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東南アジア各地で集中開催されているAFCチャンピオンズリーグ(ACL)東地区のグループステージは半分の日程を消化したが、各グループとも混戦の様相を呈している。
中国のクラブが経営状態の悪化で弱体化し、さらに新型コロナウイルスを巡る中国政府の厳しい「ゼロコロナ」政策の影響で各クラブは最強チームを海外に出すことができず、2軍クラスが参加(感染拡大と都市封鎖が続く上海の上海海港は棄権)。「ラウンド16進出」を巡る争いは日韓両国の一騎打ちになるかと思われていた。
直接対決では日本の各クラブは韓国相手を苦戦を強いられている。
第3節終了時までに日韓両国の対戦は3度あったが、最初の試合で川崎フロンターレが後半アディショナルタイムに同点ゴールを決めて辛うじて引き分けに持ち込んだだけで、横浜F・マリノスは全北現代モーターズに、浦和レッズは大邱FCにともに0対1のスコアで敗れてしまった。
その韓国チームとの対戦で、横浜FMのボール保持率は69%、浦和は74%とともにボールは握っているものの自陣に引いてブロックを作る韓国チームの守備を崩せず、逆にカウンターから失点する(横浜FMの場合はカウンターからPKを与えての失点)という同じパターンの繰り返しとなっている。川崎も、やはりボール保持では上回りながら、カウンターで先制を許している。
韓国は日本のクラブとの対戦では「引いて守ってカウンター」という割り切った戦いをしているのだ。
気温が30度を超え、湿度も高い中で中2日の6連戦……。日本や韓国のチームにとっては厳しい条件だ。夏場であれば日本も韓国も高温多湿になるが、冬場は寒さが厳しい。4月の時点では日本や韓国の選手たちは体が暑さに馴れていないのだ(昨シーズンのグループステージは6月開催だったが、今年は時期が前倒しになった)。
そんな厳しい条件での戦いだったからこそ、韓国チームは「引いて守ってカウンター」で“省エネ”に徹する選択をしたのだろう。普通のコンディションに比べて動きの悪い日本の選手たちは、少なくとも第3節までは韓国の分厚い守備を崩すことができなかった。
それでも各グループが混戦になっているのは、韓国チームの“対日本戦略”は成功したものの、東南アジアのクラブには苦戦しているからだ。
浦和が4対1で快勝したシンガポールのライオン・シティ・セイラーズは大邱FCを3対0で破り、マレーシアのジョホール・ダルルタジムは蔚山を2対1で破っている(ジョホールは川崎とも引き分けて3節終了時で首位に立った)。
近年、成長著しい東南アジアのクラブだが、もちろん実力的には日本や韓国とはかなりの実力差がある。だが、高温多湿のコンディションの中の戦いなので、「ホーム・アドバンテージ」が大きいのだろう。
こうして、いずれのグループも日本と韓国、東南アジアのクラブが「三すくみ」の状態となり、そこにオーストラリアのクラブなども絡んで混戦状態となっているのだ。
第4節以降になると、暑さの中の戦いで疲労も蓄積されてくるだろうし、それぞれ一度対戦した相手との再戦となるので戦術的な対策も寝られるだろう。戦いの様相はさらに変化していくはずだ。
日本のクラブは、これまでの試合はローテーションを使いながら戦っており、選手たちの疲労度は分散されている。日本にとっては選手層の厚さが武器となってくるのだ。
ただ、韓国のクラブに敗れた浦和や横浜FMは次戦では勝利が求められる。勝点が並んだ場合には全試合の得失点差などではなく、直接対決が優先されるからだ。分厚い相手の守備をパスだけで崩すのはかなり難しい。とするなら、浦和であればモーベルグや関根貴大、松尾佑介といった選手がドリブルを仕掛けてFK(あるいはPK)をもらっていくのも有効なのではないだろうか。
相手が割り切った戦いをしてくるのなら、こちらもそれを逆手に取るしかない。
また、韓国勢が東南アジアを相手に苦戦していることを考えれば、東南アジアのクラブ相手に確実に勝点3を積み増していくことも重要だろう。
ACLのグループステージには日本から昨年のJリーグ上位の3チームである川崎、横浜FM、神戸に加えて、天皇杯優勝の浦和が出場している。
だが、神戸と浦和は今シーズンは苦戦を強いられている。神戸はJ1リーグで未勝利のままでついに最下位に転落してしまったし、浦和も2勝2分4敗と勝ち星を増やせずに10位と低迷中だ。
ただ、ACLでの戦いは別物だ。
I組の神戸は、上海海港が棄権したおかげで3チームによる戦いとなり、しかも相手は香港の傑志(キッチー)とタイのチェンライ・ユナイテッドと、“格下”ばかり。試合数が少なくなったことで体力の消耗も防げる。
そして、浦和は大邱FCには敗れたものの、ライオン・シティ・セイラーズ戦、山東泰山戦と非常に良い内容の試合をした(相手のプレスがほとんどない状態だったが)。
浦和はJリーグでも素晴らしい内容の試合をすることがあるのだが、その力をコンスタントに発揮できないのだ。そんな戦いが、リカルド・ロドリゲス監督就任2年目になっても、いまだに続いている。
原因の一つが、リカルド・ロドリゲス監督が毎試合のように先発メンバーを変更し、1人の選手を試合によってさまざまなポジションで起用することだ。そのため、選手間のコンビネーションも確立できないでいる。しかも、昨年以来シーズン途中で何人もの新戦力を獲得して、それに伴ってメンバー構成も変わるのでチグハグさが目立っていた。
だが、ACLでの悪コンディションの中での戦いではメンバーが固定されていないことが、むしろ有利に働いた。「誰がレギュラー」という固定型がないだけに自然にローテーションができている。しかも、厳しい環境での連戦をこなす中で、チームの一体感が上がってきているようにも感じる。
とくに重要なのは最近チームに加入したダヴィド・モーベルグやアレックス・シャルク、さらにケガの影響で長期間チームを離れていたキャスパー・ユンカーが実戦の中で周囲との関係性を高めている。
つまり、このACLでの戦いを通じて、チームの完成度が上がり、また新戦力との融合も進みそうなのだ。
大邱FCに敗れたことで戦いの行方は分からなくなってしまった。だが、たとえラウンド16進出ができなかったとしても、タイ・ブリーラムでの戦いを通じてチーム状態が好転するとすれば、それは浦和にとってけっして悪いことではない。
いわば、ACLでの戦いは「実戦付きのトレーニング合宿」のようなものとなるのだ。同じことは、新たにミゲルアンヘル・ロティーナ監督を迎えてチームの立て直しが急務となっているヴィッセル神戸にも言えそうだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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