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2月18日に開幕したJ1リーグ。2月23日にはACLに出場する4チーム同士の第9節分の試合が前倒しで開催され、早くも強豪対決が実現した。昨季準優勝の横浜F・マリノスはホーム日産スタジアムに3連覇を目指す川崎フロンターレを迎え、前半に1点を先制されたものの、後半の連続得点で見事な逆転勝ち。王者川崎を相手に4得点という、まさに“快勝”だった。
川崎はリーグ戦開幕前の富士フイルムスーパーカップで浦和レッズに敗れており、早くも公式戦2敗目。昨年は公式戦で2敗しかしなかったチームが、である。
勝利したJ1リーグ開幕戦のFC東京との試合でも押し込まれる場面が多く、どうやら川崎は守備面で不安を抱えているようである。
センターバックのジェジエウが負傷で離脱中であり、さらに第1節の試合で車屋紳太郎も負傷と苦しい事情もあるが、同時に相手チームも川崎の守備の弱点を考えて戦っているようにも思える。
横浜戦では川崎も2ゴールを決めており、攻撃力はそれなりに機能した。試合を重ねていけば、新加入チャナティップのテクニックなどもさらに噛み合っていくだろう。今の川崎に求められるのは守備の見直しだ。
前半32分に左の橘田健人からの浮き球をフリーになった家長昭博が頭で決めて先制した川崎。前半は橘田がアンカーの位置に入った中盤の守備が機能しており、横浜に決定機を作らせなかったので、そのまま川崎が順当に勝ち切るかと思われた。
だが、川崎の守備が突然崩れて、57分、58分、64分と連続ゴールを喫してしまう。
一つの原因は、最初の失点の直前に中盤で相手選手と衝突したチャナティップが頭を打ってタッチライン外で治療中だったこと。試合に戻りたいと主審にアピールしていたものの、ボールサイドだったため復帰が認められず、川崎は10人の状態のままであり、川崎の選手たちは集中を欠いていた。
そして、その失点のショックを拭い去る前に2点目を畳みかけられてしまったのだ。
1人少ない状態だったこと。失点して慌てたことが原因だった。だが、そんなことくらいで動揺するというのは、およそチャンピオン・チームらしからぬ失態だった。
同時に横浜の速く大きなパスが有効だったことにも注目したい。
1点目は、左サイドで喜田拓也からのボールを受けたマルコス・ジュニオールが逆サイドに上げたロングボールに右サイドからエウベルが飛び込んだ形。そして、2点目はマルコス・ジュニオールが右に開くボールを受けたエウベルが低くて速いクロスを入れ、中央で合わせた仲川輝人が飛び込んでボレーで決めた。
2019年、15得点を決めて得点王となり、横浜のJ1優勝に貢献した仲川は一昨年、昨年と故障もあって低迷していたが、今季はセレッソ大阪との開幕戦から溌剌としたプレーを続けている(78分にも大きなカーブを描いてクロスバーの下を叩く芸術的なシュートでチームの4点目も決めた)。
58分の横浜の2点目(仲川の1点目)は、横浜が狙っている形通りのゴールだった。
高速クロスを入れて、そこに中央および逆サイドから1人または2人の選手が飛び込んでくる形だ。これは、前任のアンジェ・ポステコグルー監督時代から横浜が狙い続けているパターンで、2019年には仲川もこうした形で得点を重ねたし、昨年は前田大然がフィニッシュに関わった。
試合直前には両チームがピッチ上でウォーミングアップを行う。それを見ていると、各チームの監督が何を狙っているかが分かってくることも多い。
ウォーミングアップでは「かごの鳥」と呼ばれるボール回しの練習とシュート練習が基本的なメニューとなっている。そして、そこに各チームの哲学は凝縮されている。
この試合前のウォーミングアップを見ていて気が付いたのは「かごの鳥」の時に川崎は狭いスペースでワンタッチパスを回す練習をしていたことだ。10メートル×15メートルくらいだろうか。密集の中で実に見事にパスを回す。
そう、試合中も川崎はショートパスを多用する。もちろん、川崎も大きなパスを蹴って逆サイドのフリーの選手を使うこともある。横浜戦の先制ゴールもそれに近かったし、先制ゴール直前の29分には中盤の脇坂泰斗から右サイドの家長に大きなパスが通り、フリーの家長からのクロスを逆サイドのレアンドロ・ダミアンが決めた場面があった(オフサイドでゴールは認められず)。
だが、川崎の場合、ロングボールを使う前に短いパスをつないで形を作ることによって、相手選手を片方のサイドに引き寄せることによってフリーの選手を作るのだ。
一方、横浜は試合前の「かごの鳥」の練習の際に、より大きなスペースを使っていた。その大きなスペースの中で選手が足を止めないで動きながらパスを回すのだ(先発選手がシュート練習に入ると、控え組はピッチ全体の4分の1くらいの大きなスペースでパス回しをしていた)。
「かごの鳥」が終わってシュート練習に入ってからも、やはり両チームの狙いははっきりしていた。
川崎はゴール前でパスをつないだ後、ペナルティーエリアに入った内側からコースを狙ったシュートを撃つ練習。そして、横浜はいつものようにサイドから中央に速いクロスを入れて、そこの1人、2人の選手が飛び込むパターンの練習から入った……。そう、仲川が決めたチーム2点目の得点そのままのパターンである。
そして、その後、横浜はペナルティーエリアの外の少し距離のあるところから、約20〜25メートルのシュート練習を繰り返していた。
実際、64分のエウベルの弾丸シュートも、そして78分の仲川の巻いたシュートもペナルティーエリアより少し外からのトライだった。
つまり、後半の横浜の4ゴールはいずれも試合前からチームの狙いだった形での得点だったわけである。
前半の横浜の攻撃はパスを回すことにこだわり過ぎていた。しかし、パスを回して攻めてくる相手に対する守備は川崎はすこぶるうまい。自分たちがパス回しの得意としている分、相手がパスを回してくれば危険なポイントを見逃すことがないからだ。
だから、川崎は昨年の前半のような圧倒的な強さを見せている時でもそうだったが、失点するのは決まってスピード攻撃によるものだ。縦パス1本で快速FWを走らせるとか、スピードのあるパスを左右に振ってくる……。そんな攻撃に対して脆さがあるのだ。
富士フイルムスーパーカップで浦和が奪った2得点もカウンター気味のものだったし、FC東京戦でも右サイドでレアンドロや松木玖生が飛び出してくる攻撃に手を焼いていた。
川崎の弱点は明らかになった。今後、対戦する各チームもやはりカウンターや速攻を狙ってくることだろう。川崎の鬼木達監督が、そのあたりの弱点についてどのように修正してくるかも含めて、今シーズン前半のJ1リーグの見どころのひとつとなるのではないだろうか。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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