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なでしこジャパン
オランダに遠征した日本女子代表(なでしこジャパン)。11月25日にはアイスランドに0対2と完敗を喫したが、同29日に対戦したオランダとはスコアレスドローに終わった。
オランダは前回2019年の女子ワールドカップ準優勝国であり、現在もFIFAランキング4位という強豪だけに、引き分けは日本の大健闘とも言えるが、この日のオランダは日程上の都合で主力の多くを温存した若いチームだったので、手放しでは喜べない。
もっとも、日本チームにとっても東京オリンピックで準々決勝敗退に終わった後、高倉麻子監督が退任。池田太新監督が就任してから初めての親善試合だったのだ。もちろん、公式国際試合なので勝敗は重要だが、現段階では多くの選手を試しながら、新監督による新しいコンセプトを共有する作業を行うことが遠征の最優先の目的だった。
従って、問題とすべきは結果ではなく、試合内容ということになる。
これまで、高倉監督時代のサッカーはテクニックを重視したものだった。
フィジカル面で(体格面で)劣る日本はテクニックとパスで対抗せざるを得ない。そして、2011年になでしこジャパンがワールドカップで優勝した時は、その流れるようなパス攻撃が世界を驚かせたのだ。しかし、その後、ヨーロッパ諸国で女子サッカーのプロ化が進み、今ではテクニック面での日本の優位も小さなものになってしまっている。
テクニックやパスを使った集団的なサッカーはもちろん日本のストロングポイントであるのだから、それを捨て去る必要はまったくないのだが、テクニックやパスだけに頼っていては勝てない時代となっているのだ。
そこで、池田監督は高い位置でボールを奪ってショートカウンターで素早く攻めるというコンセプトを前面に掲げることとなった。
男子のサッカーの最近の潮流と軌を一にしていると言っていいだろう。
日本国内を見渡しても、かつては徹底してテクニックで崩すサッカーを追及する日テレ・ベレーザが「絶対女王」的な存在だったが、最近はよりフィジカルを生かしたり、大きなパスでスペースを使うチームが台頭してきている。
11月の遠征は、その池田監督による新しいサッカーを確立するための最初の一歩だったわけである。
攻守ともに、初戦となったアイスランド戦よりも、2戦目のオランダ戦の方が改善されていたのは間違いない。
国内組はすでに10月に合宿を行っていたが、海外組にとっては新監督になってから初めての活動であり、集合後アイスランド戦までは2日間のトレーニングしかできなかったのだ。アイスランド戦を戦って、その反省点を踏まえたうえで中4日のトレーニング期間を経て臨んだオランダ戦で良い内容の試合ができたのは、ある意味で当然のことだった。
しかも、メンバー的にもオランダ戦ではこれまでも代表の主力で戦ってきたベテランが数多く起用された。
実際、オランダ戦では日本が押し込む時間がかなり長く、相手の裏を取って何度も決定機を作ることに成功した。そして、ボールを失ってもすぐに切り替えて高い位置で守備をしてボールを奪い返し、オランダに攻め込まれる場面は少なかった。
あれだけチャンスを作りながら、結局一度もゴールネットを揺らせなかったことは大きな反省材料だったとしても、内容的に良いサッカーができたことは間違いない。
若手主体の相手だったとしても、チームの立ち上げの段階であることを考えれば、ピッチ上で自分たちが目指しているサッカーを実現できたことは悪いことではなかった。
さて、結局2試合を戦って1ゴールも奪えなかったことをどう考えればいいのだろうか。
高い位置でボールを奪って、相手陣内のバイタルエリアやサイドでボールをしっかりとつなぐことはできたが、ペナルティーエリア内でシュートを撃てる状況をつくれなかったのだ。
せっかく相手陣内深くでボールを持っているのに、そこから前線にパスを付けられなかったのである。
とくに、1戦目では前線の小林理歌子や植木理子が相手の最終ラインの裏を狙う動き出しを見せるのだが、そこでパスが出なかったのだ。
ひとつは前線の選手の動き出しのタイミングの問題でもあるし、またコンビネーションがまだ出来ていなかったからでもあるのだが、アイスランド戦ではパスの出し手であるMFが慎重になり過ぎたような気がする。
アイスランド戦ではMFは猶本光と長野風花で、長野が前に出て後ろを猶本がカバーする関係になっていたが、ともに重心が後方に傾いていた。とくに、猶本は慎重な性格もあってボールを大事にし過ぎて、縦を狙う思い切ったパスを出せなかった。
オランダ戦ではMFは長野と林穂之香が組んだ。林は現在はスウェーデンのAIKフットボールに所属しているが、セレッソ大阪堺レディース育ちの選手だ。C大阪は最近、多くの素晴らしい若手を輩出しているチームだが、とくにスペースを使って大きなパスを出す男子と同じようなスタイルのサッカーをしており、長野も前線のスペースを狙うバスがうまい。
パス出しという意味では、長谷川唯に頼る部分は大きかった。
オリジナルポジションとしてはサイドハーフなのだが、長谷川は中央にポジションを変えて攻撃の起点となって突破のパスを出せていた。リスクを冒してでも突破のパスを試みるだけの気持ちの強さを持っているのだ。長谷川は今回の遠征では2試合フル出場ということになったが、これからもこのチームの中心として期待していいだろう。
パスを出せる選手としては、今回の遠征メンバーには選ばれなかった杉田妃和もいる。杉田は、高倉監督時代はサイドハーフとして起用されており、所属のINAC神戸レオネッサでも最近はサイドでプレーしているが、もともとはボランチでパスが出せる選手だ。杉田がこれから代表にどう関わっていくのかも注目したい。
女子代表は、1月にはワールドカップ予選も兼ねたAFC女子アジアカップに臨むことになる。新監督に交代してから時間がない中での真剣勝負だけに難しい大会となるだろうが、同時に代表として長時間にわたって活動できる強化のためには絶好の機会ともなる。
ワールドカップ出場権を確保し、2023年にオーストラリアとニュージーランドでの共催となるFIFA女子ワールドカップでの上位進出を目指してほしい。新しく始まった女子のプロリーグ、WEリーグの成功のためにも代表の強化は不可欠の要素だからだ。
2020年から21年にかけては年代別ワールドカップが中止になるなど、国際経験を積む場がなくなってしまった。アジアカップ終了後(ワールドカップ出場権獲得後)は、積極的に国際試合を組んでいく必要もあるだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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