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J1リーグは4月5日、6日に第7節が行われて、上田綺世の3試合連続ゴールでアビスパ福岡を下した鹿島アントラーズが首位に立ち、終了間際のゴールで追いついてなんとか連敗を防いだ川崎フロンターレが2位に付けている。鹿島が勝点18、川崎が同17という“大接戦”である。
しかし、川崎は4月中旬以降にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)が控えているため、すでに9試合を消化しているのだ。鹿島と川崎との勝点差は実質的にはもっと大きいと言わざるを得ない。
そこで、「勝点を何ポイント失っているのか」という視点から順位表を眺めてみよう。
鹿島は、7試合を終了して勝点を落としたのは第2節(2月26日)の川崎戦のみ。つまり、失った勝点は「3」である。一方、川崎は9試合を終えて2分2敗。「失った勝点」はすでに「8」に達している(昨シーズン、川崎はリーグ戦で38試合を戦って、「失った勝点」はわずかに「14」だった)。
4位に付けている昨年準優勝の横浜F・マリノスも川崎と同じくすでに9試合を消化しており、「失った勝点」は9ポイントになっている(3分2敗)。
「失った勝点」が少ない順に並べてみると、順序は以下のようになる。
順位 チーム 失った勝点
1位 鹿島 [3]
2位 柏 [4]
3位 鳥栖 [5]
4位 FC東京 [6]
(FC東京は消化試合が6。他の3チームはすべて7試合)
普通の順位表を眺めるよりも、川崎と横浜FMの順位が下がるので、今シーズンの混戦ぶりがさらに鮮明になるだろう。
同様に「失った勝点」という視点で順位表の下半分を眺めてみると、やはりACLに出場するためすでに9試合を消化した浦和レッズは2勝3分4敗という成績で「失った勝点」はすでに「15」に達し、そして、ヴィッセル神戸に至っては0勝4分5敗で「失った勝点」が「19」に達するという惨憺たる成績ということになる。
もちろん、シーズンは長く、残り試合数は多い。「これまでどのチームと対戦したのか」という点でも各チームの条件は同じではない。従って、強豪チームはこれから巻き返しの可能性を秘めている。だが、強豪チームにはACLの負担ものしかかってくるので、今後もかなり苦しい戦いが待ち受けているだろう。
そんな中で、「失った勝点」が少ないのが鹿島と柏だ。
どちらも、シーズン開幕前に「優勝候補」として名前を挙げた人は少なかったのではないだろうか?
鹿島は、確かに持ち前の勝負強さは期待できたし、鈴木優磨が復帰し、上田綺世、エヴェラウド、荒木遼太郎を含めて攻撃陣は豊富だった。だが、守備には不安を抱えていたうえに、従来のブラジル路線から大きく転換して、スイス人のレネ・ヴァイラー監督が就任。「ヨーロッパ・スタイルの新しいやり方が根付くまでに時間がかかるのでは?」と思われていた。
さらに、年明け早々からの新型コロナウイルス「オミクロン株」の感染拡大によって日本政府が水際対策を強化。肝心のヴァイラー監督の来日が開幕に間に合わない事態になってしまったのだ。
昨年の徳島ヴォルティスの例を見ても分かるように、新監督が現場に出て指導できないのではチーム作りは大幅に遅れてしまうはず、だった。
だが、この間、監督代行を務めた岩政大樹コーチの下でしっかりとした守備の組織を構築することに成功した鹿島は、7試合終了時点得点が11、失点が5という非常にバランスの良い数字を残すことに成功した。「7節時点で首位」という成績の最大の功労者が岩政コーチなのは間違いないところだろう。
「失った勝点」ランキングで2位の柏の「健闘」(躍進?)も、まったく予想外と言えそうだ。
昨シーズンはまったく良いところなく15位で辛うじて残留した柏。昨シーズンの途中で江坂任を浦和レッズに引き抜かれ、今シーズン開幕前にもクリスティアーノをはじめ、攻撃陣がチームを離れており、戦力ダウンは必至だった。つまり、残留争いに巻き込まれるんではないかと予想された。
実際、僕も各メディアでの順位予想では柏を最下位と予想してしまった。不明を恥じるとともに、ネルシーニョ監督に謝罪の言葉を送るしかない。
その柏が、開幕から連勝。とくに第2節には昨年準優勝の横浜F・マリノスも破って見せた。これまでの7試合で勝点を失ったのは、3月6日の第3節での鹿島相手の敗戦(0対1)と3月20日の名古屋との引き分け(1対1)だけだ。
直近、4月5日のセレッソ大阪戦では、試合を通じてC大阪にボールを握られる時間は長かったものの、前半の25分に自陣ゴール前からマテウス・サヴィオがボールを持ちあがり、全力で並走した細谷真大が決めたゴールを守り切って勝利したが、今シーズンの柏はこのカウンターが冴えわたっている。
現在のサッカーでは「高い位置でのプレッシングでボールを奪ってショートカウンター」という戦い方が主流になっているが、柏は引き気味で守っている(戦力的に強い相手と戦う時にはそうならざるをえない)。しかし、ボールを奪った瞬間の動き出しの良さ、統一感がカウンターの威力を大きくしている。
これまでの柏には、前線のクリスティアーノやマイケル・オルンガのような強力助っ人がいて、「前線の怪物たちにボールを預けておけばよい」といったところがあった。だが、今シーズンの柏にはそうしたスーパースターがいないのだ。その分、全員がチームとしてボールをつないで速攻を懸けるという意思統一が見られる。
今シーズンの新戦力であるマテウス・サヴィオはテクニックもある選手だが、とにかく運動量が豊富で高速で動きながらボールを扱えるので、チーム全体にダイナミズムが生まれている。
この数年、川崎フロンターレがJリーグを支配してきた。それに対抗できたのはアンジェ・ポステコグルー監督が築き上げ、昨年の途中でケヴィン・マスカット監督が引き継いだ横浜F・マリノスくらいなものだった。
だが、今シーズンは久しぶりに“Jリーグらしい”混戦の展開が予感される。
そうした意味で注目されるのは4月9日、10日に開催されるJ1第8節である。
4月9日には、好調(「失った勝点」ランキングで2位)の柏がアウェーで王者、川崎フロンターレに挑み、翌10日には首位の鹿島が横浜F・マリノスをホームに迎え撃つ。
今シーズンの行方を占う試金石になるような気もするのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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