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真夏の夜空に舞った相澤貴志“監督”。セレッソ大阪U-18の日本一を支えたコーチングスタッフのチャレンジ【クラブユース選手権決勝 セレッソ大阪U-18×横浜F・マリノスユースマッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
日本一になったばかりの桜色のユニフォームを纏った選手たちから、「どっちの“監督”から胴上げするの?」という声が聞こえてくる。先に呼ばれたのは、今大会の指揮を執った相澤貴志GKコーチ、いや、相澤“監督”だ。あっという間に選手の輪の中に取り込まれた190センチの巨体が、真夏の群馬の夜空を高々と舞う。
「とにかくコーチ陣も含めて周りが凄くサポートしてくれて、僕はもう本当にいるだけと言っては語弊がありますけど、最後のところを決めるだけという立ち回りでやっていたので、本当にチームとしてもうまく回るように成長できたのかなと思います。これは一応成功体験として、僕の中にとどめておきます(笑)」(相澤GKコーチ)。
日本一の胴上げをされる相澤“監督”
本来の指揮官であり、「今回は勝ったんで、僕も代えられるかもしれないですけど(笑)」と笑った島岡健太監督は、このクラブユース選手権に臨むコーチングスタッフの役割分担について、こう明かす。
「GKコーチもそれだけじゃなくて、指導者のコーチにならなければいけないというところもありながら、GK自体がフィールドの中の一員ということをもっともっと構築していかなくてはいけないというところで、新たな我々のチャレンジとして『今大会の監督は相澤!』ということでトライしていたら、あれよあれよと勝ち上がってきたんですよ」。
今大会の“チャレンジ”として、相澤GKコーチを筆頭に、六車拓也コーチ、伊藤尊寛コーチで選手選考も含めて考え、島岡監督はサポートする形に。コーチングスタッフも新たな視点を得るため、この大会を選手たちとともに成長する場に設定した。
相澤GKコーチは2017年末に現役を引退すると、地元のクラブでもあるアルビレックス新潟で指導者キャリアをスタート。U-10からU-18までのGKコーチを筆頭に、キッズの巡回指導やトレセン活動での指導も経験。2021年からC大阪U-18のGKコーチに就任している。
「僕は正直まだまだ風間(八宏・技術委員長)さんや健太さんが選手に対して求めている一端にしか触れられていないと思うんですけど、その中でも同じタイミングでセレッソに入らせてもらって、近くで見ていた分、『とにかく時間と場所を使わない』とか、技術に対してどんどん言っていくので、『ああ、そういうことを要求されているんだな』と。そういう意味では風間さんも健太さんも『指導者の目はだいぶ揃ってきた』と言われているので、僕もまだまだ全然知れてはいないですけど、本当に基礎というか、一番“さわり”の部分の目は合ってきているのかなと」(相澤GKコーチ)。
“指導者の目”が揃ってきたタイミングで、今大会の監督に指名された相澤GKコーチ。自身もプロサッカー選手として務め上げてきたGKというポジションの経験から、やはり守備に目が行きがちだというが、そこでチームスタイルとの狭間で付けている折り合いについても、正直にこう口にする。
「GKコーチという立場だと、どうしても守備の部分に目が行ってしまうんですけど、目指すところはクラブとしても、チームとしても、変わってはいないので、そこで僕が監督をやったから守備がどうこうというのもおかしい話ですし、とにかくそこは技術にこだわってやろうよという話はしています。僕らが口を出すのは本当に攻撃に関わるところと、選手の見極めの部分ですよね。でも、『この選手がこのタイミングで入ったらどうかな』とか、そう考えることが本当にこの大会はうまく行っていて、コーチ陣でもよく笑っているんですけど(笑)、それについては面白いなと思いますね」。
島岡監督も今回のチャレンジから、いろいろな学びを得ているようだ。「僕では考えられないような選手起用も出てくるから、勉強になっています。たとえば選手交代にしても『ああ、このタイミングでこう入れていくんや』『こことここをこう代えていくんや』というのはちょっと違った感じで新鮮ですね。『オレやったらせえへんのにな』って考えると、『やっぱりオレやったらここまで来てないな』と。凄いなと思います。だから、監督の座が危ないんですよ(笑)」
“相澤監督”が振るう采配の特徴としては、ここまでなかなか試合出場の叶わなかった3年生の起用も挙げられる。チームの絶対的なエース、木下慎之輔がブラジル留学で途中離脱する中、プレミアリーグでは1試合しか出場のなかった緒方夏暉が大会を通じて3ゴールを記録。「なかなか厳しい時期をずっと過ごしていて、その中でも回ってきたチャンスを掴むためにも、ずっと準備はしてきました」というアタッカーが、日本一の一翼を担ったことは間違いない。
また、決勝の延長戦ではケガによる長期離脱を強いられていた長野太亮、今大会もなかなか出場機会に恵まれなかった櫻本拓夢、チーム屈指のムードメーカーとして雰囲気を作り続けてきた若野来成と、相次いで3年生たちが交代でピッチへと解き放たれる。
もちろん勝利のための、選手の成長のための起用であることは言うまでもないが、「プロのクラブとしてプロ選手の育成を目指している中で、やっぱり可能性のある選手は若くてもどんどん使っていく世界だと思うんです。そうは言っても高校生ですし、最後までしっかりやり続けるとか、裏方でも支えているという選手は、しっかり評価してあげたいなとは常々思っていたので、試合で起用する凄く良いタイミングが訪れたなと思っています」と紡いだ“相澤監督”の言葉に、その持ち合わせている人間性も強く滲む。
表彰式では『カップを上げるのに、後ろの選手たちはノーリアクション』というお決まりの一連も担当。このあたりから、選手たちとの関係性の良さも窺える。そんな“相澤監督”に改めて監督として臨んだ今大会の感想と問うと、こういう答えが返ってきた。
「僕はアルビレックス新潟から指導者を始めたんですけど、育成のところで言ったら全部経験させてもらって、今はこういう形で日本のユース年代のトップレベルも経験できている中で、僕としてはクラブの求めるものとして『GKもフィールドプレーヤーと同じだよ』というイメージで育てたキーパーが、またトップチームで活躍できるようにしていくというところで、キーパーに関わる仕事はしていきたいですけど、一方で今回が凄く面白かったのも間違いないなと。とはいえ、まだまだ自分はいろいろな知識を付けないといけないなとも同時に思いましたし、いろいろなことを考えさせられた大会でしたね」。
短期間だからこそ、トーナメントだからこそ、そこには一気に成長する可能性が秘められている。それは選手にとっても、指導者にとっても。その両輪をしっかりと回しながら頂点まで駆け上がったからこそ、C大阪U-18の日本一には大きな価値がある。
優勝カップを掲げる相澤“監督”に後ろの選手はノーリアクション
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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