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サッカー フットサル コラム 2021年11月22日

現役引退を表明した阿部勇樹選手。本職はボランチだが、長くCBとしても活躍

後藤健生コラム by 後藤 健生
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11月20日に行われたJ1リーグ第36節。僕は、埼玉スタジアムでの浦和レッズ対横浜F・マリノスの試合を観戦に行った。「ワクチン接種・検査パッケージ」での入場が認められたことで、快晴に恵まれた埼スタに詰めかけた観客は2万人を超えた(2万1257人)。

J1リーグはすでに川崎フロンターレの優勝が決まってしまっているが、上位の順位争いはまだ続いている。この試合も、そうした上位チーム同士の直接対決、いわゆるACL出場権争いの試合だが、僕にとっては「来シーズンの川崎フロンターレへの挑戦者は誰なのか?」という興味が大きかった。

試合はアウェーの横浜FMが支配。シュート数は浦和の3本に対して横浜FMは12本だった。しかし、結果的にはセットプレーとカウンターから2点を奪った浦和が2対1で横浜FMを破ったのだ。見事な、狙い通りのカウンターだった。

そういえば、浦和は今シーズンの川崎相手にも、セットプレーから得点を生かしてYBCルヴァンカップとリーグ戦で3戦連続の引き分けに持ち込んでいる。

では、果たして浦和はこれからカウンター型のチームとして進化していくのだろうか。

この試合の“勝ち方”は狙い通りのカウンターをゴールに結びつけた見事な勝ち方ではあった。だが、浦和目指すべきの将来像はまだ明確化していないような気がする。つまり、これからの浦和は10年以上前のワシントンやポンテがいた時のようなカウンター型として進化していくのか、それともポゼッション・サッカーで相手を崩すチームとなるのか……。

もちろん、相手によって相貌を変えるチームになっても面白い。リカルド・ロドリゲス監督というのは、もしかしたらそういうタイプの指揮官なのかもしれない。

さて、埼スタまでは埼玉高速鉄道の浦和美園駅から20分ほど歩くことになる。

歩いていると、赤いレプリカユニフォームを着こんだ浦和サポーターの背中をたくさん見ることになる。別に数えたわけではないのだが、どうも「22」を付けているサポーターが多いような気がする。

浦和レッズの背番号「22」。つい先日、引退を発表した阿部勇樹選手。「今が旬」の小泉佳穂や江坂任等々を押しのけて、圧倒的な支持である。守備的な、地味なポジションの選手がこれだけの支持を受けているのだから、このクラブにとって阿部選手という存在がどれだけ大きいものなのかが分かる。

ちなみに、サポーターの背中を見ていると、他には興梠信三の「30」や槙野智章の「5」も多く見かける。槙野選手も、今シーズン限りで浦和を離れることが先日発表されたばかりだし、興梠選手も最近は出場機会を減らしてしまっている。

そんな意味でも、浦和は転換期に差し掛かっているのだ。多くのレジェンドたちと別れを告げた以上、これからの浦和はまず勝利を積み重ねていくこと。そして、そんな中から新しいチームの顔を生み出していく必要があるのだ。

その意味でも、浦和がこれからどのようなスタイルのチームになっていくのかを、早く知りたいのである。

さて、阿部勇樹選手については、僕は申し訳ないことをしてしまったことがある。

日本で最も伝統のあるサッカー雑誌である『サッカーマガジン』で、かつて「クリスタルアウォード」という表彰が行われていた。その年の最優秀選手選びである。選考委員が集まって、中華料理をつつきながら議論を進めて、その年の優秀選手を選ぶのだ。

で、浦和がJ1リーグを制したある年に、当然、阿部選手が有力候補となっていた。

しかし、僕は「阿部選手が受賞すべきシーズンではない」と主張して、1位に投票しなかったのだ。その結果、僅差で阿部選手は受賞を逃してしまったのだった。

この賞がどれほどの価値があるのかは別として、阿部選手には申し訳ないことをしたと、ずっと思っている。

僕が阿部選手を1位に推さなかったのは何故か? それは、僕は阿部選手は生粋のボランチだと思っていたからだ。だが、この頃、阿部選手はクラブでも日本代表でもセンターバックとしてプレーすることが多かった。最後尾で守備のために獅子奮迅の活躍をしていたのだ。

しかし、僕は阿部選手はボランチとして活躍したシーズンにこそ受賞すべきだと思っていたのだ。

多くの監督が、阿部選手をDFとして起用したのは、もちろん阿部選手の守備能力が高かったからだが、同時に、当時の日本には阿部選手のようなパス能力を持ったDFが見当たらなかったからだ。最終ラインでも本職のCBにまったく遜色のない守備ができる阿部選手は、そのため、CBとして起用されたのだ。

もちろん、屈強な本職のCBに比べればサイズは劣るかもしれないが、日本国内の試合であれば阿部選手はDFとしても一流だった。

だが、結局2010年の南アフリカ・ワールドカップで阿部選手はボランチとして起用されて、日本代表のラウンド16進出の立役者となった。準備試合で結果が出ずに批判されていた日本代表の岡田武史監督は、大会直前になってチームのコンセプトを変更。それまでの4−2−3−1ではなく、4人のDFラインの前にアンカーを置いて守備に軸足を置いた戦い方に切り替えた。そして、そのアンカーの位置に阿部選手を使ったのだ。

準備試合ではアンカーとして稲本潤一選手を使うことが多かったが、本番で阿部選手が起用されたのは、やはり守備能力としては阿部選手の方が上だったからだろう(なにしろ、ずっとCBとして起用されてきたのだから……)。

同時に、2010年の日本代表には中澤佑二と田中マルクス闘莉王という強力なCBがそろっていたので、阿部選手を最終ラインで使う必要がなかったのだ。

そんなわけで、本来は優れたボランチだった阿部選手はCBとボランチという2つのポジションで起用されてきた。ずっと、本来のポジションであるボランチで使われていたら、もっと凄い選手になっていたかもしれない……。

最近では、遠藤航選手もJリーグ時代には、湘南ベルマーレでも、浦和レッズでもCBで起用されることが多かった。やはり、守備能力が高い上にパスの技術が高かったからだ。だが、遠藤が本来はボランチであるということは、シュトゥットガルトでの活躍を見れば明らかだし、今は日本代表で替えのきかない不動のボランチとなっている。

守備能力の高いボランチがCBとして起用されるという日本的な伝統も、そろそろ終わりになるのかもしれない。というのも、これからはパス能力の高い本職のCBが増えていくだろうからである。

現在の日本代表のCBであり、キャプテンである吉田麻也選手はロングボールで攻撃を組み立てることができるし、冨安健洋に至っては左右両足で前線までの長いくさびのパスを通すことができる。そして、若い世代の選手を見ていても、そうした技術力の高いCBが何人もいる。

阿部勇樹選手が、今のような時代に生まれていれば、CBとしてプレーする必要はなかったはずだし、きっとボランチとして非常に高いレベルのプレーを見せてくれていたはずだ。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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