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昨日の敵は、今日の友。そして、今日の友は、明日の敵。サッカーの世界では往々にして起こることだ。『サッカー王国・静岡』という旗頭の下に集った彼らも、自分のチームに戻って、さらなる成長を遂げるための日常に再び身を投じていく。
「みんな各チームに戻って、また中心選手としてやっていくでしょうから、周りの選手たちにも良い影響を与えてもらいたいですね。それによって周囲の意識もレベルも上がると思うので、そういう形で静岡のサッカーをもっともっと底上げすることで、どのチームも強くなってほしいなと。ここに呼んだ選手が代表に選ばれることもそうですし、大学に行く選手は大学で、Jリーグに行く選手はJリーグで、それぞれ頑張ってほしいと思います」とこのチームを率いてきた鈴木啓史監督がメッセージを送った彼らは、きっと静岡ユースでの活動の意義を、自らの結果で証明していくはずだ。
1977年に産声を上げた『SBSカップ 国際ユースサッカー』。カズや中山雅史、名波浩、小野伸二といった日本サッカー界のレジェンドのみならず、クライファートやロナウジーニョといった海外のスターも出場してきたこの国際大会には、静岡でプレーする選手で構成される静岡県選抜チームも参加する。
今年の高校3年生は入学前後からコロナ禍に直撃された世代。本来であれば1年時に行われるはずだった国体も中止になり、県選抜チームとしての活動は今年3月に開催されたヤングサッカーフェスティバルと、今回のSBSカップのみ。「各々知り合いだったり、代表で一緒にやっていたり選手もいるんですけど、チームとして動くのはこれが初めてで、活動時間が短い中でどうしたらチームが強くなっていくかというところで、ミーティングしたり、いろいろなことをやりました」と鈴木監督も振り返ったように、短い時間の中でピッチ内外での意識を合わせてきた。
「普段は敵としてプレーしていた選手が味方になって、相手にすれば嫌な選手たちばかりなので(笑)、いろいろな特徴のある選手が集まることは楽しいですし、いろいろな面で刺激を受けています」と話すのは、所属の静岡学園高校でも、今回の静岡ユースでもキャプテンを託されている行徳瑛。「普段は対戦相手なのでちょっと違和感はあるんですけど(笑)、同じチームになると頼もしいなというのは感じています」と口にした清水エスパルスユースの渡邊啓佳が、続けて「(寺裏)剣と高橋(隆大)のドリブルが凄いのは前から知っていたんですけど、より凄いなと感じました」と同じプレミアリーグWESTで戦う静岡学園の2人について言及するあたりも面白い。
もちろんSBSカップ自体に対しても、それぞれの選手がそれぞれの想いを抱いている。静岡生まれで、中学年代からジュビロ磐田でプレーする松田和輝は「中学生の時に、静岡ユースに選ばれたジュビロのユースの選手が代表とやっている試合を見に行って、『こういうふうにジュビロを代表して、静岡県を代表して戦える選手になりたいな』と思いました」ときっぱり。この大会に出場することの意味を、十二分に理解していることが窺える。
静岡ユースは、果敢に戦った。U-18ウズベキスタン代表と対峙した初戦は、3-3という激しい打ち合いの末にPK戦で敗れたものの、2戦目となったU-18日本代表との大一番も先制を許しながら、試合終盤に執念で追い付き、またももつれ込んだPK戦で今度は勝利を引き寄せる。行徳が「こっちは県選抜で、日本代表はもちろん僕らも目標にしているので、この試合に対する気持ちや熱は入っていたと思います。最後はPKでしたけど、勝てたことはとても嬉しかったです」と明かした言葉は、おそらくチームの共通認識。試合後は代表に勝った歓喜を、みんなで草薙の夕空に向かって爆発させた。
最終日のU-18ウルグアイ代表戦は、鈴木監督も「今日の出来は本当に凄いなと思うばかりでしたね」と称賛するような高パフォーマンスを発揮。静岡学園の高橋を起点に、磐田U-18の後藤啓介のアシストで、清水ユースの斉藤柚樹がゴールを陥れるという、“プレミアトリオ”の連携で先制点を奪うと、清水桜が丘高校でプレーする石川瑠紀のクロスがオウンゴールを誘発し、2点をリードする。
最後はJFAアカデミー福島U-18から唯一選出されている齋藤晴がダメ押しゴールを記録し、3-0で完勝。U-18日本代表戦でPKを2本止めて、主役の座をさらった藤枝東高校の石坂地央が「今回は宿泊もあって、同じ空間で過ごすことが増えたので、そういう面で一体感が出てきたなと。“仲良しこよし”ではなくて、お互いを高め合う仲間のような関係になってきていると思います」と言い切るようなまとまりを披露した静岡ユースは、2位という好成績で大会を終えることになった。
充実した時間を共有した仲間は、再びライバルに戻っていく。磐田U-18の最終ラインを支える松田は、清水ユースの“チームメイト”たちへの想いを明かす。「柚樹だったら得点能力がずば抜けていて、(安藤)阿雄依のドリブルをジュビロで止められる選手もそうそういないはずですし、啓佳もスピードも運動量もあって、対人能力も高くて、彼らはもちろん軸になって戦ってくると思いますけど、特徴もわかってきているので、対戦する時には僕たちが上手く情報をチームに還元して、対策を練れたらなと考えています」。
行徳は再開するプレミアリーグへの抱負を、こう語っている。「今回は本来はライバルの選手と一緒にプレーできるということも含めて、いろいろな刺激を受けながら良い経験ができました。プレミアはまだ優勝を狙える位置なので、この経験を持ち帰って、チームで優勝争いという部分でも頑張ってやっていきたいです」。
静岡県勢の中では唯一プレミアリーグEASTで戦うJFAアカデミー福島U-18の齋藤は、また違う使命を自身とチームに課している。「アカデミーは来年までしか活動期間がないので、プレミアを戦って終わるというのはチームの大きな目標で、ここで自分たちが残留して、来年に繋げるというところはみんなでずっと言いながらやっています。個人としてはしっかりスタメンで活躍して、チームを勝たせる選手になって、みんなの目標である残留を達成したいなと思います」。
プレミアでも得点を重ねている清水ユースのストライカーであり、今大会も2ゴールを叩き出して勝利に貢献した斉藤の話が印象深い。「この代は国体もなくて、いろいろなことが中止になってしまったんですけど、最後にこういった形で集まれましたし、短い時間でしたけどみんなで仲を深めて、良い試合もできて、ピッチ以外でも良い時間を過ごせたので、楽しかったです」。
最後は藤枝東の、そして静岡ユースの守護神であり、大阪出身の石坂が紡いだこの言葉で締め括ろう。「自分は静岡出身ではないんですけど、高校から静岡に来て、静岡のサッカー愛というか、サッカーに対する気持ちの強さは凄く良いと思っていたので、こうやって静岡の地で活躍することができてとても嬉しかったです」。
2022年の静岡ユースに集った18人は、このかけがえのない経験を胸に、それぞれの場所で“チームメイト”の存在を頭の片隅に置きながら、これからも切磋琢磨し続けていくに違いない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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