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サッカー フットサル コラム 2022年9月13日

夏の全国王者・前橋育英に帰ってきた根津元輝がもたらすハイレベルな競争意識 【高円宮杯プレミアリーグEAST 前橋育英高校×FC東京U-18マッチレビュー】

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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ゴールを決めて盟友・徳永涼(14番)と抱擁する根津元輝

あの時期があったからと笑って振り返るために、改めてサッカーと向き合っている。ただ、それはもう自分のためだけではない。支えてくれた多くの人たちが、その活躍を待ってくれているからだ。

「あの期間でサッカーに対する考え方も変わりましたし、自分がケガしている間に親も含めていろいろな方が支えてくれたので、その人たちのために頑張ろうという想いはより強くなりました。自分がケガをしてみて、『痛みもなくサッカーできることは本当に当たり前じゃないんだな』って感じましたし、サッカーができることに感謝して、100パーセント以上の力を出して、見ている人も自分のプレーで勇気付けたいという感情が芽生えました」。

インターハイで全国を制した前橋育英高校のラストピース。4か月近い雌伏の時を経て、根津元輝が冬の日本一を狙うタイガー軍団の輪の中に、とうとう帰ってきた。

「公式戦のスタメンは選手権の大津戦以来ですし、これがプレミアデビュー戦だったんですよ(笑)」。そう言って浮かべた笑顔を見ながら、その事実に気付く。FC東京U-18とホームで対峙する一戦。春先のケガでチームを離れていた根津にとって、これがプレミアリーグのデビュー戦だったのだ。

「選手権でプレーできて、高校選抜にも入って、自信を持って毎日プレーしていたんですけど、そういう調子が良い時に大きなケガをしてしまって……」。最後は準々決勝で大津高に敗れたものの、選手権での活躍が認められ、大会優秀選手に選出された根津は、2年生ながらそのまま日本高校選抜でもプレー。周囲からの評価もそれまで以上に高まっていた。

だが、好事魔多し。3月に負った右ヒザのケガの影響で、長期の戦線離脱を余儀なくされる。「プレミアもインターハイ予選も全部ピッチの外から見ていて、正直に言うとチームが勝っても素直に喜べない自分がいたんですけど、そこで焦ってもしょうがないなと。自分がしっかりリハビリして戻れば、チームに還元できることは絶対にあると信じて、今できることをやろうという感じで毎日頑張っていました」。

「でも、結構しんどかったですね。土日のみんなの試合を見ることも、自分にとって大きな刺激になってはいましたけど、本当に見ていられないぐらい嫌になった時もありました。ただ、『もうやるしかないな』という感じで、みんなが良い結果を出せば出すほど燃える感じはありましたね」。夏前に一度はトレーニングに復帰したものの、また同じ箇所に痛みが出たため、再離脱。思うように事は進んでくれない。

チームはインターハイで堂々日本一に。根津も途中出場で全5試合に登場し、栄冠の一翼を担ったが、それで満足できるはずもない。「チームとして日本一は本当に評価できることですし、ピッチに立った時は少なからず自分にできることはできたかなとは思いました。とはいえ、途中で出てもまだ本調子ではないので、全然大したプレーはできなかったですし、なんかモヤモヤしていましたね」。主役候補だった男の心中は察して余りある。

そんな時間を経て、迎えたプレミアリーグの再開戦。チームとしてもインターハイの決勝以来となる公式戦のスタメンリストに、根津の名前が書き込まれる。自身にとっても“リスタート”となる大事なゲーム。漲る気合。ピッチに立てる喜び。不思議と緊張はなかったという。

前半5分。いきなり見せ場が訪れる。ペナルティエリアのすぐ外で前橋育英が得たFK。スポットに山内恭輔と並んだ根津は、もう覚悟を決めていた。「今週は練習から蹴っていましたし、あの距離だったらファーに突き刺せる自信はあったので、迷わず蹴りました」。短い助走から7番が繰り出したシュートは、一直線にゴールへ向かっていく。

「左の下の隅に突き刺しちゃいました。メチャメチャ気持ち良かったですし、久しぶりの公式戦で、ずっとゴールも決めていなかったので、とりあえず走りました(笑)」。苦しむ時期を間近で見てきたチームメイトが、笑顔で根津に駆け寄ってくる。昨年からドイスボランチを組む、盟友の徳永涼とも歓喜の抱擁。プレミアデビュー戦でゴールを決めてしまうあたり、やはり只者ではない。

試合は早々にリードを手にした前橋育英が以降も押し込んだが、なかなか追加点を奪えずにいると、終盤に同点ゴールを献上し、結果は1-1のドローに。「チャンスはあったので、それを決め切れれば自分たちのゲームだったんですけど、その中で集中力が切れてしまって、最後は自分も絡んだ情けない失点で、本当に勝ちゲームだったなって印象ですね」と根津も渋い顔。勝ち点3を手にすることは叶わなかった。

リーグ再開初戦での勝利は掴めなかったが、根津の復帰はチーム内での競争をより激化させている。ボランチのレギュラーとして日本一に貢献した青柳龍次郎も、この日はベンチスタート。前半途中から出場すると、攻守にアグレッシブなプレーを披露していた。

キャプテンの徳永は、“根津効果”がチームメイトに与える影響を感じているようだ。「リュウジ(青柳)が今日は途中出場になりましたし、そういうところで競争が生まれてくるので、誰もスタメンが安泰じゃないというところも含めて、元輝が戻ってきたことで、練習から高い意識を持ってやれていることも、全員が引き締まったことも、チームにとってプラスかなと思います」。ハイレベルなポジション争いが、さらにチーム力を引き上げていく。

苦しい時間を経験したことで、以前とは違うところにも目が行くようになったという。「ケガしているヤツとはよく話すようになりました。ケガに苦しんでいるヤツはいっぱいいますし、逆にそういうヤツらにケガのことを聞いたりすることもあったんですけど、改めてサッカーをできることに感謝したいですね」。今まで以上に根津が人としての幅を広げていることも、また間違いのないところだろう。

ようやく帰ってきたボールを蹴ることのできる日常。だが、もうこの仲間とともに過ごす時間が長くないことも、十分に理解している。「よくよく考えたらもう残りも5か月ぐらいですし、育英のみんなでサッカーできる機会も本当に限られてきたので、仲間に感謝しつつ、夢である選手権での日本一を達成できるように頑張るしかないですよね」。

前橋育英のラストピース。次の日本一は、自分が必ず主役になってみせる。タイガー軍団をど真ん中で支える根津の“3年生”は、まだまだ始まったばっかりだ。

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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