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サッカー フットサル コラム 2022年1月7日

「雪中戦」となった大学女子の戦い。同じく極寒の中の皇后杯から見えてくる女子サッカーの“今”

後藤健生コラム by 後藤 健生
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皆さんは、写真などご覧になっただろうか? 1月6日に東京・味の素フィールド西が丘で行われた第30回全日本大学女子サッカー選手権大会の決勝戦、静岡産業大学対早稲田大学の試合は完全な「雪中戦」となった。

雪は正午頃から振り出した。「天気予報通り」だったが、最初はパラパラとした雪で、せいぜい薄っすら積もるくらいかと思っていたら、たちまちピッチは白くなり、ハーフタイムには真っ白に。後半の30分過ぎには「飲水タイム」ならぬ「雪かきタイム」が取られ、後半のアディショナルタイムは7分にもなった。

東京での「雪中戦」といえばトヨタカップのポルト対ペニャロール戦(1987年)や第76回全国高校サッカー選手権決勝の東福岡対帝京戦(1997年度)などが思い浮かぶが、それに匹敵するような大雪の試合となった。

後半からはオレンジ色のカラーボールが使用されたが、トヨタカップや高校サッカーの「雪中戦」の時代と違って今はマルチボール・システムなので、ボールも1個や2個では足りない。雪の予報があったからなのか、ちゃんとオレンジ色のボールが用意されていたことにも感心した。

試合は、この大会で過去6度の優勝経験があり、2015年度から17年度にかけて3連覇も記録した早稲田大学が静岡産業大学を終始圧倒。前半だけで13本ものシュートを放ったもののノーゴールに終わり(静岡産業大学の前半のシュートは1本だけ)、雪も深まってきて「嫌な展開」になるかと思われたが、52分にFKのこぼれ球をDFの後藤若葉が叩き込んで、1対0のスコアながら早稲田大学が順当勝ちした。

後半に入ると、早稲田大学の選手たちは雪の積もったピッチにもうまく対応。ちょっと浮かせてパスをしてみたり(落ちたところでボールは止まる)、ツンとつついてドリブルしてみたりと、雪の中の戦い方を全員が共有して戦っていた。

雪が深まるとともに、気温も急降下。キックオフ時点で1.8度あった気温(公式記録では2.8度)は試合終了時には0.3度まで下がっていた。

こうした悪コンディションの中で、きちんとした試合をした選手たちにまずは敬意を表しておきたい。

さて、その全日本大学女子選手権大会の前日には、栃木県・宇都宮市のカンセキスタジアムとちぎで、皇后杯全日本女子サッカー選手権大会の準決勝2試合が行われた。

こちらは、夕方16時から2試合が行われ、第2試合のジェフ・ユナイテッド市原・千葉レディースと日テレ・東京ヴェルディメニーナの試合は19時03分開始。試合が終了した20時50分頃には気温はなんと0.1度と、氷点下すれすれまで降下していた。

こちらも、そんな悪条件の中でしっかりした試合が行われ、千葉レディースが1対0で逃げ切って、WEリーグの意地を保つことに成功した。

メニーナは、日テレ・東京ヴェルディベレーザの育成組織のチーム。つまり、18歳以下のチームである。そのメニーナが、今年の皇后杯では3回戦でなでしこリーグ1部のASハリマアルビオンに2対1、4回戦ではWEリーグで現在首位を独走中のINAC神戸レオネッサに2対1、準々決勝ではやはりWEリーグの大宮アルディージャVENTUSに4対0と上位リーグの相手を次々と破って準決勝に進出して旋風を巻き起こしていた。

勝ち上がれば、準決勝では“姉貴分”の日テレ・東京ヴェルディベレーザとの対決かと思っていたら、ベレーザの方は準々決勝で千葉レディースに敗れてしまったので、準決勝は千葉レディースとメニーナの顔合わせとなったのである。

本来は勝ち上がってくるはずではないメニーナの快進撃は一大事となってしまった。

というのは、この皇后杯と並行して年代別の大会も行われていたからだ。

皇后杯でメニーナがINAC神戸を破って準々決勝進出を決めたのと同じ12月25日には、第26回全日本U−15女子サッカー選手権大会準決勝でメニーナが浦和レッズレディース・ジュニアユースにPK勝ちして決勝進出を決め、メニーナはこの大会で優勝を決めてしまう。

こちらは、同じメニーナの中でも15歳以下の選手たちのチームである(ただし、皇后杯の方にも13歳の青木夕菜など中学生の選手が数人はいっていた)。

そして、皇后杯準決勝が行われた1月初めには、大阪で第15回全日本U−18女子サッカー選手権大会が同時並行で開催されていたのだ。まさに、U−18の同じ年代のチームだ。

日本サッカー協会では、急遽特例として追加登録を認めたものの、メニーナはU−18の大会に15歳以下の選手を何人も出場させざるをえなくなり、皇后杯準決勝の翌1月6日には同大会の2回戦でセレッソ大阪堺ガールズに0対7で大敗してしまった。

そもそも、メニーナが皇后杯で準決勝まで勝ち残るとは、本人たちも含めて想定していなかったことだろうから、大会規定をとやかく言っても仕方のないことかもしれない。罪作りなのは、U−18のチームに快進撃を許してしまったWEリーグ勢ということだろう。

しかし、敗れた準決勝の千葉レディース戦を見ても、メニーナの快進撃が単なる番狂わせではないことがよく分かった。

千葉レディースに対しても、メニーナはほとんと90分間ボールを握って攻撃し続けていたのである。

もちろん、開始わずか8分でゴール前でのDFの処理ミスを拾った千葉レディースの鴨川実歩が決めて千葉レディースがリードしたため、守備に定評のある千葉レディースが守備意識を高めたということはあるにしても、18歳以下のチームがテンポ良くパスを回し続けたのである。千葉レディースの監督からは、「行き過ぎるな」という声が飛んでいた。

メニーナのパス回しのリズムは、まるでJ1リーグで圧勝した川崎フロンターレのようだった。スペースに入り込んだ選手がパスを受けて、体の角度をしっかり保って視野を確保。ちょっと動いて、相手のマークをはずし、そしてドリブルでしかける。素晴らしいリズムの攻撃だった。

ただ、川崎と違ったのはレアンドロ・ダミアンや家長昭博のように相手ゴール前ですべてを変えることのできる選手がいなかったこと。
“姉貴分”もベレーザもそうなのだが、パスはきれいに回り続けるものの、ゴール前に切れ込んでいく強引さとか、シュートを撃つ思い切りが足りなかった(あれだけパスを回しながら、メニーナのシュートは千葉レディースより1本少ない7本だけ)。

しかし、それにしても、早々に1点を奪った千葉レディースがすぐに守りに入るなど、「日本初のプロリーグ」と銘打ったWEリーグのチームの戦い方としては釈然としないものがある。秋春制で行われているWEリーグのウィンターブレーク中に行われた皇后杯。WEリーグ勢はとても万全の戦いができていたとも思えなかった。

同じく準決勝に進出したセレッソ大阪堺レディースも若いチームだった。先発11人の平均年齢はメニーナが16.3歳、C大阪堺は19.0歳だった。若い選手が次々と育っているのは素晴らしいことだが、トップチームの強化は順調には進んでいない……。

現在の日本の女子サッカー界の、さまざまなことが垣間見えた極寒の中の試合だった。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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