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サッカー フットサル コラム 2022年6月28日

小川のゴールで先制した横浜FCが首位奪還。J2リーグのレベルアップが生んだ白熱の首位決戦

後藤健生コラム by 後藤 健生
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6月26日に行われたJ2リーグ第23節、横浜FC対アルビレックス新潟の試合は首位の新潟と2位の横浜FCによる「首位決戦」として注目され、横浜FCの本拠地ニッパツ三ツ沢球技場には9100人の観客が詰めかけ、とくに新潟サポーターで埋め尽くされた南側ゴール裏席の光景は圧巻だった。

そして、最高の雰囲気の中で行われた試合は実にハイレベルな戦いだった。

首位の新潟相手にリスペクトを払った横浜FCが4−4−2でブロックを作って守り、その横浜FCの守備を攻略すべく新潟がパスをつないで隙をうかがうという展開となり、90分間守り切った横浜FCがカウンターから2ゴールを決めて完勝。首位の座を奪還した。

結果はともかくとして、新潟の攻めは見事だった。

昨シーズンまでアルベル・プッチ監督(現、FC東京監督)が作り込み、今季から松橋力蔵監督が引き継いだ新潟のポゼッション・サッカーは非常に完成度が高い。最終ラインからしっかりとつないで、前線の選手とMF陣がポジションを入れ替えて変化をつけながら相手の守備の綻びを作る作業を90分間しっかりと繰り返した。

後方での主役は左サイドバックの堀米悠斗とアンカーの島田譲。堀米はサイドバックの位置から起点を作り、オーバーラップをかけるだけでなく、中盤でパス交換の中心になり、時にはインナーラップで前線まで攻め上がる。島田は、守備の局面では最終ライン近くでフォアリベロ的な役割を果たし、またボールを保持すると深い位置からパス出しの起点となる。そして、堀米と島田が常に互いの位置を意識してプレーすることで、攻め上がった後のスペースもしっかりと消していた。

そして、最終ラインから供給されたボールを受ける前線も流動的。

ワントップに入った鈴木孝司はいわば“偽の9番”。中盤に下がってパス回しに加わり、その鈴木が開けたスペースをシャドーストライカーの高木善朗や本間至恩が利用する。

対戦相手の横浜FCとしては、こうした相手の流動的な動きにマーカーが付いていくとスペースを作られてしまうので、相手のポジションチェンジにはいちいち対応せずに、しっかりとスペースを埋めて、相手がバイタルエリアあるいはボックス内に入れてくるパスの受け手に対して早いタイミングで体を寄せて、自由にプレーさせないという守り方を選択した。

この守備が功を奏して、新潟はボールを持つ時間は長いものの、ゴール前に進入できず、また前線の選手がマークを受けているため、時間の経過とともに前線に付けるパスを入れにくくなってしまった。

こうして、ボールを持つ時間は長いものの、決定機を作れないという、新潟サポーターにとってはもどかしい状態が続いた。

これに対して、守備を固めた横浜FCは前線でプレッシャーをかけて、ボール奪取してからのショートカウンターをしかけたり、後方からワイドに振ってのサイドからの崩しで対抗する。

そして、19分には横浜FCがリードを奪う。後方からのロングカウンターだった。

GKのズベンド・ブローダーゼンが左サイドバックの亀川諒史につないだところから攻撃はスタート。つながったボールをMFのハイネルが右にサイドチェンジ。サイドハーフのイサカ・ゼインから、渡邉千真、小川航基と横パスがつながり、小川が左サイドハーフの長谷川竜也にはたく。そして、長谷川がクロスを入れる瞬間に小川は急加速。この加速でマークしているはずの舞行龍ジェームズの裏を取ってフリーになることに成功。長谷川のクロスがその小川にピタリと合って、小川は3試合連続となる今季14点目のゴールを決めた。

新潟ゴール前で横パスがつながって、最終的に左サイドでフリーになっていたため、長谷川はノープレッシャーで正確なクロスを入れることができた。横浜FCが右タッチライン沿いから横につないだ位置が新潟陣内のバイタルエリアよりも遠い位置だったため、横パスによる展開に対して新潟の最終ラインはチェックできなかったのだ。

そして、一時はゴール量産体制が止まったかに見えた小川だが、点取り屋らしい嗅覚を取り戻し、3試合連続ゴールで再び波に乗ってきたようだ。相手DFとの駆け引き。そして、左右両足でも頭でも決められるシュート能力と、まさに総合系のセンターフォワードである。

後半にはいると、1点リードした横浜FCはボールを奪った後にしっかりとつなぐことを意識して、前半よりもチャンスの数を増やしていった。

それでも、新潟の攻めは続いた。55分には素晴らしいパスのつなぎからチャンスを作り、本田がコースを狙ったほぼ完璧なシュートを放ったが、ゴール右上隅に飛んだシュートを、GKのブローダーゼンが片手でブロックした。

この時も、新潟の攻撃は最終ラインから始まった。

センターバックの千葉和彦が中盤深い位置に下りてきた高木に当て、高木がワンタッチで堀米にはたくと、堀米が中に持ち込んでトップの位置にいた松田諒太郎に当て、松田が落としたボールを本田がシュートしたのだ。

55分のこのシーンこそ、ハイレベルな攻防を展開した首位決戦を象徴するような場面だった。

その後、70分に中盤での混戦からつながったボールがバウンドするところを長谷川が浮き球で前のスペースに送り込み、フリーとなった渡邉が決めて横浜がリードを2点に広げる。2点差となったことで勝敗は決した。暑さで疲労を溜めた新潟には反撃に移るパワーが足りなかったようだった。

理詰めのパスを回す新潟と、それを規律のある守備で跳ね返し続けた横浜FC。中盤では激しいボールの奪い合いが展開され、プレー強度も高い試合。おそらく、J1リーグでも滅多に見られないハイレベルの攻防だった。

J1リーグ上位クラブはこの数年で非常にレベルアップしている。川崎フロンターレがパス・サッカーを極めて頂点に立ったが、横浜F・マリノスが攻撃サッカーで川崎を急追。今シーズンはレネ・ヴァイラー監督の鹿島アントラーズ、ミヒャエル・スキッベ監督のサンフレッチェ広島、アルベル・プッチ監督のFC東京がポジショナルプレーというヨーロッパからの新しい風ももたらしてもいる。

だが、レベルが上がっているのはJ1だけではない。J2リーグも、新潟や横浜FCをはじめしっかりした戦術的なサッカーを志向するクラブが増えているのだ。

かつては、昇格・残留のための勝点のことだけを考えてフィジカル的な試合をするチームも多かったJ2だが、今では少なくとも昇格を狙う上位チームはしっかりとした戦術的なサッカーができるようになっているのだ。

今シーズンの天皇杯はラウンド16をJ1、J2勢が独占。アマチュアチームによるジャイアントキリングが一つも起きなかった。もちろん、一つひとつの試合にはそれぞれの事情があるのだろうが、大きな流れとしては“無風のカップ戦”となった原因はJ1、J2のレベルアップにあったような気がする。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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