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リーグワン
ラグビーの「リーグワン」が開幕して3週目までが終了した。これまで大学チームと実業団チームによって支えられてきたラグビー界の構造を転換しようという新リーグだ。プロ・アマ混在のリーグだが、各チームが「ホストエリア」を設定して地域密着を目指すことで、従来型の企業スポーツからの脱却を目指そうというのだ。
ただ、残念ながら新型コロナウイルスの感染拡大のため、開幕が2022年1月にずれ込み、さらに年が明けると新たにオミクロン株の感染が急拡大。1月5日に「開幕戦」と位置づけられていた国立競技場でのクボタスピアーズ船橋・東京ベイ対埼玉パナソニックワイルドナイツの試合は、埼玉で新型コロナウイルスの感染陽性者が出たことによって中止になってしまった。
僕も、サッカーのシーズンオフに当たる1月にはなるべくラグビーを見に行くことにしているので、1月22日に第3節の東芝ブレイブルーパス対ブラックラムズ東京の試合を観戦に行く予定でいたが、この試合もブラックラムズ東京に8名の感染陽性者が出たため「中止」となってしまった(1月22日に予定されていたディビジョン1の6試合のうち3試合が中止)。
リーグワンではこうした試合は延期ではなく中止扱いとなり、感染者が出た方のチームの不戦敗となってしまう。これまでのところ、ディビジョン1だけでも予定されていた試合の3分の1以上が中止となっている。これ以上、中止の試合が増えて行ったらリーグ戦で順位を付けられるのだろうかと心配になってしまう。
開幕が新型コロナウイルスの感染拡大とぶつかってしまったのは気の毒だった。
コロナ禍はすべての競技に大きな影響を与えているが、それが新リーグ開幕という重要な時期に重なってしまったのだ。そして、ラグビーという競技の特性上「密」な状態を避けられないだけに、これからも大きな影響を受けることだろう。
しかし、南半球をはじめ各国の代表クラスの選手が多数参戦している新リーグの競技レベルは高い。ここ数年での日本ラグビーの発展のおかげで日本人選手も含めてミスの少ない緊迫した試合が期待できる。
1月15日の第2節、コベルコ神戸スティーラーズとの試合で横浜キヤノンイーグルスが見せたオープンなパス回しは見ごたえがあった。そして、その翌週の23日、その横浜が昨年のトップリーグ・チャンピオンの埼玉に挑戦した試合などは、最後は埼玉が鉄壁の守備で横浜の攻撃を完封。着実に得点を重ねて勝ち切った。ミスやペナルティーも最小限で、80分間にわたって緊迫した接戦だった。こうした試合を見れば、新リーグの将来への期待は大きく膨らむ。
日本のサッカーは今から30年ほど前にプロ化が実現した(Jリーグ開幕は1993年。1992年にはその前哨戦としてヤマザキナビスコカップが開催された)。
サッカーも(というより、日本のすべてのスポーツが)1980年代まではほとんどが企業チームばかりだった。そんな中で、Jリーグは「地域密着」を掲げて誕生。そして、その後、日本経済の停滞の影響もあって実業団形式のチームでは廃部や休部が相次いだ。そして、日本のスポーツ界全体で地域密着が掲げられるようになったのだ。
バスケットボールのプロリーグとしてスタートしたBリーグでも企業名がはずされ、チームは地域名を名乗るようになった。そして、ラグビーもこうした流れの中で「地域密着」を掲げて新リーグを立ち上げたのだ。
開幕したばかりのリーグワンを見ていると、いろいろな面で30年前のJリーグを思い出す。かつてのJリーグ誕生の頃を知る者の1人として、ラグビーのリーグワンについて考えてみたい。
リーグワンに参加したチーム名(呼称)を見ると、企業名と地域名、愛称を組み合わせた長い名前が多い。たとえば「埼玉パナソニックワイルドナイツ」という名称には「埼玉」という地域名と「パナソニック」という企業名、そして「ワイルドナイツ」という愛称が盛り込まれているのだ。
これも、初期のJリーグと同じだ。当時、たとえば「横浜マリノス」の法人名は「日産フットボールクラブ」であり、「日産横浜マリノス」といった表記も使われていた。浦和レッズは「三菱重工浦和レッドダイヤモンズ」だった。その後、Jリーグがプロとして定着するとともに、法人名からも責任企業(親会社)の名前が徐々に消えていった。
Jリーグ発足当時の最高の人気チームだったヴェルディ川崎(読売サッカークラブ)のオーナーである渡辺恒雄氏は「企業名排除」というJリーグの(川淵三郎チェアマンの)理念に反発。読売系のメディアは「読売ヴェルディ」という呼称を用い続けていた。
当時は、僕たちメディアの間でも「チームの呼称をどうするのか」について戸惑いがあったものだ。ラグビーのリーグワンの実況中継を見ていても、実況アナウンサーや解説者が地域名や愛称ではなく「企業名」を口にしてから「あ、失礼しました」と言い直しているのを聞くことがある。そのあたりも、サッカー界の人間として30年前のことを懐かしく思い出すのだ。
ラグビーの世界でも、いずれは「地域名+愛称」が定着していくのであろうか?
ただし、難しい点もありそうだ。
まず、リーグワン参加チームはホストエリアを決めて地域名を名乗っているが、東京をホストエリアとするチームが4チームもあるのだ。さらに、千葉県浦安市をホストエリアとするNTTコミュニケーションズシャイニングアークスも地域名として「東京ベイ浦安」を名乗っている。つまり、「東京」を名乗るチームが5つもあるのだ。
埼玉や横浜は、地域名だけで記事が書ける。だが、東京を名乗るチームは地域名だけでは区別できないので愛称を使用せざるを得ない。だが、リーグワン加盟チームの愛称はかなり長いのだ。「シャイニングアークス」の場合、カタカナで10文字にもなる。ほとんどが7文字か8文字なのだ(ディビジョン1のチームで5文字以内は「スピアーズ」と「イーグルス」だけだ)。
新聞などの活字媒体では文字数の多い名称は扱いが難しい。Jリーグクラブの愛称はカタカナで4〜6文字が多いが、それでもたとえば横浜FMとか東京Vといったようにアルファベットで表記されることがある。おそらく、リーグワンの報道でも地域名だけでは区別がつかない東京のチームの場合、そうしたアルファベットでの扱いが多くならざるをえないだろう。
しかし、1月22日に僕が観戦に行こうと思っていた試合(東芝ブレイブルーパス東京対リコーブラックラムズ東京)は、「BL東京対BR東京」ということになってしまう。これでは、ラグビー界に詳しくない一般のファンは混乱をきたすだけであろう。
地域密着を定着させるためにはチーム名の表記について何らかの改善が必要なのではないだろうか? サッカー界ではたとえば「浦和レッドダイヤモンズ」は呼称として「浦和レッズ」とすることで、愛称は9文字から3文字になった。同様に「名古屋グランパスエイト」は「エイト」をなくして「グランパス」となった。リーグワンも、チームの呼称について一行を擁するのではないだろうか?
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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