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5月13日に行われたJ1リーグ第13節、浦和レッズ対サンフレッチェ広島の試合は0対0の引き分けに終わった。これで浦和はリーグ戦で5試合連続の引き分け。しかも、直近3試合はいずれもスコアレスドローと得点力不足に苦しみ続けている。そして、勝点を伸ばせなかった浦和は暫定順位でとうとう16位にまで後退してしまった。
この間、浦和は4月後半にはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージに出場し、グループFの2位に入ってラウンド16進出を決めている。
ACLでは6試合で20得点を記録。ダヴィド・モーベルグやアレックス・シャルクといった新戦力の融合も進み、ACLがチーム活性化のきっかけになるかと思われたのだが、どうやらJ1リーグの戦いはそれほど甘いものではなかったようだ。
もっとも、ACLで20得点奪ったといっても、シンガポールのライオン・シティ・セイラーズや中国の山東泰山といった格下相手に大量得点を奪っただけで、首位争いのライバル韓国の大邱FCとは2戦戦って0対1、0対0とやはり無得点に終わっていた。
いずれにしても、浦和の得点力不足は深刻だ。
広島戦は前夜来の雨が90分間降り続く悪コンディションの中だったが、試合としてのレベルは高かった。
最近の広島はミヒャエル・スキッベ監督の下でプレーが整理されてきており、非常に良い状態にある。浦和が4−4−2(もしくは4−2−3−1)、広島が3−4−3とシステム的に違いはあるものの、ともに相手のラインとラインの間のスペースに次々と選手が顔を出してパスをつなぐ組織的なゲームを遂行。その顔を出した相手に対して守備側がきちんとチェックすると、そのチェックをかわすためにまた選手が動きなおす……。
まるでチェスの試合を見るような組織的、戦術的な試合だった。あるいは、“ヨーロピアンテイスト”満載の試合と言ってもよかった。
しかし、両チームのGKが見事なセービングを見せたこともあって、結果はスコアレスドローに終わったのだ。
浦和のリカルド・ロドリゲス監督は、昨シーズンに就任して以来、かなり贅沢なチーム作りをしてきた。
たとえば、広島戦の先発11人の顔ぶれを見ると、リカルド・ロドリゲス監督が就任する前から浦和に在籍する選手はGKの西川周作、DFの岩波拓也、MFの関根貴大の3人だけ。後半途中から出場した柴戸海を含めても、以前から在籍していた選手は4人しか出場しなかったのだ。そして、昨年のシーズン途中からデンマークやオランダなどヨーロッパ出身の選手も次々と加わった。
つまり、今の浦和はリカルド・ロドリゲス監督が好みの選手を集めて作られたチームなのだ。もちろん、予算の制約もあるから好きな選手を誰でも取ってこられるわけではないが、それにしても就任から2年の間でこれだけ新戦力を揃えることができる監督など、世界中にそれほどたくさんいないはずだ。
その間、サポーターからの信頼も厚かったベテランのMF阿部勇樹は引退し、同じくレジェンドだったDF槙野智章やFW興梠慎三などの中心選手も移籍。そして、リカルド・ロドリゲス監督が好みの選手を集めて作り上げたのが現在の浦和なのだ。
そうまでして生まれ変わったはずなのに結果が伴わないのでは、サポーターから不満の声が出ても仕方ないところだろう。
さて、キャスパー・ユンカーなど得点力に優れた選手を加え、江坂任や伊藤敦樹、小泉佳穂といったセンスあふれる日本人選手をそろえてもゴールを奪えず、勝点を伸ばせない原因というのはどこにあるのだろう?
ひとつは、メンバーが固定されないことだ。
リカルド・ロドリゲスという監督は、とにかくメンバーをいじるのが好きだ。素晴らしいコンビネーションプレーを見せて快勝した次の試合でも、なんの未練もなくメンバーを変えてくる。
あるいは、1人の選手を複数ポジションでプレーさせることも多い。最近は左サイドバックでプレーする明本考浩もその代表例だろう。明本は試合によってはトップでプレーすることもあるし、試合の途中でSBからFWにコンバートされる場面もある。リカルド・ロドリゲス監督は、状況によって絶えず姿を変えられるチームを作ろうとしているのだろう。
もちろん、そうすることでチームの戦いの幅は間違いなく広がる。ACLのように「高温多湿の中で中2日の6連戦」という過酷な状況で戦い抜けたのは、ローテーションがうまくいったからでもあった。
だが、一方で、試合ごとにメンバーが変わることでチームの完成度がなかなか上がらないという弊害もある。長いシーズンを固定メンバーで戦い抜けるわけはないが、やはりチームの“核”は決めておき、変更するのは部分的なものにとどめたい。
浦和が苦しんでいるもう一つの理由は、リカルド・ロドリゲス監督が目指しているスタイルと現実の乖離である。
スペイン人のリカルド・ロドリゲス監督は明らかにポゼッション・サッカー(最近流行の表現をすれば「ポジショナルプレー」)を目指している。自陣からしっかりとパスをつないでビルドアップしていくサッカーである。
たとえば、最近の浦和はゴールキックの時にゴールエリア付近に複数のフィールドプレーヤーを立たせることが多い。ここからパスをつないで攻撃を組み立てようというのだ。
低い位置からショートパスを使って組み立てるのだから、当然、手間と時間がかかる。それでも、ポゼッション率を上げて戦おうというのが監督の意図なのだ。
ただ、そういうスタイルで攻めきれるのならいいのだが、今の浦和のチャンスの多くは手間のかからないスピードある攻撃から生まれている。前線に鋭いくさびのパスを入れて、トップの選手が落としたところで攻撃のスイッチを入れる。あるいは、サイドバックがサイドハーフと協力して素早くタッチライン沿いで相手をはがしていく……。
つまり、チャンスの多くは手数はかけずに速さで勝負することによって生まれているのだ。
だが、それなら高い位置でボールを奪ったり、手数をかけずになるべく高い位置にボールを送り込む方が効果的だということになる。
自陣深い位置から手間と時間をかけてパスをつないで組み立てるのか、それとも高い位置にボールを運んで(あるいは高い位置で奪って)速攻を使うのか……。攻撃のコンセプトを明確化する必要がある。だが、浦和の現状はポゼッション・サッカーとカウンター・サッカーという2つのコンセプトが混在し、統一感がない。
もちろん、意識的に両者を使い分けることができれば、それがベストなのではあるが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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