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アスピリクエタ
マルセイユからチェルシーに移籍し、10年目を迎えた。
その間、ロベルト・ディ・マテオ、ラファエル・ベニテス(暫定)、ジョゼ・モウリーニョ、スティーヴ・ホランド(暫定)、フース・ヒディンク(暫定)、アントニオ・コンテ、マウリツィオ・サッリ、フランク・ランパード、トーマス・トゥヘルと、9人もの監督に仕えてきた。
守備的なタイプからポゼッション、プレッシングまで、監督が代わるたびに現場は少なからぬ混乱をきたしたものの、基本的に定位置は守り抜いてきた。
モウリーニョがメディカルスタッフを罵倒してクラブ内が険悪な雰囲気になり、ランパードが若手を重用してベテランとの関係がぎくしゃくしたときも、顔色ひとつ変えずにピッチに立ち続けた。
気がつくと選手では最古参。しかしいま、予想もしなかったアクシデントに見舞われている。プーチンと近しい関係にあったロマン・アブラモヴィッチの資産が凍結され、チェルシーはクラブ存亡の危機に瀕している。キャプテンとして、セサル・アスピリクエタは神経をすり減らしているに違いない。
闘志をギラつかせるタイプではない。普段は物静か印象だ。政治的な発言を好まず、記者会見でも慎重に言葉を選んでいる。「リーダーとして物足りない」「ジョン・テリーのような強さが欲しい」との指摘もあるようだが、発言の一部が切り取られた悪意に基づく情報も横行しているのだから、アスピリクエタを責めるのはお門違いだ。
政治力を欲し、小細工まで弄したテリーが強いとは思えない。
さて、アスピリクエタは今シーズンも3バックの右センター、あるいは右アウトサイドで黙々とプレーし、チェルシーを支えてきた。
チアゴ・シウヴァ、アントニオ・リュディガーと構成する3バックは平均年齢32・33歳と渋い。あえて名づけるなら “sophisticated3” (3人のいぶし銀)か。若く、どう猛なアタッカーをみずからの領域に誘い込み、ソッと息の根を止めるスナイパーさながらの余裕を醸している。
「試合の流れを素早く察知し、ピンチの芽を未然に摘み取る技術は職人芸だ。セサルが11人いれば、われわれはチャンピオンズリーグを制覇できる」
数年前、モウリーニョが絶賛していた。
「ポジショニングを誤らない。迅速、かつ的確な状況判断で、ハーフスペースを瞬く間に封鎖する」
トゥヘルも百戦錬磨のDFに絶大な信頼を寄せていた。
チェルシーの結末は、神のみぞ知るところだ。勝点のはく奪や下部リーグへの降格など、いくつかのペナルティーが科されるかもしれない。「ロシア関連は一蓮托生」との意見も聞こえてきた。混乱は続くだろう。
しかし、アスピリクエタは決して慌てない。チャンピオンズリーグ準々決勝のレアル・マドリー戦に向けても冷静だった。
「マドリーのようなクラブと対戦するは名誉であり、難しい。彼らはパリ・サンジェルマン戦でも強さを見せつけた。ただし、忘れないでほしい。世界チャンピオンは我々だ」
アスピリクエタは、ただひたすら職務をまっとうする。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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