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伊東純也
ワールドカップ・アジア最終予選で、日本代表がベトナム相手に辛勝した。VARによるオフサイド判定で取り消された伊東純也のスーパーゴールが認められていれば、完勝になっていたかもしれないが、内容的には突っ込みどころ満載の勝利だった。
しかし、これは仕方のないことだ。
今回の最終予選を通じて多くの人たちに理解されるようになったのが、欧州組が集合した直後の木曜日に行われる“初戦”の難しさだ。週末にヨーロッパのクラブで試合をしてから、移動して集合。全員が揃ってトレーニングができるのは長くて2日……。当然、コンディションも良くないし、コンビネーションも確立されていない中での手探りの状態での試合となる。
その結果、9月の“初戦”ではホームでオマーンに敗れるという大失態を招いてしまったのだ。
これは、今に始まったことではない。日本代表で「海外組」が大半を占めるようになったロシア・ワールドカップ最終予選。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の日本代表は、初戦でアラブ首長国連邦(UAE)に敗れ、イラク相手には最悪の内容の試合をして、山口蛍の劇的な決勝ゴールでなんとか勝点3を拾った。どちらも、“初戦”での出来事だった。
そして、今年の11月の“初戦”はベトナムの首都ハノイでの戦いとなった。
ベトナムへの移動は日本までの帰国よりもさらに負担が大きい。一部の海外組は日本経由での移動となり、さらに日曜日に試合があった選手たちはチャーター便での移動だったが、途中で足止めされたということで到着が大幅に遅れた。その結果、全員が揃ってのトレーニングは1日だけとなってしまったのだ。
対戦相手のベトナムはホームであり、しかも新型コロナウイルス感染症の急拡大の影響で国内リーグが中断したままになっているので、代表チームが準備をするための時間はいくらでもある状態だ。
さて、そんな難しい状況下の試合。森保一監督は追加招集の堂安律を含めて28人の選手を招集。移動の負担が少ない国内組も10人を数えた。
したがって、比較的コンディションの良い国内組中心のメンバーを選択することもできた。だが、森保監督は国内組の多くをベンチ外として、従来のメンバー、10月にオーストラリアに勝利した時とほぼ同じメンバーで戦うことを選択した。
このコラムをずっとお読みいただいている方はご承知だろうが、僕は「ベトナム戦は国内組で戦え」と主張してきた。
しかし、森保監督の選択も十分に理解できる。
新しいメンバーを使うとしても、コンビネーションを作るだけの時間が取れない。「それなら、たとえコンディションが悪くても従来のメンバーで戦うべきだ」と考えたのだ。
どちらが正解かというのはもちろん分からない。国内組中心で戦っていたらもっと楽に勝てていたかもしれないし、逆にコンビネーション不足と経験不足が原因で勝点3を取れなかったかもしれない。
いずれにしても、このような過酷なスケジュールの中で結果的に勝点3を取れたことは素直に喜ぶしかない。対戦相手がグループ最下位のベトナムだったことも幸運だったし、20度ちょっとという気象条件も幸いした。
次の火曜日のオマーン戦までは中4日の時間がある。ベトナムからオマーンまでの移動を伴うものの、コンディションは間違いなく改善されるし、3日間全体練習もできるので、たとえばセットプレーの準備などもできるはず。
コンディションさえ良ければ、オマーンに勝利することは難しいことではない。
だが、“初戦”問題はこれからも続く。
2022年に入ってからの残り4試合のうち3試合がホームゲームなので日本にとって有利なのは間違いない。だが、1月27日には再び“初戦”問題に直面する。
もっとも、日本への帰国のための移動は、ベトナムまでの移動に比べれば負担は多少は少ないし、この試合の相手は5戦終了時点で勝点4しか取れてない中国なので、なんとか乗り切れるだろう。さらに3月24日の“初戦”には、後半戦で唯一のアウェーゲーム、オーストラリア戦が予定されている。
これは、大変なスケジュールとなる。オーストラリアはヨーロッパから見たらまさに地球の裏側。日本までの移動より、さらに長距離移動となる。時差が10時間で、夏のオーストラリアの暑さも冬のヨーロッパから移動する選手たちにとっては大きな負担となることだろう(もっとも、オーストラリア代表も多くの選手がヨーロッパからの移動となるので、条件は同じなのだが……)。
いずれにしても、“初戦”問題は4年後の予選でも、8年後の予選でも日本代表にとっては大きな課題であり続けるはずだ。ヨーロッパのクラブでプレーする日本人選手は、これからも増えることはあれ、減ることはない。遠い将来、Jリーグがヨーロッパの3大リーグ並みの存在になって多くの代表選手が国内でプレーするようになるとか、ヨーロッパから日本まで数時間で移動できる極超音速機が実用化されない限り、“初戦”問題は永久につきまとう。
あるいは、現在のように年に数度の代表ウィークを設けるのではなく、代表活動を2か月間限定にするといった提案もあるが、これが実現すれば“初戦”問題は解決できるかもしれない。
とにかく、現状では日本サッカー協会として次の予選に向けて「“初戦”問題をどうするか?」を考えておかなければならない。
今回のベトナム戦で森保監督が国内組中心での戦いに踏み切れなかったのは、新メンバーで戦うことのリスクがあったからだ。
それなら、国内組だけの代表チームを本来のチームとは別に組織しておき、国内組だけの代表合宿を繰り返して“常備軍”的なチームを準備しておくことはできないだろうか? そうすれば、コンビネーションを心配することなく、“初戦”には国内組代表を送り込める。
今回、途中ロシアで足止めされた海外組は、大幅な遅れはあったものの、無事にベトナムに到着し、1日だけでも全体練習ができた。だが、将来、同じような状況で、海外組が到着できないといった状況だってあり得ないことではない(たとえば、経由地でクーデターとか戦争が起こった場合である)。そんな、いざという時に国内組の“常備軍”を準備しておけば安心できる。
あるいは、たとえば川崎フロンターレのような国内最強クラブをそのまま送り込むという手段もある。今回も、川崎関係の選手がチームの3分の1に迫っているが、ベトナム戦には川崎に数人の選手を補強したチームを送り込むことができれば、十分に戦えていたろう。
ベトナム戦でも、たとえば右サイドでサイドバックの山根視来とMFの田中碧が見事なコンビネーションを見せた場面があった。あそこで、右サイドハーフに伊東ではなく家長昭博がいたら、3人のコンビネーションだけでベトナムの守備網を切り裂くことができたかもしれない……。
とにかく、これからも“初戦”問題は日本代表を悩ませ続けることであろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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