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J1リーグ第10節のFC東京対ガンバ大阪の試合が、4月29日に東京・国立競技場で開催され、折からの冷たい雨の中4万3125人の観客が集まった。
新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いて入場者の制限は緩和されたものの、なかなかコロナ禍前のようには観客が集まらない。そんな中で、これだけの観客が集まったのだ。もし、好天に恵まれていたら、さらに多くの観客でスタンドが埋まったことだろう。
2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックを前に国立競技場が全面的に改修(改築)されてから、天皇杯やJリーグYBCルヴァンカップの決勝戦。あるいは全国高校サッカー選手権大会で使用されたことは何度もあるが、Jリーグのリーグ戦が新国立競技場で行われたのはこれが初めてということで注目されていたが、ひとまず大成功と言っていいのだろう。
FC東京もキャンペーンを行って集客に務めたこともあるが、これだけの観客が集まったのは、やはり国立競技場の魅力のおかげでもあったのだろう。
国立競技場の最大の魅力は、なんといってもアクセスの良さだ。国立競技場は東京都心の青山地区にあり、JRや東京メトロ、都営地下鉄のいくつもの線が利用できる。
FC東京の本来のホームスタジアムである味の素スタジアム(東京スタジアム)は、京王線の飛田給駅から間近にあり、他の多くのスタジアムに比べればアクセスは良い方だが、やはり京王線しか電車が利用できないのは不便といえば不便なのである(西武鉄道多摩川線も利用可能だが、最寄り駅までは距離がある)。
その点、国立競技場であれば、19時キックオフの試合が終了して21時に家路についても、それぞれにとって最も便の良い路線を使って真っすぐに帰宅できる。
そして、スタジアム自体も単に新しくて奇麗なだけではなく、機能的にも優れたスタジアムである。
もちろん、ここは陸上競技場であり(来週末には、陸上競技の日本選手権大会が開催される)、陸上用のトラックがあるので、芝生のピッチから観客席までの距離が遠く、球技専用競技場のような臨場感、迫力は味わえない。
しかし、最近の他の多くの陸上競技場のようにトラックの外周に大きなスペースがなく、スタンド最前列はトラックのすぐ外側にある。たとえば、日産スタジアム(横浜国際総合競技場)では4つのコーナー付近ではトラックの外に何もない大きなスペースがある。だが、国立競技場のスタンドは(旧競技場も、新競技場も)トラックのカーブに合わせてスタンドもカーブしているので、その分ピッチまでの距離が多少でも近くなっているのだ。
さらに、国立競技場のスタンドの傾斜は下層が20度、中層が29度、上層が34度とかなり急傾斜になっているので、スタンドからピッチを俯瞰的に(見下ろすように)眺めることができる。選手の配置や動きがよく見えるので、サッカー観戦に適しているのだ。
このように、新国立競技場は陸上競技場としてはサッカーが見やすいスタジアムなのである。
そして、この日のFC東京とガンバ大阪の試合で最も印象的だったのは、ピッチ状態の良さだった。
びっしりと密集した芝生が奇麗に刈り込まれていて、かなり強い雨が降り続いていたのだが、水が浮くようなこともなかったし、ピッチが柔らかくなることもまったくなかった。
この試合で主審を担当した西村雄一氏も「とてもしっかりした芝生で、昔の国立競技場を思いだした」と語っていた。
もちろん、「ほとんど使用していないから」という理由もあるのだろうが、日本でも有数の素晴らしいピッチであることは間違いない。
FC東京のアルベル・プッチ監督も、このスタジアムはニューヨークのヤンキースタジアムがそうであるように、東京という都市を象徴する存在となるものであり、外国人観光客も訪れるようなスタジアムになるはずだ。そして、だからこそ、
「トウキョウ」という名を冠したクラブがこのスタジアムで多くの試合をすべきだと強調していた。
東京都調布市にある味の素スタジアムを使用しているFC東京は、多摩地区や23区西部ではかなり浸透しているかもしれないが、残念ながら東京都心や東京東部の人たちにとっては、やや縁遠い印象がある。だが、もしFC東京が国立競技場で試合をするなら23区すべての人々を集客することができる。何しろ、交通の便が良いので都内のどこからでも簡単にアクセスできおだる。
このように、国立競技場でのJリーグ開催は、さまざまな立場の人たちからポジティブな評価を受けた。しかし、では、30年前のJリーグ発足直後のように、これから多くの試合がこのスタジアムで開催されるかといえば、答えは「ノー」である。
今シーズン、開催が予定されているFC東京のホームゲームのは9月17日(または18日)の第30節、京都サンガFC戦のみ。その他、7月2日には清水エスパルスが第19節の横浜F・マリノス戦を国立競技場で開催することになっている。また、5月14日には女子のWEリーグのINACレオネッサ神戸が浦和レッズレディースとの試合を国立競技場で開催する。
静岡県静岡市をホームタウンとする清水や兵庫県神戸市のINAC神戸が国立で試合を開催するのはあくまでも臨時の、特別のイベントだ。
しかし、FC東京は東京全域がホームタウンとなっている。国立は陸上競技場ではあるが、本来の本拠地の味の素スタジアムも現在は陸上トラックは使用されていないが、スタンドの構造は陸上競技場なのだ。そのうえ、味の素スタジアムは夏場になると、ピッチ状態が悪いことも多い。
だとすれば、FC東京にとって国立開催を増やすことに支障はなさそうだ。
しかし、国立競技場の使用料は味の素スタジアムに比べればかなり割高になる。また、あまりに巨大で、あまりに様々な機能を詰め込んで建設された国立で試合を開催するにはかなり多くの係員を動員しなければならないというのだ。
だから、クラブとしては特別のイベントとして以外、国立競技場を使用することは採算に合わないという。
しかし、アクセスが良くて試合が見やすく、しかもピッチ・コンディションも抜群というこのスタジアムを使用しないまま放置するというのはあまりにももったいないではないか。なにしろ、このスタジアムを建設するために、1500億円という桁外れの巨費が投じられているのだ。
国立競技場を管理運営する独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)にしても、国立競技場が使用されなければ、使用料収入が入らず、維持費だけが嵩むことになるはず。それなら、もっと使用頻度を上げるために使用料を引き下げたり、限定的に使用することによって試合運営のためのコストを下げる工夫をすべきではないか。
スタジアムが、様々な形で頻繁に利用されて日本のスポーツのために役立つのであれば、赤字はある意味で仕方がない。しかし、ほとんど使用されることもなく、ただただ巨額の維持管理費だけが半永久的にかかり続けるというのは、実にばかげたことだ。
諸機関で協議して、なんとかこの巨大なスタジアムを活用する方法を探ってほしいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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