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ガンバ育ちの守護神。ジュビロ磐田U-18・森脇勇人が果たした万博への帰還 【高円宮杯プレミアリーグWEST ガンバ大阪ユース×ジュビロ磐田U-18マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
試合後。3人のGKはとにかく楽しそうに談笑していた。2人はホームチームのトレーニングウェアを纏っており、1人はアウェイチームのユニフォームを汗で濡らしている。
「この3人はメチャクチャ仲が良くて、僕がこっちに帰ってきたら集まって遊びに行くような関係性なので、ただただ友達のトークみたいな感じでゆるく喋っていました(笑)」と話した森脇勇人はジュビロ磐田U-18の選手として、足立優と上西駿大はガンバ大阪ユースの選手として、久々の再会を喜んでいた。
それぞれ別のチームでプレーしていた同い年の3人は、ガンバ大阪ジュニアユースに集う。GKという特殊なポジションで切磋琢磨を続け、3年生に進級するとリーグ戦ではローテーションで起用されることに。横一線のように思えた関係性の中で、しかし森脇だけがユースへの昇格を見送られることになる。
「もうメチャクチャ悔しかったです。決まったのは夏やったんですけど、自分は上の学年の試合にも出ていたし、『上がれるやろ』と思っていたんです。『上がりたい』という意志も伝えていたんですけど、経験したことのない悔しさでしたね。そこから立ち直るのは時間が掛かりました」。
森脇の元には高体連も含めた複数チームからオファーが届いたが、その中からジュビロ磐田U-18へと進む道を決断する。「ユースに上がれへんって決まってから、次の進路を決めるまでにそこまで時間がなかったんですけど、やっぱりユースに上がれなくて悔しい想いをしているので、ユースに行きたいという気持ちを優先しました。ユースというものに未練があったのかもしれないですね」。
森脇は昨シーズンのプレミアに1試合だけ出場しているが、その唯一の試合が10月9日に行われた、万博でのガンバ大阪ユース戦だった。「試合に出ていた人が受験だったりで、ちょうどいい感じで僕にチャンスが回ってきたんですけど、その時はもうチームがどうこうというより、自分にとって特別な試合みたいな感じで、個人的にメチャクチャ緊張しましたし、自分のことばっかり考えていましたね」。
この一戦は上西がベンチで、足立はメンバー外。試合は前半にやはりジュニアユース時代のチームメイトでもある南野遥海にゴールを奪われ、0-1で敗戦。“古巣対決”で勝利を収めることは叶わなかった。
それからほぼ1年。森脇は再び万博へと凱旋する機会を得る。シーズン序盤こそ森脇真一にポジションを譲っていたが、6月以降はスタメンを奪取。「どちらが出てもみんなが納得できるくらいのパフォーマンスを2人で出せているので、たまたま僕が出ているという感じです」と語るように、素晴らしいライバルと競い合いながら、この日を迎えていた。
だが、森脇の中で“古巣対決”に対する想いは、1年前とだいぶ変化していたという。「毎週そうなんですけど、とにかく週末の試合に出るために練習していたので、ガンバが相手だからどうというのは特になかったんですよね。ここまでプレミアも何試合か出れていて、直近の3連敗には全部自分が関わっているので、『チームのために勝たないといけないな』と。今年はそういう気持ちでした」。間違いなく自分が勝敗を担う役割を託されている自覚が、以前より出てきたということだろう。
相手のプレッシャーをかわして味方にパスを送る
スタメンリストが配られると、森脇はスタメンに名を連ねていたが、足立はベンチで、上西はメンバー外。試合は磐田U-18が3点を先行する展開に。森脇は最終ラインでのビルドアップへ積極的に参加しつつ、寄せてきた相手のプレッシャーをフェイントでかわして、味方にパスを付けるプレーを何度も成功させてみせる。
「『プレッシャーが怖い』という感情はないですね。あそこの落ち着きはジュニアユースの時からやったので、久しぶりやったガンバのみんなにも『やっぱり変わらんなあ』と言われました(笑)。ジュニアユースの時の練習もたまにフィールドに混ざったりしましたし、ポゼッションも多くて、その中で蹴らないサッカー、キーパーからもちゃんと繋ぐサッカーをやってきていたので、だいぶそれが大きいですね」。ガンバで磨いた足元の技術を、ガンバ相手に披露したというわけだ。
タイムアップの瞬間。連敗を3で止める勝利を掴んだにも関わらず、森脇は悔しそうに天を仰ぐ。ファイナルスコアは3-1。実は終了間際の90分に失点を喫していたのだ。
「去年も遥海に決められたので、『またか』っていう感じです。ウチのチームは今年ここまで無失点試合がなくて、やっとここで達成できるという時に、アイツがやってきよったので、メチャクチャ悔しかったです」。
意地のゴールを決めた南野も、かつてのチームメイトから奪った得点について、こう言及している。「誰がキーパーであっても点を決めたい気持ちはあるんですけど、やっぱり森脇選手からのゴールは嬉しいですね。向こうも決められたくない気持ちもあったはずですけど、あのシーンだけを見たら気持ちで勝ったのかなと思います」。試合後の2人が笑顔で話していた姿も印象的だった。
「前節から新しいシステムの3バックになって、自分もやり方がイマイチわかっていない状況やったんですけど、今日は長いボールを使えたり、近くを使えたり、自分の特徴もがっちりハマるなという感じで自信になりました。チームとしても3連敗していたので、上位に食らい付くためにも大きな勝利になりましたし、今後の優勝争いに勢いが付くんじゃないかなと思います」とチームのことを語った森脇は、続けてこう言葉を続けた。「個人的にも一番思い入れのある相手との試合だったので、メチャメチャ嬉しいです」。
もちろん古巣相手に勝利を収めたことが嬉しくないはずがない。ただ、あるいはそれ以上にチームが連敗を脱出したこと、チームがうまく回ってきていること、そしてチームが優勝争いに加わっていることに、自分の中での焦点が合っている。その事実こそが、この1年で森脇が着実に成長を遂げてきた何よりの証明ではないだろうか。
でも、また大阪に帰ってきたら、あの2人とメシでも食いに行きたいなと、きっと思っている。「アイツらとの関係性はずっと続きますね」。そう言って笑った森脇も、足立と上西も、その関係性がどれだけ大事なものなのかは、もっと年齢を重ねたら、もっとよくわかってくるはずだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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