要になってくるものだと思うので、もっと伸ばしていけるように日々しっかり練習して、技術を上げていきたいです」。
何よりも笑顔とゴールの似合う桜のストライカー。ブラジルでの経験も大きな糧に、木下の才能が今以上の勢いで鮮やかに咲き誇る未来も、そう遠い日のことではなさそうだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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