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横浜FCの小川航基が止まらない。
J2リーグ第10節の横浜FC対ベガルタ仙台の試合が4月17日に行われ、首位に立つ横浜FCが第9節終了時点で4位に付けていたベガルタ仙台に逆転勝ち。第10節では上位陣が勝点を伸ばせなかった結果、横浜FCと2位のFC町田ゼルビアとの勝点差は8ポイント差に開いた。
“独走状態”とも言ってよい横浜FCの無敗(8勝2分0敗)の快進撃はいつまで続くのだろうか。
その横浜FCの逆転勝利をもたらしたのが、FWの小川航基だった。
1点ビハインドで迎えた後半の52分、56分の連続ゴールでチームに勝利をもたらすと同時に、小川自身はこれで5試合連続となる10得点目。1試合1ゴールの驚異的なペースで得点を積み重ねている。
上位対決となったこの試合。ともに慎重な入り方をしたが、前半は仙台が主導権を握った。
首位に立つ横浜FCだが、すべての試合が完勝というわけではない。前線からプレスをかけに行った時にかわされたり、あるいはロングボールを蹴られたりした時のゴール前での守備に脆さがあり、勝利を積み重ねてはいるものの、ほとんどが1点差の勝利となっているのだ。
それだけに、昨年までJ1リーグでともに戦っており、現在もJ2リーグで上位に付けている仙台との試合では警戒心が強かったのだろうか。3−4−3の布陣で試合に入ったのだが、セントラルMFの手塚康平が最終ラインに落ちて左のセンターバックのガブリエウがサイドバックの位置に開いて、4バック的な形で戦う時間が多くなった。両サイドのウィングバック(左が高木友也、右がイサカ・ゼイン)が最前線まで上がっていった後の守備のケアを考えたのだろう。
キックオフ直後は深いパスを使った横浜FCが仙台の守備ラインを押し下げ、両ウィングバックを走らせて主導権を握った。
しかし、仙台はさすがに上位チーム。横浜FCのプレッシャーをかわして、主に右サイド(つまり、横浜FCのガブリエウの側のサイド)から攻撃を仕掛ける。
その後は前からはめ込んでプレッシャーをかけようとする横浜FCと、それをはがして前につなごうとする仙台の間で我慢比べが続いたが、横浜FCのプレッシングがはずされる回数が増えていく。
すると、18分に仙台のカウンターから先制ゴールが生まれる。
中盤での競り合いの場面で氣田亮真がイサカ・ゼインに激しく体を寄せて、こぼれたボールを拾った中島元彦がドリブルで運んで氣田にパス。ゴール正面でパスを受けた氣田は、ペナルティーエリア外の距離のある位置から思い切ってシュートを狙い、これが左下隅に決まったのだ。
1点リードした仙台は余裕ができたのか、その後は長めのパスを積極的につなぐことで、逆に横浜FCを押し込んでしまった。
横浜FCがロングボールを使って再びチャンスを作り始めたのは30分過ぎから。38分にはこぼれてきたボールを小川が25メートルほどの距離から思い切ってボレーシュート。強烈なシュートが飛んだが、コースはGKの正面だった。
こうして仙台リードで迎えた後半、1点を追う横浜FCが積極的な試合運びを見せた。
前半との違いは、MFの手塚が最終ラインに下がることなく、中盤でミドルレンジの効果的なパスをさばいたこと。手塚と安永玲央が長めのパスを使って両サイドを走らせ、ウィングバック(右はスピードのある山下諒也に交代)からのアーリークロスを入れることで横浜FCがチャンスを作るようになっていく。
52分の同点ゴールはまさに小川のシュート能力によるものだった。DFの中村拓海が蹴り込んだロングボールが大きくバウンドし、その落ち際を左足で叩いたものだった。相手より1歩抜け出してフリーになってはいたが、仙台DFの若狭大志がシュートコースに体を投げ出してくるより一瞬早く左足を振り抜き、GKの位置も見定めて右下を狙った見事なシュートだった。
そして、その4分後には高木がフワッと浮かせたボールに対して高いジャンプで合わせ、GKの届かないコースを狙って確実に決めた。
2ゴールともに、まさに「美しいゴール」。なんという落ち着きだろう。
混戦の中で押し込むようなゴールでも、クリーンシュートでもサッカーではすべてが1点だ。しかし、小川のゴールはいつもそのシュート技術を見せつけるような美しい軌道のシュートばかり。小川のシュート技術を見るだけでも、入場料を払う価値はある。
小川航基は桐光学園高校時代からシュートのうまさでは定評のある選手だった。年代別日本代表にも入り、将来が嘱望されていたが、高校卒業後にジュビロ磐田に入団してからはすっかり伸び悩んでしまっていた。2019年には水戸ホーリーホックにレンタル移籍して、17試合で7ゴールを決めてみせたものの、磐田に復帰後はゴール数も増やせず、Jリーグで6年プレーしたものの、通算得点数は18点に留まっていた。
今シーズン。横浜FCに移籍した小川は、まさにその眠っていた才能が開花した形で1試合1ゴールのペースでクリーンシュートを決め続けているのだ。このゴール量産ペースがどこまで続くのか。今シーズンのJリーグの注目点の一つであろう。
このパフォーマンスが続くとすれば、当然、日本代表入りの可能性も出てくる。日本代表はチャンスは作りながらも得点に結びつけられない試合が多く、これまで絶対のワントップだった大迫勇也の調子が上がらないとすれば、ワールドカップでトップを務めるのは誰かという争いになる。もちろん、上田綺世や浅野拓磨、前田大然といった選手が有力候補となるのだろうが、今の小川のシュート技術の高さを考えれば、少なくとも6月の日本代表の活動時には招集してみる価値はある。
あるいは、今の状態が続けば夏には海外移籍などという可能性もあるのかもしれない。
首位を独走している横浜FCだが、ほとんどが1点差の勝利。ということは、その勝点の多くは小川の得点力によってもたらされたものということになる。
代表ウィークにもJ2リーグは継続されるわけだし、夏にJ1のクラブや海外のクラブに小川が引き抜かれる可能性もあるのだから、横浜FCとしては今のうちに勝点差を大きく広げておきたいところだろう。4月27日の第12節には、2位のFC町田ゼルビアとの直接対決も控えている。
横浜FCと小川航基から目が離せない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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