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3月12日の土曜日から、第27回全日本フットサル選手権大会が開催される。全国リーグであるFリーグのディビジョン1、2に加えて各地域代表の32チームが参加するノックアウト方式の大会だ。12日と13日の1回戦、2回戦は静岡県の浜松アリーナ、大阪府の岸和田市総合体育館、兵庫県のグリーンアリーナ神戸の3か所。そして、翌週末19日からの3連休は東京の駒沢公園屋内球戯場で準々決勝以降が行われる。
優勝候補の筆頭はもちろん名古屋オーシャンズだ。
2021−22シーズンのディビジョン1(F1)の優勝チーム。というよりも、過去15回のFリーグで14度優勝。今季で5連覇中という、日本のフットサル界の「絶対王者」である。
ただし、全日本選手権では名古屋が常勝というわけではない。
Fリーグ発足の2007−08シーズン(2008年開催)以降の14回の全日本選手権のうち、名古屋が優勝したのはわずか5回のみ(2011年大会は東日本大震災のため、2020年大会は新型コロナウイルス感染拡大のためにともに中止)。フットサルも、サッカーと同じく番狂わせが起こりやすい競技なので、ノックアウト方式の大会では名古屋も勝ち切れないことが多いのだろう。
昨シーズンの大会も、名古屋は準々決勝で敗退している。
王者、名古屋を2対1のスコアで破ったのがFリーグ・ディビジョン2(F2)所属のトルエーラ柏だったことでも話題となった。
トルエーラ柏は資金力もあり、「将来は名古屋に対抗できるチームになるのでは?」と期待されていたが、全日本選手権で見事にその実力を証明した形だった。そして、トルエーラ柏はF2リーグでも初優勝し、F1最下位のボアルース長野との入れ替え戦に臨むことになっていたのだが、直前になってFリーグからF1ライセンスが交付されないことが分かり、入れ替え戦出場は辞退することとなった(しかも、Fリーグからはライセンス不交付の具体的な理由の説明がなかったことなどから大きな話題となった)。
そのトルエーラ柏は、2021−22シーズンには東京都に移転して「しながわシティ」と改称してF2リーグに参戦。11勝3分1敗という圧倒的な成績で優勝。今回はライセンス問題もクリアとなって、再びF1最下位となったボアルース長野との入れ替え戦に臨んだ。
しながわシティ(旧トルエーラ柏)にとっては、まさに待ちに待った入れ替え戦だった。入れ替え戦は2回戦制で、3月4日、5日の両日に行われた。
しながわシティは、岡山孝介監督の下、テクニカルなパスを回す美しいスタイルのフットサルを目指す志の高いチームだ。
第1戦では長野が守備的だったこともあって、「しながわ」がボールを保持する時間が長く、期待通りの美しいフットサルを披露。シュート数もしながわが29本、長野が17本としながわが圧倒した。
ところが、パス回しにこだわるチームにはありがちなことだが、ボールを持っている時間は長いものの決定機は少なく、中央を固めた長野のゴールをこじ開けることができず、10分27秒にはCKから長野の松原翔太に先制を許してしまう。その後も、「しながわ」が攻めて長野が守るという展開が続いたが、「しながわ」は33分24秒と38分44秒にともにCKから得点してなんとか逆転勝利。第1戦が2対1の僅差の結果に終わったため、勝負の行方は翌日の第2戦に持ち越しとなった。
3月5日の第2戦。前日の試合とは打って変わって、勝たなければいけない立場となった長野が前線からプレッシングをしかけたため激しい試合となった。しかし、時間の経過とともに、やはり「しながわ」が優勢となり、17分07秒にCKから野村啓介のシュートが決まって先制し、さらに17分51秒には前線でボールを奪った「しながわ」がパスをつないで、最後はボラが決めて2対0とリード。
こうして、「しながわ」はF1昇格に大きく近づいた。このまま行けば、「しながわ」の2勝で文句ない昇格となる。長野が残留するためには、後半に3点を奪って第2戦に逆転勝ちするしかない状況となったのだ。
長野は、後半の開始とともにGKを引き揚げてフィールドプレーヤーを5人並べるパワープレ−に出た。“一か八か”の勝負だった。ボールを奪われて、無人のゴールに蹴り込まれたら、その時点で万事休すである。
フィールドプレーヤーが1人多い長野がパスを回し、「しながわ」はゴール前でゾーンディフェンスという展開が続いた。そして、後半もほぼ半分が経過しようという28分22秒に上林快人がゴール右からクリーンシュートを決めると、長野は33分05秒にも田口友也のゴールで同点に追いつき、そして、35分12秒、上林の遠目からのシュート性のボールにキャプテンの青山竜也が合わせて、長野が3連続得点でついに逆転に成功した。
試合はそのまま終了し、両者は1勝1敗、2試合合計得点で4対4とまったく互角の結果となったため、規定により長野のF1残留が決まったのだ。
後半の残り時間も少なくなった時間帯での連続3ゴールという非常に劇的な結末だった。
ボールゲームではどんな競技でも“試合の流れ”というものが非常に重要になるが、とくにフットサルの場合は11人制のサッカーよりも流れが劇的に変わることが多い。そんなフットサルらしさが出た素晴らしい終盤戦での攻防だった。これほど劇的な逆転劇というのは、どんなカテゴリーの試合でもなかなか見られないのではないだろうか。
「しながわ」の選手たちは、タイムアップの笛とともにコート上に崩れ落ちた。そして、観戦していた僕自身も(当事者ではないにもかかわらず)しばらくは呆然と立ち尽くしてしまった。
さて、そんな劇的な入れ替え戦からわずか1週間で、しながわシティは「前回優勝者」として全日本選手権に臨むことになる。
F1昇格を逃した「しながわ」にとっては、テクニカルなパスをつなぐスタイルのフットサルを全国のファンに披露する場となる。
だが、「しながわ」は初戦がF1で8位のフウガドールすみだ。そして、「すみだ」に勝利したとしても、2回戦ではおそらく名古屋オーシャンズとの対戦となるのだ。名古屋にとっても、昨年の大会のリベンジの試合となるわけで、しながわシティにとっては非常に厳しいスケジュールとなる。
いや、それよりも今シーズンの最大の目標だったF1昇格を、あのようなショッキングな形で逃してしまった「しながわ」は、その精神的なダメージを回復できるのだろうか?
全日本選手権でも当然、順当にいけばF1勢の戦いが予想される。リーグ戦準優勝の湘南ベルマーレや、リーグ戦終盤に調子を上げて3位に入り、若手の有望選手が揃うペスカドーラ町田が名古屋に挑戦する形になるのか? それとも、しながわシティが昨年に続いて旋風を巻き起こすのか……。
フットサル・シーズンの最後を飾る大会に注目したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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