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トレーニングで笑顔を見せる長谷川唯選手と清水梨紗選手
日本の女子サッカーの将来を懸けて、日本女子代表(なでしこジャパン)が2023年の女子ワールドカップを目指す戦いが始まった。
ワールドカップ予選を兼ねるAFC女子アジアカップが、インド西部のムンバイおよび近郊の都市で1月20日に開幕したのだ。
オーストラリアとニュージーランドの共同開催となる2023年のワールドカップは、これまでの24か国参加から32か国参加に拡大されることになっており、アジアカップの上位5チームに出場権が与えられる(開催国であるオーストラリアが5位以内に入った場合は6位のチームまでが出場権を獲得)。
2011年のワールドカップ・ドイツ大会で優勝を遂げた日本だが、このところ欧州勢の急速な台頭によって上位進出が難しくなっている。
2015年のワールドカップ・カナダ大会で2大会連続で決勝に進出したのを最後に、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックではアジア予選で敗退して出場権すら獲得できず、2019年のワールドカップ・フランス大会ではラウンド16、自国開催となった昨年の東京オリンピックでは準々決勝で敗れ、ともにノックアウト・ステージの初戦での敗退を余儀なくされた。
リオデジャネイロ・オリンピック予選敗退後、佐々木則夫監督(現、日本サッカー協会女子委員長)が退任。以後、高倉麻子監督の下で2度のワールドカップを戦ったが、高倉監督はオリンピック終了後に退任。新たに就任した池田太監督の下でチーム作りが始まったところだ。
池田監督就任後、唯一の公式戦は11月下旬のオランダ遠征だったが、1戦目ではアイスランドに0対2で敗れ、2戦目となったオランダ戦は、相手がほとんど国際試合の経験のない若手選手を並べていたにもかかわらず、0対0の引き分け。2試合連続で無得点という結果に終わってしまった。
もっとも、高い位置でボールを奪って、素早くゴール前にボールを運ぼうという池田監督の意図は試合の随所に見て取ることはできた。これまで、日本人選手のストロングポイントである正確なパス回しに徹底してこだわって強化してきた高倉前監督時代からの路線転換である。
ただ、新監督の下での準備期間が少なかったために動きに連動性がなく、せっかく前線の選手が裏を取りかけていてもパスが出なかったり、ゴール前のフィニッシュの1つ前のパスの正確性を欠いたりした結果が2試合連続ノーゴールという結果だった。
日本国内では、昨年秋から女子サッカー初のプロリーグとしてWEリーグが開幕した。女子サッカーの起爆剤として期待される新リーグだが、WEリーグは目標とした平均観客数1万人という数字には遠く及ばず(新型コロナウイルスの感染拡大という中でのリーグ開幕は不運だったが)、世間からの注目度は必ずしも高くはない。
また、皇后杯全日本女子選手権大会では日テレ・東京ヴェルディベレーザ(皇后杯4連覇中)の育成組織である「メニーナ」(つまり、18歳以下のチーム)がWEリーグ首位のINAC神戸レオネッサなどを破って準決勝に進出。同時に、WEリーグ入りを断念し、平均年齢19歳程度の若手中心のチームとなったセレッソ大阪堺レディースもやはり準決勝に進出。プロチームが若い年代のチームに相次いで敗れてしまったのだ。
このように、WEリーグのスタートは順調なものではないが、一方で若手選手の育成が順調に進んでいることも明らかになった。
2011年に女子ワールドカップで優勝した当時は、一握りの代表選手たちが突出した存在で、当時まだトップリーグだったなでしこリーグでも、上位と下位の格差は大きかった。当時と比べて、あらゆる意味で日本の女子サッカーの強化が進み、層が厚くなっていることは確かだ。
いずれにしてもヨーロッパ勢に引き離されず、日本の女子代表がこれからも世界のトップを争うためには、WEリーグはなんとしても成功させなければならないのだ。
女子サッカーの注目度を集めて、プロリーグを成功させるために必要なもの。それは、やはり日本代表の活躍だろう。日本女子代表が再び世界大会の上位に挑めば、日本中の人たちが11年前の快挙を思いだしてくれるはずだ。
そのためには、インドでのアジアカップでぜひともワールドカップ出場権を獲得しなければならない。
FIFAの世界ランキングを見れば日本は13位。アジアでは11位のオーストラリアに次ぐ2番目のランキングだ。アジア枠が「5」に拡大したこともあって、実力を考えれば日本の予選突破はそれほど難しいこととは思えない。
ただ、懸念されるのは集中大会という予選方式だ。“一発勝負”では何が起こるかわからない。男子のワールドカップ最終予選のようにホーム&アウェーの2回戦総当たり形式であれば、1つのミスがあっても挽回できる。
ロシア・ワールドカップの最終予選では初戦でアラブ首長国連邦(UAE)に敗れたものの、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の日本代表はその後挽回して首位通過を果たした。そして、初戦でオマーンに敗れるという大失態を犯した現在の代表チームも、6試合消化した時点で2位に順位を上げている。
だが、“一発勝負”の大会ではたった一つのミスが命取りになってしまうのだ。
2015年のU−20ワールドカップ出場を目指していた、南野拓実を擁する当時のU−19代表は、U−19アジアカップ準々決勝で北朝鮮相手に圧倒的に優位に試合を進めながら、相手GKの好守の前に1ゴールだけしか決められず、1対1の引き分けの後のPK戦で敗れて世界大会への切符を逃してしまった。
2016年のフットサル・アジアカップでは日本代表は準々決勝でベトナムに敗れて、翌年コロンビアで開かれるワールドカップへの道を閉ざされた。アジアのフットサル界では、イランと日本の実力が抜きんでているはずなのに、こうした番狂わせも起こりうるのだ。
冒頭にもご紹介したように、日本女子代表は池田新監督就任後、まだ十分な準備ができたとは言い難い。オランダ遠征後も短期の合宿が行われただけで、海外組とは現地での合流となるのだ。しかも、攻撃のエースである岩渕真奈選手はイングランドからインドに到着後に新型コロナウイルスへの感染が明らかになり、隔離期間が終わればチームに合流できるにしても、チームとしてのトレーニング時間が減ってしまった。
幸い、グループリーグでは初戦がミャンマー、2戦目がベトナムと格下相手の試合が続く。この真剣勝負の2試合を、いわば準備試合のように利用してチーム状態を上げていくしかないだろう。そして、3戦目には韓国との対戦を迎える。韓国はコリン・ベル監督の下で時間をかけて作り上げてきた完成度の高いチームだ。
もちろん、韓国戦に敗れてもグループリーグ突破は間違いない。だが、「ワールドカップ予選」という意味では、最も重要なのは準々決勝ということになる。
グループ1位で通過すれば、準々決勝ではグループAかグループBの3位チームとの対戦となり、準決勝進出そしてワールドカップ出場への道が大きく広がる。だが、グループ2位になってしまうと、準々決勝での対戦相手はグループBの1位。アジアで唯一FIFAランキングが日本より上のオーストラリアとの対戦となる可能性が高いのだ。
もちろん、5位(もしくは6位)までに入ればワールドカップ出場につながり、さらに大陸間プレーオフという道も残されている。いわば「敗者復活戦」があるのだが、これも“一発勝負”の連続である。
準々決勝で勝利してすんなりとワールドカップ出場、そしてアジアカップ3連勝を目指してもらいたいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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