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11月に開幕するFIFAワールドカップ・カタール大会。そのワールドカップ本大会で着用する日本代表の新しいユニフォームが先日発表された。
僕は、新しい日本代表のユニフォームは悪くはないと思っている。あくまでも、これまでの、あの“迷彩柄”と比べての話だが(“迷彩柄”と言うと必ず協会から「そう呼ばないでください」と言われるのだが、やはりあれは“迷彩柄”としか表現できない)。
まず評価したいのは、全体にとてもシンプルなデザインになったことだ。
「ORIGAMI」というコンセプトで、たしかに紙飛行機のような柄があしらわれているのだが、とても控えめな柄だ。遠目で見れば(つまり、プレーしている選手たちをスタンドから眺めたら)折り紙の柄ということは認識できないだろう。ブルーと白のグラデーションのような感じに見えるのではないか。
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それが、シンプルでとても良い。
柄などというものは、正面にしゃしゃり出て自己を主張すべきものではない。細部を見れば凝ったデザインでありながら、目立たないようにあしらうことこそが江戸時代から脈々と流れる「粋の精神」というものである。
これまで使われてきた、“迷彩柄”ユニフォームの最大の欠点は背番号が見にくかったことだった。
もちろん、背中は“迷彩柄”ではなく「青地」で、そこに白い縁取りをした赤い背番号が付いていたのだが、それがなんとも見にくかったのだ。色覚異常の方の中には本当にあの番号は見えなかった人もいたようだ。
試合中に、選手の背番号が見えないというのはとてもストレスフルな経験である。
もちろん、A代表なら背番号が見えなくても誰が誰なのか区別はつく。だが、年代別代表などではよく知らない選手もいるので背番号が見えないと選手の識別もできなくなってしまう。そこで、背格好やシューズの色、ヘアスタイルや走るフォーム、そしてポジションなどを見ながら、それがどの選手なのだか判別するのだが、そんなことに気を使っていると肝心のプレー内容まで気が回らなくなってしまう。
見にくい配色の番号を付けている例はクラブチームにも散見されるが、プロ選手にとってはサポーターに名前と顔とプレーを覚えてもらうことが最も重要なはず。その入口として背番号はもっと大切にすべきだと思う。スタンドの上段に座っていても、区別がつけやすいような背番号の配色をぜひ考えてほしいものだ。
一言で言えば、番号はモノクロにしても分かりやすいものでなくてはならない、のだ。たとえば白地に青とか黒、赤なら非常に見やすい。日本代表のように地色がブルーなのであれば、白抜きなら遠目からも見やすいはずだ(ゴールドなどでも可)。
その点で、今回のユニフォームは柄もシンプルだし、背番号の配色も見やすそうだ。
さて、新しいユニフォームを遠目から見れば、濃いブルーに折り紙柄の白が混ざって全体にはこれまでの代表のユニフォームに比べると薄いブルーに見えることだろう。
ユニフォームで最も大事なのは、その色である。
日本代表なら「ブルー」である。
19世紀にサッカーというスポーツが誕生して英国内の4協会同士で国際試合が行われるようになってから、イングランドは白、スコットランドは紺、ウェールズは赤、アイルランドはグリーンと各国のナショナルカラーを配したユニフォームが使われるようになった。
それ以外の国でもたとえばフランスは三色旗と同じ、青白赤のユニフォームが使われているし、国旗以外の色を使う国でも、それぞれ長い伝統を誇っているのでユニフォームの色を見るだけでどこのチームか区別することができる。オレンジ色のシャツを着ていれば、オランダ以外には考えられないだろう。
当然のことだが、赤や青を使っている国は多い。だが、フランスの青とイタリアの青では色調が違うので簡単に区別できる。そして、それはサッカーだけではなくラグビーでも、陸上競技でも共通しているから、サッカーに詳しい人が世界陸上を見れば、その選手がどこの国の選手なのか容易に判別することができるというわけだ。
Jリーグのクラブでも、同じ赤基調といってもレッズとアントラーズとグランパスでは、それぞれ色調が違うからすぐに区別できる。
残念ながら、日本の場合はユニフォームの色は競技によって(サッカーはブルーだが、ラグビーは赤白の縞模様といった具合に)バラバラなのだが、とにかくサッカーの日本代表はどの時代でもブルーが基調となっていた(1980年代後半に赤が使われたことがあるが)。
しかし、その色調はかなり変化してきた。
もともとは、ライトブルーだった。
日本代表のユニフォームの色がなぜブルーなのかということは、正確には分かっていない(日本サッカー協会は創立100周年を記念して『100年史』を編纂し、その際に再調査をしたのだが、結局「なぜブルーなのか」という証拠は発見できなかった)。
昔から言い伝えられているのは「東京帝国大学(現在の東京大学)のユニフォームの色が元になっている」という説だ。東京大学は今でもライトブルーがスクールカラーであり、東大サッカー部のユニフォームは今でもライトブルーだ。
1920年代までは、国際試合のために全国選抜チームを結成することはなかった。大会のたびに国内予選を行って優勝したチームが(補強選手を加えて)日本代表となっていたのだ。そして、ユニフォームも各チームのものをそのまま使っていた。
国際試合で日本が初めて勝った1927年の極東選手権大会では早稲田大学が国内予選に勝って代表になっていたので、この時の日本代表は早稲田のエンジのユニフォームを着用していた。
ところが、1930年に東京で極東選手権大会が開かれた時に、当時の大日本蹴球協会は史上初めて全国選抜チームを結成した。関東と関西の強豪大学の選手(0Bを含む)を網羅した選抜チームだったが、人数的には当時日本最強だった東京帝国大学の選手が最も多かった。そこで、東京帝国大学のライトブルーが使用されたというのだ。
再確認しておくが、そのことを示す証拠は見つかっていない。だが、非常に説得力のある説だし、先日、民間テレビ局の某散歩番組の中で日本サッカーミュージアムの大仁邦彌館長も「東京帝大のブルーが発祥」と語っていた。
いずれにしても、日本代表のブルーはずっとライトブルーだったのだ。
それが、Jリーグが発足して日本のサッカーがプロ化し、代表チームも本気でワールドカップを目指すようになった1990年代に入ってから、代表のユニフォームは新バージョンが発表されるたびにだんだんと濃いブルーに変化していって、一時は黒に近い濃紺になった時代もあった。
その後も、新しいユニフォームが発表されるたびにブルーの色調や濃さが変わっているのだが、そろそろ「これが代表のブルーだ」という色調を決めてほしいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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